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剣 〜焼き入れの準備 4〜


 ジューネスティーンは、シュレイノリアとの会話で、焼き入れについての細部を決めていった。


 焼き入れの温度については、全くの未知数だったが、以前、刀剣を行っている鍛冶屋で見学した際に、入り口を通り過ぎる時、遠目で焼き入れの瞬間を見れていた。


 その偶然の出来事が、おおよその発熱時の発色を覚える事ができた。


 もし、鍛冶屋から詳しい話を聞けたなら、もっと詳細な温度管理が可能になるだろうが、今のジューネスティーンとしたら、その時の記憶を元に焼き入れを行うしかない。


 それ以外の事については、シュレイノリアとの会話で方向性は見えてきた事から、ジューネスティーンは工程を見直しながら火の入った炉を吹子で炭全体が燃えるようにした。


 炭全体に火が灯ると、ジューネスティーンは粘土の泥を塗った剣を炉の中に入れると炭の上に浮くように置いた。


 その際、剣を自分の手で持つのではなく、焼き入れに関係ない柄に入る部分を治具で固定して炉の中で動かないようにしていた。


 鍛治工房は、今まで工房を使った転移者も居た事もあり、剣の焼き入れを行った形跡があるため手頃な治具も用意されていたので、剣を固定して炭の炎で炙らせる事も可能だった。


 ジューネスティーンは、炭の上で温度を上げていく剣を見つつ、炉に吹き込む風の量を、ゆっくりと吹子を動かして炭と炭の間から出てくる炎の様子を確認していた。


 しかし、炉の中を見つつ炎の高さを確認して炎が剣に掛からないようにしていたので、シュレイノリアは気になったようだ。


「おい、ジュネス。剣を炎に当てた方が早く温度が上がると思が、なんで炎を大きくしないんだ?」


 ジューネスティーンの慎重な温度の上げ方が、シュレイノリアには気になっていた。


「ああ、鉄と粘土だと温度による熱膨張率が違うと思ったから、可能な限りゆっくりの方がいいかと思ったんだ」


「ふーん、そうか」


 その答えを聞いてシュレイノリアも納得したようだ。




 シュレイノリアは、ジューネスティーンの様子を見つつ所々で声を掛けているのは、1人では気が付かない事があっても2人なら気が付く事もある。


 時々、話をする事で気がつく事もあり、自身も気が付かなかった事が理解できる事によって、次の工程では意見を言える可能性が出てくる事もある。


 話をする事で頭の中だけで考えていた内容を他人に聞かせることで物事の順序なりが再確認できるので、シュレイノリアは積極的に話をするようにしていた。


 それにより、失敗を最小限に減らすことが可能となる。


 頭の中だけで考えていた事を、絵で描いてみると同じように見つけられる事がある。


 前者も後者も失敗を最小限に抑えるには有効な手段となる。


 描くために必要な紙は、高価な羊皮紙だけなので、ジューネスティーン達が簡単に使えそうなものとなったら石板か黒板に白墨で描く程度となる。


 そんな状況の中では、言葉のやり取りはとても重要なファクターと言える。


 ジューネスティーンの新たに考える剣は、シュレイノリアとの言葉のやり取りによって、脳内のイメージだけで見えてこない部分を補填していた。




 ジューネスティーンは、炉の中を確認しつつ吹子を動かしていたが徐々にゆっくりになった。


 それは、炉の中の様子と粘土の泥を塗っていなかった柄の部分、それと、刃の部分の温度を確認して、自身が思い描いた色に近付いていると判断したからだ。


 一般的な日本刀なら、刃側にも薄く泥を乗せるかどうかは、刀鍛冶の考え方なのかもしれないが、ジューネスティーンは、峰側の焼き入れを遅らせる事で、反りが刃側に入るのか峰側に入るのかを見極める必要が有ると考えていた。


 そして、泥の厚みを見極めるため、刷毛塗りの状態とベラ塗りの状態で厚みを変えた場所の曲がり具合を終わった後に確認するつもりでいる。


 曲がる方向は、泥の有無で見極められ、泥の厚みによって反り具合を確認することによって、今後、泥を塗る量を決められる。


 ジューネスティーンは、最後までの工程を脳内だけで再確認しつつ炉の中の様子を見ている。


 それに刃側に泥が付いてないことで、剣の部分の熱の伝わる状況と柄に入る部分との差が見えていた。


 今後は、刃側にも泥を塗る可能性も考えると、見えない部分となってしまう事になる。


 今回、峰側だけに泥を塗った事によって刃側の熱の伝わり方を目視で確認できた。


 刃側の温度が自分のイメージする色に達した時、ジューネスティーンは切先から柄の中に入る部分までの熱による色を確認していた。


 その視線は、どんな細かな事も見逃さないというように真剣な表情で見ていた。


 それは、後ろから様子を確認していたシュレイノリアも同様だった。


 お互いに同じ物を確認するのだが、人によって見え方は変わってくる。


 万一の見落としが、2人ならば、少なくなる可能性が高くなる。


 2人で見たら見落としが無いとは言わないが、2人のようにディスカッションを積極的に行うのであれば、その見落としの可能性は格段に低くなる。


 2人は、お互いの目で確認して、自分達の考える内容を、完成した後に完成品を見つつ確認を行う事になる。


 その時のために2人は、真剣に炉の中に入っている剣を見つめていた。


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