状況の確認とジェスティエンについて
ギルドには、各ギルドを結んだ通信装置の魔道具が有る。
その魔道具を通じて、各支部や出張所との意思疎通を行なっているのだ。
通信室に2人が入ると、直ぐに魔道具に手をかざすと、鏡に相手の顔が浮かび上がった。
相手は、ツカ辺境伯領にあるギルド出張所の所長である。
「すまない。 待たせてしまったようだな。」
「いや、私も今きた所だ。 待ってはいない。」
「そっちの様子はどうだ? 」
出張所の所長は、顔を顰めると、困ったように答えた。
「どうもこうも無い。 ツノネズミリスの大量発生で、被害が酷いことになっている。 あいつら、普通の魔物と違って雑食だから、発生した周辺の穀倉地帯の1割がやられてしまった。 辺境伯の駐留軍が、対応しているが、なにぶん数が多すぎる。 包囲陣地に誘き寄せてから炎で殲滅するのだが、全く追いついてない。」
「そうなのか。」
ユーリルイスは、困ったような顔をする。
話を聞いた限りでは、駐留軍にも決め手となるような攻撃手段は無く、苦肉の策で何とかしているように思えたのだ。
「なあ、それより、ツカ辺境伯は、軍に要請を出したのだが、東の森の魔物の活発化によって、軍の派遣は難しいじゃないか。 それで、ギルドに軍本部から依頼が出てると聞いたが、それはどうなっている。」
ユーリカリアは、さっき、ルイゼリーンに依頼が回った事を知っているので、可能性のありそうなパーティーにやっと、話ができるところだった事を思い出しつつ答える。
「ああ、今、検討中だ。」
「おい、何言ってるんだ。 そんな悠長な事を言ってたら、ツカ辺境伯領は、全ての土地が使えなくなってしまうぞ。 あのツノネズミリスの通った後は、土地がやられてしまって、最低でも10年は使い物にならないんだ。 ツカ辺境伯領の穀物の国外輸出量を考えたら、小さな国一つ賄える程なんだぞ。 それが10年も使い物にならなくなったら、大陸の食糧事情も大きく変わってしまう。 早く対処しなければ、困るのは、ここの農民だけじゃなくて、世界中の低所得者達なんだぞ。」
「そんなことは分かっている。」
出張所の所長は、ユーリルイスの反応の悪さに、イラついた様子をするのだが、ふと、何かに気がついたように話し始めた。
「そういえば、今年度卒業したパーティーが帝都に入ったって聞いたぞ。 あの中に、とてつもなく強力な範囲攻撃魔法が使えるのが居るって聞いている。 そいつを派遣してくれれば直ぐに方がつくだろう。」
そう言われて、ユーリルイスは、苦い顔をする。
すると、後ろに居たルイゼリーンが話に入ってくる。
「すみません。 お話中に失礼いたします。 その依頼なのですが、Aランクパーティー限定になっているんです。 なので、今仰っていたジューネスティーンのパーティーランクだと、受けさせる訳にはいかないのです。」
それを聞いて、魔道具の鏡に映った顔が上を向いて、手で額を抑えている。
だが、ジューネスティーンと聞いて、鏡の向こうの表情が変わったように見えた。
「ああー、思い出したぞ。 あの連中、能力的には、Aランク以上って聞いたぞ。 ジェスティエン達とジューネスティーン達の為に、SSランクとSSSランクを増設するとかって、本部では検討に入ったんじゃないのか? 実力的には、Sランクを付けても足りない位の連中なのに。」
「だが、付けることはできなかった。」
ユーリルイスが、ボソリと言う。
「そうなんだよ。 あのジジイ連中がいけないんだ。 どんなに実力が有ろうと、高等学校を卒業したEランク冒険者が、Aランクをつけるのはおかしいとかって反対したんだろ。 年齢的にも若い冒険者は、経験を積む事を覚えさせなければ、早死にするとかって、頭の硬い連中が反対票を入れたって! 」
ユーリルイスもルイゼリーンも困ったような顔をしている。
ルイゼリーンは、困ったとは思っても、ユーリカリア達に達成可能な依頼なのか確認しなければならないので、状況を確認する事にした。
「すみません。 そのツノネズミリスなのですが、今は、どの程度の数が発生しているのでしょうか? 」
魔道具の鏡に映っていた所長は、嘆いた表情を見せていたが、ルイゼリーンの言葉で、表情を元に戻した。
「ああ、すまなかった。 数の方は、約1万匹にまで膨れ上がってきている。 それに今も数はどんどん増えていると言う話しだ。」
「1万匹ですか。 通常の10倍ですね。」
ルイゼリーンは、数を聞いて、ウィルリーンの魔法が有効なのか気になった。
確かにウィルリーンは、範囲攻撃魔法が使えるだろうが、その数を相手にして一度に全部の魔物を倒すのは不可能だろうと思ったのだ。
そうなると、今、駐留軍が行っているような包囲陣地のような場所に、数十匹単位で誘き寄せてから陣地の中で範囲攻撃魔法を放つ事になる。
仮に20匹単位で行ったとすれば、500回同じ事を行う必要がある。
釣り役の安全度を考えれば、一度に対応する魔物の数は、少なくすませたいのだが、そうなると、ウィルリーンのような魔法士に負担がかかる。
討伐にどれだけの日数が掛かるのか、増え続ける魔物とイタチゴッコになりそうなのである。
「なあ、ジェスティエンを派遣してもらうってのはどうなんだ? あいつの銃なら、遠距離から狙撃って手もある。 弾丸は本部が用意しているのだから、弾丸さえ魔物の数以上に用意できたら、倒す事も可能なんじゃないのか? 」
「どうだろうか? 本部次第なのだが、ただ、1万匹の魔物に、銃で一発一発倒していくってのもいい手間じゃないか。」
銃を撃つ、弾丸を込める、そのレポートを確認した事を、鏡の向こうの所長は思い出したようだ。
「そうだな。 あそこのパーティーは、6人だったな。 1人1666匹に対応することになるのか。 ・・・。 殲滅するのに10時間はかかりそうだな。」
「そうだ。 その間、確実に彼らを安全に守る場所も必要になる。 それに、全弾命中なんて事は考えられないからな。 殲滅にはもっと時間がかかるだろう。」
ユーリルイスは、現実的な部分も含めて話をした。
「そうなんだよなぁ。 あの連中、攻撃力は高くても、着ているものは、一般人と大差無しだからなぁ。 襲われたら、即死だわな。」
鏡の両側で、がっかりしたような表情を見せている。
「ああ、そういった戦場だと派遣は難しいだろうな。」
ジェスティエンの派遣は、無理が多い事も分かっていて、話さずにはいられなかったのだろうが、現実味の低い方法なので、直ぐに話は打ち切られた。




