スリングショットの実力
シュレイノリアが示した場所は、自分達が居る場所から20m程先、堀から5m程離れたところに綿埃のように蹲っているものが見える。
通常なら見落としてしまうだろうが、よく見たら生き物だと認識できる。
近付いて来た人や動物を捕らえるために地面に窪みを作って体を隠している。
ジューネスティーンは、アメルーミラに確認する。
「あの魔物は分かるか? 地面に綿埃が有るようになっているところ。」
「ええ、言われなければ、見落としていましたけど、確かに地面に身を隠して居ますね。 時々、動きがあります。」
ジューネスティーンは、アメルーミラの目も良いと思った様だ。
指摘された場所の綿埃のようになっているので、見落としがちなものを言われて、すぐに見つけて、微妙な動きも見分けてしまったのなら、遠くの魔物を探すのも、慣れれば早く見つけられると思ったようだ。
「あれをスリングショットで狙ってもらえるか? 当てても構わないが、当たらなくても構わない。 外れて、こっちに向かって来たら、俺達が対処する。」
魔物に、当たっても当たらなくても構わない事もだが、攻撃されたと思って、向かってきた魔物に対処せずに構わないと言われて、アメルーミラは、安心したようだ。
「分かりました。」
そういうと、杖の下を地面に差し込むように叩くが、硬い大地なので杖が刺さることはなかった。
アメルーミラは固定の為に、左足で杖の前に引っ掛けるように置くと、左手で杖を突っ張るように持ち、右手で小石をゴムに付いた皮に挟み込んで引く、一瞬、狙いを付けたと思うと、合図のために声をかける。
「撃ちます。」
そう言って、右手を離す。
ジューネスティーンは、狙いを付ける時間が短いと思ったようだ。
当てたいと思うなら、確実にと思って狙いに時間が掛かるだろうが、引いたと思った瞬間に撃つと言ったのを見て、迷いの無い行動だと感じたようだ。
アメルーミラの手を離れた小石は、一直線で魔物に向かうが、綿埃のようになった魔物の、5cm程上を通過して向こう側の地面に着弾する。
小石が自分の上を通過したときに、魔物は危険に晒されたとこを察知た様子で顔をあげる。
着弾すると、その場所を見てから自分達の方を向き、口の端を吊り上げ牙をむくと同時に、魔物は、ジューネスティーン達に向かって走ってくる。
魔物の目標は、アメルーミラに向かっていると直ぐに分かると、ジューネスティーンが前に出る。
「俺がやる。」
そう言いながら少し動いて、腰の剣を抜くと、数歩歩いて前に出て間を開けると、アメルーミラの前に、レィオーンパードが出て、腰の短剣を逆手に持ってかまえる。
ジューネスティーンなら抜かれる事は無いが、万一の場合は、レィオーンパードがアメルーミラをガードするように立ったのだ。
向かって来た魔物は30cm程の子犬のような体長に、体長と同じ位の尻尾を持っており、耳がウサギのように長い。
魔物は、攻撃して来たアメルーミラに向かっていたのだが、その直線状に2人が入ってきたので目標を一番前に居るジューネスティーンに切換えると2m程手前で飛び上がり、ジューネスティーンの首筋に噛みつこうとする。
後少しというところで、ジューネスティーンは剣を下から斬りあげる。
魔物は、下からきた刃に前足と首を、一気に斬り落とされる。
ジューネスティーンは、鞘から剣を引き抜きざまに、一気に振り上げて魔物の首を薙ぎ払ったのだ。
弧を描いて魔物の首と胴体、首を斬る際に一緒に斬った前足が地面に落ちると、魔物から黒い霧が出ていく。
黒い霧が無くなると、胴体の落ちたところに小さなコアが残る。
ジューネスティーンは、そのコアを拾いアメルーミラにコアを渡しながら声をかける。
「スリングショット、面白い武器かもしれない。」
「でも、当たりませんでした。」
「当たらなかったのは、多分その小石のせいだと思うよ。 重さや形状によって色々な影響を受けるからね。重ければ、初速も遅くなるだろうし、表面が凸凹だったらその表面の凸凹によって空気抵抗の差が生まれるからそれで方向も変わってくる。 それと使っている石の重心がズレていれば重心の方向に曲がるだろうからね。」
アメルーミラにそう話すと、ジューネスティーン自身の中である事に気がついたようだ。
だが、ジューネスティーンの話を聞いて感心するアメルーミラが、話しかけてくるので、閃いた事についての考察は一先ず置いておく。
眠りから覚めて直ぐではなく、今の時間なら閃きが記憶から消される事はない。
「なら、なるべく軽い石を使った方が良いのかしら。」
「軽ければ、初速は速くなるだろうけど、空気抵抗に大きく影響されるだろうし、それに横風の影響も受けるだろうね。 重ければ空気抵抗の影響は受け難くなるだろうけど、その分初速が落ちるだろうから、飛距離は落ちるね。 飛ばすという事から、弓矢とかも飛ばす物なので、横風の影響とかはアンジュとカミューに話を聞いてみるといいよ。」
それを聞いてアメルーミラは悩み出す。
「そうなると、私が使っている小石だと、一つ一つ弾道は違ってくるって事ですね。」
「近くなら問題ないだろうけど、距離が長くなると不確定要素の影響がが大きくなるだろうね。 まぁ、そう言ったものは、経験が物を言ってくるだろうから、石の形とか重さとかでの違いでどうなるのかを沢山撃って覚えるしかないだろう。 本当にスリングショットだけで倒そうと思ったら、弾丸も考えないと難しいかもしれないね。 でも、今のようにスリングショットが外れても次の手が打てれば問題無い。 それに、その杖型にした事で命中精度も上がっていると思うよ。 人が手に持つだけだと右手で離した時に固定していいる手の方がブレるだろう、それに今の杖型にしたことで地面に固定できるから命中精度は上がっていると考えられるし、外れた後に襲われた時に最悪はその杖で倒す事も可能だから、実戦向きなスリングショットになったんじゃないかな。」
そう言われて、偶然に作った杖型のスリングショットが好印象を与えたようなのでアメルーミラはよかったと安心する。
「そうですね。 昨日もスリングショットで倒したというより、外れてこの杖で倒したみたいな感じになってしまったのもありました。」
「偶然にしても、その長さにしたので、攻撃の手数が増えた事が良かったよね。 それで、その杖で魔物を倒したのなら剣の扱いも直ぐに慣れるだろう。 スリングショットは分かったから今度は剣に慣れてもらおうか。」
そう言って、アメルーミラに、次の課題を与えることにした。
ジューネスティーンは、アメルーミラが、冒険者として、今時点で、どれだけできるのか、気になったようだ。




