アメルーミラの考え
アメルーミラは、ジューネスティーンの、南の王国までの渡航費用を出す提案に対して、必死に思考を巡らせる。
自分の受けている命令は、ジューネスティーン達のパーティーに潜入する事なのだ。
その命令を受けている限り、遂行できなければ、奴隷紋の痛みに襲われるのではないか。
奴隷紋の解放の時の痛みが頭をよぎるのだ。
耐え難い痛みの事を考えれば、今の状況を何とか打破しなければ、アメルーミラに未来は無いのだ。
すると一つの答えをみつけると、アメルーミラは、ジューネスティーンに応える。
「そうなると、私自身を守る事が出来ません。 父も居ませんし、これからは、自分自身で身を守らなければなりません。 女一人の旅で、盗賊に襲われる事がどれだけ不安なのか、あなたにわかりますか。 捕まったら女は嬲られるだけ嬲られて飽きたら奴隷に売る。 その恐怖があなたにわかりますか。 私はもうごめんなんです。 獲物を弄ぶ様に嬲られるなんて事にならない為に、私は力が欲しいんです。」
そこまで言って、自分の腰が席から浮いている事に気がつくと、慌てて座り直す。
その話を聞いていたアンジュリーンとアリアリーシャの顔は、今の言葉に何かを感じた様だ。
2人は、一瞬鋭い顔をした。
「私に、どれだけの才能があるか、自分でも分かりません。 でも、父が言っていたことで、 “力が欲しかったら力の有る人の近くに行く事だ。 俺の工芸品も上手な人から技を学ばせてもらったんだ。” と、言ってました。 だから、強力な魔物を倒した、あなた方のパーティーの近くで技を見たいんです。 ただ、それだけなんです。 荷物持ちでもかまいません。」
そう言うと下を向いてしまった。
ジューネスティーンは、メンバーを見る。
さっきの、 “私はもうごめんなんです。” のくだりから、ジューネスティーンと、女子2人は、このアメルーミラの身に何が有ったのか大凡気が付いた様だ。
だが、バスルームで確認した時に、胸にもどこにも奴隷紋が無かった事を、女子達は知っている。
本当の様に思えるが、奴隷になった事は無いのではないのかと、アンジュリーンとアリアリーシャは、思っているので、可哀想な話だとは思うのだが、信用するところまでには至らないのだ。
しかし、シュレイノリアだけが、なにかを確信した様に沈黙している。
ただ、カミュルイアンとレィオーンパードは、話を聞いて同情している。
「にいちゃん。 この人の事、何とかならないかな。」
レィオーンパードが言うと、アメルーミラは、一瞬光が見えた様に、ピクリと肩を動かすが、ジューネスティーンは、どうしようか悩んでいる。
「そうは言っても、明かに実力差が大き過ぎるから、一緒に組んで魔物を狩るって訳にはいかないぞ。」
そう言うと、今度は、カミュルイアンが、ジューネスティーンに話をする。
「とりあえず、見習いみたいな感じで、狩りに同行してもらったらどうかな。 見様見真似でスリングショットを、ゼロから作って、何とか稼ぐ事が出来たのなら、それなりに才能有りって事じゃない。 遠目で、オイラ達の狩りを見ていれば、それなりに、何か掴むかもしれない。」
それを聞いていたアンジュリーンが、問題点を告げる。
「これだから男子達は、チッ! 」
アンジュリーンは、舌打ちして、苦虫を噛むような表情をすると、話を続ける。
「非戦闘員みたいなのを同行させたら、それを護らなきゃいけないのよ。 戦闘の最中に、余計な事考えていたら・・・。」
アンジュリーンは、一呼吸おくと、鋭い目つきになる。
「誰かが、死ぬよ。」
それを聞いた、レィオーンパードが、スリングショットを自作して、魔物を倒す事ができた事で、素人とは言い難いと考えたのだ。
レィオーンパードは、何とか、アンジュリーンに反論する話を探している。
帝都周辺で、素人の冒険者が、簡単に狩りができる様な場所ではない。
攻撃力はそれほど高くないが、移動する速度が速いため、速度に慣れてない新人には、中々、難しい場所とされている。
通常の冒険者なら、一般的に使われる武器は、剣か槍となる。
近接戦闘を行う際には、個々に誘き寄せるのではなく、魔物に近づいていって戦う事になる為、大体の冒険者は、一度に数匹の魔物と戦うことになり、大怪我をしたり、場合によっては、命を落としたりしているのだ。
アメルーミラに関しては、スリングショットによって、1匹の魔物を誘き寄せていた事が幸いして、常に1対1の戦いに持ち込んでいた事と、猫の亜人の持つ動体視力の良さと、反応速度の良さが備わっていた事が、偶然にも、その日1日を生き延びられたと言える。
もし、ギルドのルイゼリーンが気を利かせて、ギルドの剣の貸し出しを行なっていた場合は、また、違った結果になっており、、アメルーミラは、金糸雀亭に来て、ジューネスティーンと出会えなかった可能性の方が高かったといえよう。
ルイゼリーンとしたら、アメルーミラに剣を貸し出すより、スリングショットを教えた方が、アメルーミラの生存の可能性は低いと考えていたのだが、むしろ、剣を貸し出した方が、複数の敵と遭遇した可能性が高くなり、アメルーミラの生存の可能性が低かったのだ。
スリングショットによって、1匹毎の魔物と対峙していた事で、生き残る可能性を上げていたのだ。
ルイゼリーンには、可能性の低い生存率の案を与えたのだが、アメルーミラは、その生存率を、棍棒にも使えそうな杖にした事で、大きく上げて、ギルドの剣を貸し出した時より、大きく上げてしまったのだ。
可能性の低い勝率を、アメルーミラ自身が、偶然でも勝ち取った事で、こうしてジューネスティーンと話ができているのだ。
レィオーンパードは、アメルーミラに同情して、何とか、メンバーとは言わないまでも、一緒に同行出来る様にと考えていた。
レィオーンパードは、閃いた様だ。
表情を変えると、話だした。
「だったら、テストしてみたらどう? それで、使えるのか、見込み有りなのか、ダメなのか決めてみたら。」
レィオーンパードが、提案を出した。
それを聞いて、アンジュリーンは、どうしたものかと悩んだ様な顔をする。




