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アメルーミラの話


 3杯目を食べ終えたところで、また、新しい皿と入れ替えられると、アメルーミラが、ミューミラに声をかけた。


「もう、そろそろ、お腹が一杯ですので、これで最後にして下さい。」


 アメルーミラが、新しい料理を持ってきてくれたミューミラに伝える。


 それを聞いてジューネスティーンが、アメルーミラに尋ねる。


「もう、大丈夫ですか? 」


 声を掛けると、すぐに返事を返してくれた。


「ありがとうございます。 やっと落ち着きました。」


 それならと思って、本題に入る事にする。


「それじゃあ、食べながらで良いので、少し話しても良いかな。 出身は? 」


「北の王国です。」


「帝国には何をしに来たの? 」


「父と一緒に、向こうで作った工芸品を帝国に売りに来たのですけど、道中で山賊に襲われて命辛々、私だけ逃げてきました。」


「冒険者になったのは何故? 」


「私は父の様に細工ができるわけでは無いので、冒険者になる位しかお金を稼ぐ方法が無かったから、それで、冒険者になりました。」


(私、何でこんなにスラスラと答えられるのかしら。)


 アメルーミラは、ハキハキと、ジューネスティーンの質問に答えていく。


「それじゃあ、ある程度稼ぐ事が出来たら、国にかえるのか? 残してきた家族の元に。」


「いえ、北の王国では父と二人暮らしでしたから、南の王国に行こうと思ってます。」


「俺たちの事は、何で知った。」


「たまたま、人が話しているのを聞いただけです。 南の王国から来た冒険者で強い魔物を倒した人達が居るって話してるのを聞きました。 人属・エルフ・亜人の混成パーティーだとも聞きました。 その話の中に、こちらの宿屋に入るのを見たと言ってましたので、それで、頼んでみようと思ったんです。」


「お父さんは? 」


 それを聞くと、寂しい顔をするので、まずい事を聞いてしまったと思ったが、アメルーミラは答えてくれる。


「多分、殺されたと思います。 私を逃してくれた後に、お父さんの悲鳴を聞きましたから、恐らく。」


 そう言って、耳を両手で押さえる。


「怖くて見れなかったけど、あの時のお父さんの悲鳴は、今でも耳に残って。」


 目から涙が零れるのを気にもせず、耳を押さえている。


「済まなかった。 嫌なことを思い出させてしまったな。」


「いえ。」


 ジューネスティーンは、嫌な事を思い出させてしまったと後悔しつつ、次の話題を探す。


(そういえば、この子の持っていた杖は何だったんだろう。)


 杖なら魔法職というイメージがあるが、この子には魔法職の持つ独特の感じが無いので、最初に見た時に不思議に思ったことを思い出したのだ。


 それと、杖にはゴムが付いていたのを思い出して、ジューネスティーンは聞く。


「ところで、君の杖だけど、変わった感じだったよね。」


「そう、それ、俺も気になってた。 不思議な杖だと思った。」


 レィオーンパードが話に参加してきた。


 アメルーミラは、話題が変わってホッとしている。


「ギルドの受付の方が教えてくれたんです。 スリングショット用のゴムだけ買ってY字の木に付ければ作れると聞いて、林の木の枝を折って、河原の石を使って作りました。 杖になってしまったのは、たまたまです。 折れた後に短くする道具が無かったので、そのままにしました。 それに、杖にもなるから、歩く時に便利かと思ってそのままです。」


 杖の下の方には殴った様な跡が有ったので、杖だけで無く棍棒としても使っていたのだろうと、ジューネスティーンは、思った様だ。


「稼ぐ事はできましたか。」


「ええ、帝都周辺の雑魚ばかりですが、何とか倒して魔物のコアを売りましたので、少しだけ手元に入りました。」


 アメルーミラは、ジューネスティーンに答えながら、不安が過った。


(このままだと、自分で稼いで王国に向かう様になってしまうかもしれない。)


 アメルーミラは、1人で魔物を倒して、稼いでしまった事を、話してしまった事が、失敗だったのではないかと思った様だが、ジューネスティーン達の反応は異なっていた。


(ちょっと待て、今の話からすると、この子は冒険者になって、すぐに、帝都界隈の魔物を倒したのか。)


 ジューネスティーン達は、新人が、帝都の周りで魔物を狩るなんて話を、聞いた事が無かったので、少し驚き気味にしている。


 アメルーミラは、その周りの反応に不安になってしまっていた。


 ただ、ジューネスティーンだけは、アメルーミラの話を聞いてまとめていた。


 話を要約すると、ジューネスティーンは、アメルーミラに話しかける。


「成る程、帝都周辺の魔物だと宿代や食事だけでやっとだな。 それにうちのパーティーには亜人も居るから、それで尋ねてきたって訳かな。」


 助かったと思ったアメルーミラが、それに同意する。


「ええ、そんな感じです。」


 ジューネスティーンは、どうしたものかと思った様な顔をする。


(何となくだけど、話の辻褄は合っているのか。 シュレが何か気がついた様だから、後で話をすると言ったんだろう。 このタイミングでパーティーに入れるのは、どうかと思うんだよなぁ。 まあ、もう少し話をしてみるしかないのかな。 じゃあ、少し意地悪な質問をしてみるか。)


 一つの提案をすることにした。


「提案なんだが、俺が南の王国までの費用を出すから、このまま帝国を出るってのはどうだろうか。」


 慌てるアメルーミラは、そんな事になったら、ヲンムンの命令に背く事になると思い、慌てた表情をする。


「それは。」


 そう言うと、後が続かない。


(どうしよう。 そんな事を言われるなんて思わなかったわ。 ヲンムンとの関係が無ければ、とてもありがたい話だけど、私は彼の奴隷として、このパーティーに潜入しなければならないのだから、その話はのめない。 どうすれば、・・・。)


 そんなアメルーミラを見て、ジューネスティーンが尋ねる。


「それは、どうなんだ。」


 ジューネスティーンは、少しだけ意地悪な言い方で尋ねると、アメルーミラは、命令に反いた時の胸の痛みを思い出していた。


(私は、命令に叛いたら、胸の奴隷紋が痛むのよ。 それに、あの、奴隷紋解放の時の、とんでもない痛み、あんな全身を蝕むような痛み、パーティーに入れなかった時は、命令に叛いた事になるのだから、名前を呼ばれて逆らった時以上の痛みは、あの時の痛みに近いかもしれない。 もう、あんな痛みにはあいたくはないわ。)


 アメルーミラは、青い顔をして、何かを考える様にしながら、自分の前に出された料理を見ている。


 奴隷紋の痛みに耐えられないと思うと、何かを言わなければと、アメルーミラは、視線をジューネスティーンに移すと、ジューネスティーンは、覗き込むように見ていた。


「そうなると、・・・。」


 アメルーミラは、答えながら、必死に正答となりそうな答えを探すのだった。


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