ホットドックと香辛料
カウンターに、皿に乗せられたホットドックと、木のカップに入れられたジュース、唐揚げの皿が届く。
ジューネスティーンは、支払いを済ませていると、シュレイノリアがトレーに料理の皿を乗せてアメルーミラに渡していた。
ジューネスティーンの支払いが終わると、ジュースはジューネスティーンが、唐揚げはシュレイノリアが、ホットドックはアメルーミラが持って、席を取ってくれていた4人が座るテーブルに移動する。
「丁度、全員が座れる席が空いたので助かったですぅ。」
座っているテーブルに、トレーを置くと、それぞれが、ホットドックとジュースのカップを取る。
全員が、食べ始めると、アメルーミラは、初めて食べるホットドックに興味をそそられたようだ。
「パンの中に入っている細長い物は、肉だったのですね。 でも、どうやってこんな綺麗な形になるんでしょう。」
アメルーミラが疑問を口に出すと、ジューネスティーンが解説した。
「中に入っているのは、ソーセージと言って、ひき肉を、腸の皮の中に入れているんだ。 それを茹でたり炒めたりして使うんだよ。」
「そうだったんですね。 それとこの赤いのは? 酸味があってとても美味しいのですけど。」
「ああ、ケチャップだね。トマトを煮込んで作った調味料だよ。 酸味はトマトの酸味だね。」
「へーっ、こんな調味料があったのですね。 とても美味しいです。」
「これに少しピリッとした辛味でも有ればもっと美味しくなるだろうけど、辛味の調味料って出回って無いからちょっと残念だね。」
「辛味ですか。」
アメルーミラは不思議そうに聞いている。
「多分、貴族や王族の人しか、そんな高価な調味料は使えないと思う。 辛味の調味料なら同じ重さの金と交換する事になるだろうからね。 新市街のような所には出回ってこないだろうね。」
ジューネスティーンが、調味料の話をしていると、横からアンジュリーンが割り込んでくる。
「きっと、旧市街の第一区画のレストランとかなら、食べられるかもしれないわ。」
「あっちならぁ、貴族も立ち寄るような、お店も有るでしょうからぁ、食べられるでしょうねぇ。」
そんな話をしていると、アンジュリーンが何かを思いついたようだ。
それをアメルーミラに提案する。
「なら、次は、第一区画のレストランで食事が出来るようになりましょう。 今よりもっと美味しい物が食べられると思うわ。」
アンジュリーンが言った、今より美味しい物が食べられる。
そう思うと、アメルーミラは、心が躍ったようだ。
そんなアメルーミラの表情を見て、アリアリーシャもアンジュリーンの提案に乗った。
「そうですねぇ。 次の目標ができましたぁ。 今度は旧市街のぉレストランでぇ皆んなで食事をしましょう。」
「ええ。」
アメルーミラは、おどおどしながらアンジュリーンとアリアリーシャの話に合わせる。
「何、他人事のように聞いているのよ。 あなたは冒険者として報酬をもらっているのよ。 その報酬を貯めて、今日の買い物のような幸せな時間と、それと美味しい料理を食べるんだって思うのよ。 それが次につながるのよ。」
(そうよね。 買い物も楽しかったし、このホットドックも美味しいわ。 冒険者としてお金を稼ぐ事ができれば、毎日とはいかなくて、時々、こうやって、楽しい時間を作ることも出来のよ。 何もかも忘れて楽しい思いができたんだもの。 それに買い物の時は、本当に、楽しかったわ。)
「そうですよね。 楽しい時間の為に仕事を頑張るでしたっけ。」
「そうよ。 あなたもこれからはそういう事の為に働くのよ。」
「そうですね。 これからは今日のような楽しみの為に働きます。」
アメルーミラが答えるのを全員が聞く。
「私も頑張って、金と重さで交換なんて調味料の、料理を食べてみたいと思いました。」
「ああ、そのいきだ。」
アメルーミラは、話の中で出てきた、金と同じ重さで取引される調味料があることに、少し驚いたようだ。
「でも、その金の重さと取引される調味料ってすごい物があるんですね。」
「ああ、何かの種らしいんだけど、どの国でも育たないらしんだ。 気候とか風土とかが影響して、どこの国でも育たないらしい。 限られた土地で、ごく微量の収穫しかないので、とても貴重なんだよ。」
アメルーミラの疑問に、ジューネスティーンが答えると、カミュルイアンが話に入ってくる。
「代わりになるような物が有れば、俺達にも辛味の調味料の料理が食べられるようになるだろうね。」
「そうなんだよなぁ。 塩味、酸味、甘味、苦味は聞くけど、辛味は出回ってないよね。」
「多分、辛味がこの世界にも流通すれば、食文化ももっと広がる事になるだろうね。」
カミュルイアンとレィオーンパードが、珍しく話に入ってきたのを、ジューネスティーンは、意外だと思いながら答えていると、アメルーミラが話に入ってきた。
「あのー、渋味も味に入るのでしょうか? 私の生まれたところでは、木になる実で、見た目は同じなのですが、食べてみたらとても甘かったと思って、同じ実を食べると、今度は、渋くて食べられない実が有るんですよ。 でも、かじってみて渋かったら皮を剥いて軒下に吊るしておくんです。 水分が抜けてシワシワになるととても甘くなる実が有るんですよ。 冬場にご飯の後に食べたりしたんです。 とても渋かったのがすごく甘くなるんです。」
「うん。 渋味も味覚の一つだろうね。 でも、渋味は隠し味程度じゃないと、とても食べられないと思うよ。」
「ええ、その渋い実は、かじってもそれだけで、みんなが吐き出してしまいましたから、渋味だけの料理は誰も食べないでしょうね。」
辛味の話からアメルーミラも話に入ってきたことで、なんとなくであるが、アメルーミラも打ち解けてきたように思えるようになったと、ジューネスティーンは考えていた。
「まあ、苦味も塩味も酸味も強すぎると誰も食べられないからね。 基本的に味というのは、食べ物を食べる為に必要なもので、上手く使うのが重要だろうね。」
「私には、この赤いケチャップの酸味だけでも、十分に美味しいと思いますけど、まだ、美味しくなる要素が残されているのですね。」
「ああ、ここに少しの辛味が加味されれば、もっと美味しくなるだろうね。 でも、無い物を望んでも仕方が無い事なので言っても仕方がないけど、でも、有ったら食文化が大きく進歩するだろうね。」
美味しと思っていたホットドックが、辛味が加わることで、もっと美味しくなるのだと聞かされて、アメルーミラは、ワクワクしていた。




