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剣 〜仕上げ 研ぎの準備〜


 ジューネスティーンは、1本の剣を焼き入れした結果、刃についた紋様が気になった。


 それは、シュレイノリアも一緒だった。


 その紋様は、焼き入れの際に蒸発していく水蒸気によって、色が濃くなっていたのだが、その紋様がお互いに気になっていた。


 付着していた粘土の泥は、指で弾いて落としていたので、残りは薄くピッタリと薄く付着しているものだけになっていた。


 ジューネスティーンは、その泥を落とそうと手桶と布を作業台に持ってきた。


 そして、手桶の中に手をかざすと半分程の水がはられた。


 ジューネスティーンは、水魔法で手桶に水をはったのだ。


 そして、布を濡らし水が滴らない程度に絞ると、建具に乗せてある剣を手に取って拭き始めた。


 一度、柄側から切先まで拭き取ると、汚れを確認し布の汚れてない部分で、また、剣を拭いた。


 そして、剣を建具に戻すと、布を手桶に入れて布を洗ってから布を少し硬めに絞った。


 その布で、今度は、上下に擦るようにして拭き取っていった。


 そして、粘土の土が残ってないか確認すると、所々、残っている土を取り除いていった。


 何度か同じ事を行って、ジューネスティーンは納得できたようだ。


 しかし、それは、表面に付いた粘土の泥だけで、泥を落としている間に気になり、剣を翳して柄から切先を見ていた。


 峰側に綺麗に反っているのは良いのだが、僅かに片方の鎬側に反っていたので、それが、ジューネスティーンには気になったのだ。


 そして、炉に火が入っているのを確認すると、焼き入れが終わった剣を、また、炉の中に入れ軽く吹子を使って空気を送りだした。


「おい、ジュネス。また、焼き入れをするのか?」


 その様子を見て、シュレイノリアが聞いた。


「いや、少し変な方に反っているから、それを修正しようと思っただけだ。軽く温めてから少し叩こうと思ったんだ」


 それを聞いてもシュレイノリアは、なんで炉の中に入れるのかと思いジューネスティーンを見ていたが、答えを聞いて納得するような表情をした。


 ジューネスティーンは、真っ赤になる前に剣を取り出すと、金槌で剣の側面を叩き出した。


 何度か叩くと、また、炉の中に入れて温め金槌で叩いていた。


 そして、柄の方から切先を見て納得すると、その剣を作業台の建具に置いた。




 剣が真っ直ぐになった事で、自分の仕事に納得すると、今度は、砥石が置いてある棚に移動した。


 そこに置いてある砥石は、荒砥から仕上げ用まで、様々な物が用意されていた。


 以前の転移者達も剣を作った人が居たのか、この鍛治工房には、様々な砥石が残っていた。


 そこから、石でできた砥石で、一番、目の細かい砥石を手に取ると、もう一つ一番端っこの方に置いてある、樹脂のような砥石を手に取った。


 ジューネスティーンは、その二つの砥石で剣を仕上げようと思ったようだ。


 しかし、ジューネスティーンの様子を見ていたシュレイノリアは、後から取った樹脂のような砥石を不思議そうに見た。


「ジュネス。その後から取った物は何だ?」


 ジューネスティーンは、指摘されたので、後から手に取った砥石を胸の辺りまで上げた。


「ああ、これか。これは、動物の皮から作ってある砥石なんだ。砥石は石から作られているだけじゃなく、表面を綺麗に仕上げる事は、石の砥石でも構わないけど、今回は、こっちの動物の皮でできた砥石で研いてみようと思うんだ」


 ジューネスティーンの答えにシュレイノリアは、まだ、よく分からないといった様子で聞いていた。


 そんなシュレイノリアにジューネスティーンは説明を続ける。


「ほら、その剣の刃に何だか紋様が出ていただろう。それを、しっかり確認したいと思ったんだ」


 シュレイノリアが、その紋様が出ている事を指摘したので、自分でも、もっとよく調べたいと思っていたようなので納得するような表情はしたが、それでも、何で動物の皮から作った砥石を使うのか理由が分からないようだ。


「この動物の皮で出来た砥石は、鏡面仕上げをするためのものなんだ。だから、石でできた砥石より目が細かいから、顔が映る位まで丁寧に仕上げてみたら、その紋様も、もっと良く分かるようになると思うんだ」


 そこまで、言われて、シュレイノリアも納得したようだ。




 石の砥石で仕上げても、顔が映るような事は無い。


 それは、石のような大きな粒子の物では、人の顔が映るような面は作れないので、もっと粒子の細かな物が必要になる。


 そんな中、動物の皮脂が石以上に目も細かい事もあり、表面の目に見えない凹凸を綺麗にしてくれる。


 それは先人達の知恵だった。




 ジューネスティーンの説明を聞いて、石の砥石で仕上がった時と、鏡面になるまで仕上げた時の違いを確認するのも面白そうだと、シュレイノリアも思った表情をした。


 しかし、また、何か疑問が生まれたようだ。


「おい、ジュネス。お前、動物の皮の砥石なんて、よく知っていたな」


 シュレイノリアは、感心したように言った。


「ああ、鍛冶屋では教えてもらえなかったけど、道具屋に行った時に聞いたんだ。石の砥石と一緒に置いてあって、何で、石じゃないものが置いてあるのか気になって聞いたら、道具屋の人が教えてくれたんだ。ああ、ほら、村の外れの方に動物を飼っている農家があっただろう。あそこの大きな動物の皮だったか、その皮下脂肪だったかを、乾燥させて砥石にするそうなんだ」


 シュレイノリアは、一緒に道具屋に行った時の事を思い出しているようだった。


 そして、ジューネスティーンが、店員と長々と話をしていた事を思い出したようだ。


「道具って、使っている人達は、なかなか使い方を教えてくれないけど、その道具を売る側は親切丁寧に教えてくれるんだ」


 それを聞いて、シュレイノリアも納得したような表情をした。


「おお、そうだな。売る側は、商品を買ってもらいたいから、便利な部分を丁寧に教えてくれる。……。うん、そうだな。道具を使う方法を知りたいなら、売る側に聞く。だな」


 シュレイノリアも、ジューネスティーンが動物の皮の砥石で鏡面仕上げを行える事を知っていた事に納得した。


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