剣 〜焼き入れ〜
ジューネスティーンは、炉の中に入れた剣を見つつ吹子を前後に動かし、炉の中の剣が熱せられて光り輝いている色を確認していた。
そして、そろそろ頃合いかと思ったのか、吹子から手を離すと大きなペンチを使って、熱している剣の柄の部分を持つと、治具に固定されてい部分から柄を抜いて、炉から外にゆっくり取り出した。
その出した剣をかざし、以前、ちらりと見ただけだった記憶の中の鉄の色と輝きが同じかどうか見比べていた。
「ちょっと、輝き方が弱いかもしれない」
ジューネスティーンは、ポロリと言った。
「ジュネス。きっと、炉の中と炉の外では、少し違いが出るのだろう。炉の中は、壁や天井の反射で剣が光り輝きやすくなるだろうが、室内だと反射して照らすこともない。それで違いが出るだろうな」
ジューネスティーンの言葉にシュレイノリアは反応して解説していた。
そのシュレイノリアの解説を聞いて、ジューネスティーンも納得したような表情をし剣を炉の中に戻して固定すると吹子で空気を送った。
わずかではあるが、先ほどより少し強めに風を送り出していた。
自分の納得するような輝きになってなかったことから、少し強く風を送り出したようだ。
しかし、すぐにその勢いを弱め、炉の中の剣を見つつ、同じように少し強めの風を送るように調整していた。
そして、また、熱した剣を出しては表面の輝いている色を確認すると直ぐに戻して吹子で風を送っていた。
その作業を何度か繰り返すと、ジューネスティーンは納得するような表情をするとシュレイノリアを見た。
「多分、この温度の色が適していると思う」
「そうか」
2人は簡単なやり取りをすると緊張した表情に変わり、シュレイノリアは桶を横から見える位置に移動し、焼き入れの状況を、しっかり確認するために側面からよく見える位置に移動した。
シュレイノリアとしたら、焼き入れによる素材の結合具合の変化をもたらす事で剣に反りを持たせられると提案した。
この峰側に塗った粘土の泥によって峰側に反ってくれれば、最高の結果なのだが、逆に刃側に反ってしまったらと思ったら気が気ではないようだ。
炉から出した剣をジューネスティーンは、水桶の上に水面から30センチ程のところに、水面に刃を向けて剣を持っていくと、ジューネスティーンは、一瞬、シュレイノリアを見た。
そして、直ぐに視線を剣に向けると、一気に剣を水桶の中に入れた。
高温の剣が常温の水の中に入ると水が蒸発し、その音が工房内に響き渡ると、シュレイノリアは、ゾッとしたような表情を向けて水の中に使っている剣を見ていた。
高温に焼かれた剣が水の中に入った事により、鉄の表面から発生する水蒸気を見つつ、その音を聞いて息を呑むように見ていた。
ジューネスティーンは、手に持ったペンチで押さえている剣に集中していた事と、それと見ている方向が柄の方向からだった事もあり、シュレイノリアの表情も見る事は無く、ただ、剣を丁寧に水の中で固定することだけを考えていた。
高温に熱せられた剣といえど、水の中に入れておけば温度は下がる。
高温に熱せられた剣は光り輝いていたが、温度が下がるにつれて鉄色に戻り、そして、急激な温度変化は、峰側に塗ってあった粘土を部分的に剥がしていた。
剣の温度が下がり沸点の100度より下がると、剣の表面から出る水蒸気の泡もなくなった。
するとシュレイノリアの表情は、先ほどの剣を水の中に入れた時とは異なり、かなり、緊張感が無くなっていた。
シュレイノリアは、水の中に入った瞬間の様子も、水の中で剣が水の沸点以下に下がるまで、視線を外す事なく側面から見ていた。
そして、最初に入った時と出てきた時で表情が大きく変わっていたが、ジューネスティーンは、そのシュレイノリアの様子を確認する事は無かった。
ジューネスティーンとしたら、シュレイノリアの様子よりも焼き入れをした剣の方が重要なので黙って見つめていた。
そして、ジューネスティーンは、剣から立ち上がる水蒸気がなくなると、水桶から水面に平行に、ゆっくりとあげた。
水面からは、切先とペンチで持った部分が、先に水面から出ると、切先が出ると最後に中央部分が水面から出た。
焼き入れの為に水に入れた時、わずかに切先側を下げて入れていたので、その時の角度のまま引き上げた。
その剣は、都合良く峰側に反りが入り弧を描いていた。
付着していた水は、刃を伝って剣の中央部分に集まると滴っていった。
ジューネスティーンは、雫がほとんど落ちなくなると、出した剣をペンチで持ったまま、上に掲げるようにし剣の反り具合を確認すると、ニンマリと笑顔を作った。
「シュレ、この剣、峰側に曲がっている。こんなに上手く曲がっているよ」
そして、ジューネスティーンは、実験を行った泥の厚みによる反りの入り方を確認するように、柄の方から切先に向けて反り具合を確認していた。
その反り具合も切先側は弱く、そして、柄に向かうにつれて徐々に大きくなっていた。
「焼き入れが遅ければ、その分、反りが大きいようだね」
ジューネスティーンは、反りの様子を声に出して述べるのだが、シュレイノリアは、いつものように何も言ってこないことが気になり、視線を剣からシュレイノリアに向けた。
すると、そこには脱力した様子のシュレイノリアがいた。
「ん? どうかしたのか?」
ジューネスティーンは、そのシュレイノリアの様子が気になったようだ。
すると、シュレイノリアは、その場にへたりこんでしまった。




