接触
金糸雀亭のアメルーミラの空腹は限界に来ている。
最後の食事から丸一日何も食べてないのだ。
アメルーミラは、体育座りをして眠ってしまっているが、夢の中でも空腹の自分が出ている様だ。
(何か食べたい。)
アメルーミラは、そんな夢を見ているのだった。
ウトウトしている、アメルーミラに、遠くで声が聞こえてくるのだ。
それは、アメルーミラに声を掛けているのだった。
「もし、私達に何か用ですか。」
尋ねられるのだが、アメルーミラは、眠りから覚めてこない。
流石に、初めて魔物を本格的に狩ったのだから、心身共に疲れている様子だ。
なかなか、眠りから覚めないアメルーミラに、声をかけた者は、肩を揺すって起こそうとしている。
アメルーミラは、自分の体が揺れることで、眠りから覚めて、顔をあげる。
目の前には、知らない顔がアメルーミラを覗き込んでいた。
目の前に声をかけてきたのは、人属の若い男性だ。
年齢は二十歳前後、体つきはがっしりとした筋肉質、厚い胸板だと服の上からもわかる。
そして、太腿ほどの太さが有りそうな二の腕を見て、自分の記憶に引っ掛かる物があった様だ。
(ヲンムンの言っていた特徴に合致する。)
眠りから覚めて、徐々に意識が戻ってくると、周りも見えてきた。
その人の直ぐ横には魔法職の女性が付き従う様に連れ添っている。
声をかけてくれたのは、目の前の男性だと分かると、後ろにエルフの男女が1人ずつと、チーター系亜人の少年ぽさが残る青年と、グラマラスなウサギ系亜人がおり、全員がアメルーミラを見ているのだ。
ヲンムンに言われた6人の人相と分かったので、慌てて立ち上がると同時に、自分の仕事が始まったのだとアメルーミラは気がついた様だ。
「あの、お願いがあります。 私をあなた方のパーティーに入れてもらえませんか。」
ターゲットと遭遇したのだ。
自分の自由が掛かった仕事だと思ったのだ。
頭が真っ白になり目的だけを端的に言ってしまったのだ。
言ってしまってお辞儀をする。
(しまった。 こんな不躾な! 初めて会う人にお願いをしても良いのか! )
アメルーミラは、後悔してしまった様だ。
寝てしまっていて、目覚めたら、目の前にターゲットと思われる人達がいて、慌ててしまったのだ。
(あーっ、失敗した。 もっと良い接触方法が有ったはずだわ。 ここに来てから出会うまでに色々考えれば良かったのに、何で寝てしまったのよ。)
すると、アメルーミラのお腹の音がロビー中に聞こえる様に鳴った。
アメルーミラは、思わず自分のお腹を抑えるが、時既に遅く目の前に居る6人全員に聞かれている。
ジューネスティーン達は、その音に、聞いてはいけない音を聞いてしまった事で、気まずい顔をしている。
アメルーミラは赤い顔をして、頭を下げたまま、お詫びをする。
「すみません。 大変失礼しました。」
そう言ってお腹を押さえて更にお辞儀をしたままでいると、もう一度お腹の音が鳴る。
恥の上塗りをしてしまったと思って、耳まで赤くなる。
場の空気をどうしようかと思っていると、カミュルイアンが声をかけてきた。
「とりあえず着替えてこない。 今日の汗も落としたいし。」
その言葉に反応するように、レィオーンパードがジューネスティーンに声をかける。
「にいちゃん、話だけでも聞いてあげたら。」
そう言うと、アンジュリーンが話に入ってくる。
「それより、話を聞くにしても、ここでは何だから、何か食べながら聴きたいけど、その格好だと食堂に入れてもらえても、周りのお客とお店に迷惑だから、一旦部屋のシャワーでも浴びさせて、着替えさせた方が良いんじゃない。」
ジューネスティーン達のメンバーは今日の汗を流したいと言う、それに話位は聞こうと言う。
パーティーに入れて欲しいと言う、その猫の亜人はお腹が鳴るほど空かしている。
こんな所で泥だらけで待っていたのなら、今日の宿にも困っている可能性があると、ジューネスティーンは考えている様だ。
(着替えて、もう一度来いと言うわけにもいかないな。)
そう思うと、仕方がないなと思った様子で、その亜人にジューネスティーンは声をかける。
「それもそうだな。 じゃあ、一緒に部屋まで来てくれるか。 話はその後に食事でもしながら聞こう。」
そう言うとシュレイノリアに向く。
「全員でシャワー浴びて、この子を綺麗にしてあげてくれ、それと着替えを貸してあげてくれないか。」
「分かった。」
「できれば、汚れた服を洗ってあげておいてくれないか。」
「そのつもり。」
話が決まったので、カウンターにいくと、アメルーミラの事を伝える。
「ルイセルさん、この子を部屋に入れます。 必要ならお支払いをします。」
そう言うとルイセルは、笑顔で答えてくれる。
「あの部屋は、一部屋での金額なのです。 人数が増えても金額は変わらないので、安心してください。」
「それと、食事を7人分お願いしいます。 空腹が一人居るので、胃に優しい料理がありがたいです。」
「ああ、厨房には伝えておきますので、安心してください。」
そう言われてジューネスティーン達は部屋に行く事にすると、アメルーミラは、どうしたら良いのかと戸惑っている。
そんなアメルーミラに、アンジュリーンが反応する。
「おいで。 あんたも私たちの部屋に来るのよ。 お腹、空いているだろうけど、その格好じゃあ、お店にも、他のお客さんにも失礼だから、体を洗って、綺麗にしてからね。 それまで、夕飯はお預けよ。」
アンジュリーンに言われて、アメルーミラは、自分の土が付いて、色が変わってしまっている自分の身なりを見て、その通りだと思ったようだ。
そんなアメルーミラを見ると、アンジュリーンがアメルーミラの手を取って引っ張り出す。
アメルーミラは、唖然とした様にアンジュリーンに引っ張られて、階段を登っていく。




