剣 〜研ぎの準備〜
ジューネスティーンは、建具に置いた剣の温度を下げるまでの間に剣を研ぐための用意を始めていた。
手桶より少し大きめの桶を持ってくると、水魔法で水をはり、その中に砥石を沈め先程の手桶の水を排水溝に流した。
そして、新たに手桶に水をはると使った布を洗い綺麗にした。
そんな中、シュレイノリアは、剣の刃側にできた紋様を見ていた。
シュレイノリアは、自分が提案した焼き入れなのだが、それによって思わぬ副産物があったと思い、その紋様のデザインを考えていた。
それは、自分の衣類なりジューネスティーンの衣類を作る時のデザインの土台になるのではないかと思ったようだ。
そして、衣類に魔法を施すことで、様々な効果を与えている。
ジューネスティーンのシャツには、鍛治の熱さに耐えられるように熱を放出するように施していたので、それが、デザインのようになっていた。
ただ、それは機能的なデザインではあるが、この剣に出来た紋様は、それとは違いがある。
この紋様は、焼き入れによって作られていたので、魔法紋のような何か仕事をするものではなく見せるだけのものだった。
機能的なデザインではなく、ただ、見せるだけのデザイン。
それは偶然の産物なのだが、シュレイノリアには、その紋様について何か気がついたようだ。
剣の汚れをジューネスティーンが取り除いたことで、刃の紋様が良く見えるようになったことで、シュレイノリアは、それを気にしていた。
シュレイノリアは、見た目の美しさについても興味を持ったようだ。
剣は、刃側にも薄く泥を塗って波紋を調整する。
流れる波のような波紋を、裏も表も同じように作ったり、一本の線にしたりと、様々な紋様を作ることが可能となる。
しかし、ジューネスティーンは、刃には泥を付ける事は無く焼き入れを行った。
それによって、水蒸気の泡の影響を大きく受けた垂直に伸びる紋様が出ていた。
そして、水蒸気は、水の中では一気に水面に向かって浮き上がる事もあり、刃の表面を這うように駆け上る事によって、縦に竜巻のような紋様を浮かべていた。
シュレイノリアは、その紋様を一つ一つ確認するように見ていた。
ジューネスティーンは、研ぐ為に用意した水桶に入れた砥石を確認した。
砥石は、乾いた状態では使う事はない。
目に見えない砥石の隙間に水分を含ませてから使う事になる。
一般的には、30分以上水の中に浸けてから使う事になるので、それまでは、時間が空く事になってしまったことから、ジューネスティーンはシュレイノリアの思うようにさせていた。
そして、ジューネスティーンは、炉の火の始末を行っていると砥石を水に浸けている時間も経過した。
ジューネスティーンは、そろそろ頃合いかと思い剣を見ると、剣を眺めているシュレイノリアを見た。
ジューネスティーンが火の後始末をしている間も、シュレイノリアは剣を見ていたようなので呆れたような表情で見た。
「おい、シュレ。そろそろ、剣を研ぎたいけど、いいか?」
ジューネスティーンは、焼き入れを終わらせた剣を見ていたシュレイノリアに聞くと、シュレイノリアはジューネスティーンを見た。
「ああ、この紋様は面白い。水蒸気によって、偶然、作られたんだ。これは、二度と同じ物が作れない、この刃との出会いは、一期一会なのだと実感していたんだ」
シュレイノリアの言った事は、焼き入れの際、刃を駆け上る水蒸気によって作られた紋様なので、次に同じことをしても全く同じ紋様になる事は無いので、その出来上がった紋様を、しっかりと頭の中に刻もうとしていたようだ。
「なあ、シュレ。その紋様だけど、焼き入れによって出来ているんだから、時間経過とか、使ったからとかで、変わってしまうなんてことはないだろう。もう一度、焼き入れを行わない限り、そのままの紋様のはずだよ。だから、今、そんなに目に焼き付ける程見なくても構わないんじゃないのか?」
「おい、お前は、これから、この剣を研ぐのだろう」
シュレイノリアは、ジューネスティーンの言葉にムッとしたような表情で言い返した。
「私は、この剣が研がれる前と後の様子確認するため、真剣に見ていたんだ」
ジューネスティーンは、焼き入れの前に剣の表面を整えていた。
それは、焼き入れした時に硬くした剣を研ぐ事で削り落としたくないと思ったからだ。
ただ、先程、剣を真っ直ぐにする為、軽く温めて金槌で叩いていた事により、わずかに凹凸ができていたので、それを修正するために、また、仕上げの砥石で修正する事にした。
その後は、鏡面仕上げの砥石を使って、顔が映る位まで表面を磨き上げる。
しかし、実用性を求める剣において、刃の表面を鏡面に仕上げる必要性は有るのかと言ったら疑問が残るが、ただ、出来た紋様について、もっと知りたいと2人は思った事もあり綺麗に仕上げようと思ったのだ。
「そうだな。綺麗に紋様が浮き上がったのだから、しっかり、確認しておきたいな」
そう言うと、ジューネスティーンも、今の剣の紋様をシュレイノリアの横に行って確認を始めた。
ジューネスティーンとしても、研ぎを行った前と後の変化を、しっかり、確認したいと思ったようだ。




