帝都の南の魔物
アメルーミラをルーミラと呼ぶことに決まると、アンジュリーンは、気持ちを切り替えて、これからの予定をどうするのかと、ジューネスティーンに尋ねる。
「ところで、狩場はどこにする。」
「最初は、帝都の周辺で行おう。 その様子を見てから、場所を変更してもいい。 とりあえず、様子を見てからにする。」
そう言って、宿屋を出る。
宿を出ると、ジューネスティーン達を、いつものように、向かいの金の帽子亭のテラスにいる、ヲンムンが伺っていた。
アメルーミラは、ヲンムンの方を見ずに、ジューネスティーンについて行く。
いつもは、カミュルイアンと一緒に来るレィオーンパードがアメルーミラの横を歩く。
その後ろをアンジュリーンとアリアリーシャが並んで歩いている。
アンジュリーンが後ろに居るカミュルイアンに、嫌味を言う。
「今日は、1人になっちゃったね。 1人だと危ないから、姉さんの横を歩きなさい。」
振り返りながら言うと、足を早めてアリアリーシャの横にくる。
「まぁ、色々教える事も有るだろうから、良いんじゃないの。」
そう言うと、アンジュリーンはアメルーミラの様子を伺っている。
すると、アリアリーシャも、カミュルイアンの横に移動して、アンジュリーンとアリアリーシャが、カミュルイアンを挟むように歩き出す。
「今日は、私たちが一緒ですぅ。 いつのもウィルリーンさんと、シェルリーンさんの様な事はできませんけど、レオンにフラれたカミューを労ってあげますぅ。」
「ばっ、馬鹿なことを言わないでよ。」
「あらー、私達じゃ、不足なの? じゃあ、少しサービスしてあげるわ。」
そう言うと、カミュルイアンの腕に腕を絡めると、それを見ていたアリアリーシャも面白がって、自分も反対の腕に自分の腕を絡める。
「カミュー。 こっちの腕は私に貸してください。 少しだけ、パートナーの居ない私に、パートナーの気分を味あわせてくださいぃ。」
アリアリーシャは、寂しそうな顔で、カミュルイアンの顔を覗くようにして、カミュルイアンの腕に抱きつくように胸を押し当てる。
さすがにカミュルイアンも困ったようだが、アリアリーシャにそんな顔をされると、断りきれない様子だ。
「わかったよぉ。 じゃあ、狩場に行くまでは、好きに居ていいよ。」
恥ずかしそうに、顔を赤くして答える。
「まあ、カミューったら、アリーシャに、や・さ・し・い。」
アンジュリーンは、少し妬いたような口調でカミュルイアンをからかう。
カミュルイアンは、少しムッとした様な顔をする。
ただ、アンジュリーンとアリアリーシャは、後ろからくるヲンムンから、前を歩く4人を確認出来ないように隠しているのだ。
だが、カミュルイアンには、そんな、女子2人の考えは、気がついて無かったようだ。
7人は、ギルドの前を通過して、そのまま、南門から、帝都の外に出ると、その先は草原になっている。
草原と言っても、短い草が、所々、生えている程度で、どちらかと言うと砂漠に近い。
この辺りに住む魔物は、人も襲うが、攻撃力も低い小型の魔物が多い。
ただ、俊敏性が高く、気がついた時には襲われていることが多いので、常に警戒が必要になる。
魔物は、地面に巣穴を作って隠れ、通りがかった小動物を襲って餌にしているのだが、時々、人も襲われることがある。
攻撃力は低いのだが、隠れて襲いかかる速度も速い事から、攻撃力は低くても、同じ程度の攻撃力の魔物より、高いランクが設定されている。
この帝国で新人冒険者が育たないと言われている理由は、この魔物の敏捷性の高さで、新人の冒険者には、その敏捷性についていけずに、命を落とすことが多いと言われており、帝国で冒険者になろうとする者は、近隣諸国のギルドに行き、ある程度の力を付けてから戻ってくる。
戻って来る頃には、B・C・Dランクになっているので、帝都周辺の魔物には、目もくれずに、別の魔物を狙うようになる。
そのため、帝都周辺の魔物は比較的多く残っている。
南門を出て、西に少し行くと、ジューネスティーンが止まり振り返る。
「じゃあ、この辺で始めるか。」
アメルーミラに伝える。
「昨日、どういった感じで魔物を倒してたか見せてくれ。」
そう言われても、付近に魔物の姿は見えない。
「少し待ってください。 その辺の小石を少し集めます。 昨日の残りは少し有りますけどこれだけなので。」
そう言って、ポケットから5粒の小石を出した。
「それだけでいいよ。」
そう言うと、シュレイノリアに向くと指示を出す。
「この前のアトラクトで、少しだけ魔物を集められるか? 」
ジューネスティーンの魔物を集めると言った。
(ああ、魔物を集めることができるのか、これは報告しなければいけないのか。)
アメルーミラは、その話を覚えておくことにする。
「多分、指向性を持たせれば何とかなる。 2〜5体位なら大丈夫だと思う。」
ジューネスティーンは、最後の、 “思う” が気になったようだ。
シュレイノリアの思うは、いい加減なので、ダメだった時の対処もジューネスティーンは、周りを確認しながら考えているようだ。
(後ろに帝都の堀と城壁が有るから、それを利用して、反対側の半分なら、誰が対処しても一発で倒せるな。)
ジューネスティーンは、安全性を考慮してから全員に声をかける。
「じゃあ、全員で警戒、ルーミラには南方向から来る魔物に対応してもらって、フォローは、レオンに対応してもらう。 後は西と東を2人ずつ対応ってところかな。 西は、俺と。」
そう言うと、アンジュリーンが、戦術的な話をする。
「弓は、別れた方が良いから、私も西を受け持つわ。」
「そうだね。 オイラは、東側に配置するね。」
「じゃあ、私は、カミューと一緒にぃ、東側にいきますぅ。」
そう言うと、シュレイノリアが、自分のアトラクトで、周囲の狙ってない魔物が集まってくると、メンバー達が、思っている事に少しイラついているようだ。
「私の事、疑ってるのか。」
全員が、シュレイノリアを見る。
先日のアトラクトの魔法で、全方位から魔物が現れた時のイメージが残っているメンバー達は、全員、何を言っているという顔をするが、本当の事を言って、シュレイノリアにヘソを曲げられると厄介だと思い、言い訳を考え始める。
「え、え、な、何を言っているの。 私は最悪の状況を考えているだけです。」
アンジュリーンが、焦って言う。
「そ、そうだよ。 最悪の場合だよ。」
カミュルイアンが乗っかる。
「・・・。」
シュレイノリアが沈黙するので、ジューネスティーンが、フォローを入れる。
「お前のアトラクトだけじゃなくて、イレギュラー的に現れる魔物も居るわけだから、そういった魔物に対処するのも必要じゃないのか。 今日は、アメルーミラの試験なのだから、そういったイレギュラーは、排除しておかなければ、試験にならないだろ。」
「・・・。 そうかもしれない。」
シュレイノリアは、納得し難い顔をしている。
「それに、アトラクトが、上手く指向性を持たせる事が出来るか見せてもらいたい。 それが可能なら、今後の戦略上大きな意味を持つ。 ピンポイントで引き寄せられるなら、こちらは戦力分散させる必要が無くなるから、有利な条件で戦えるだろ。 俺達のパーティーは、お前の魔法に掛かっているんだからな。」
「・・・。 分かった。」
何とか、納得させるジューネスティーンに、他のメンバーは、胸を撫で下ろす。
その様子を、アメルーミラは、不思議そうに見ていた。




