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剣 〜焼き入れの準備 3〜


 炉の屋根が完成した事によって、炭に火を入れたジューネスティーンを制するようにシュレイノリアが、ジューネスティーンの肩に手を置いた。


「何?」


 シュレイノリアには、炉に火を入れる事が早いというように、ジューネスティーンを制した。


「なあ、ジュネス。焼き入れ用の水桶は、これで良いのか?」


「ああ」


 シュレイノリアはジューネスティーンに聞くが、置いてある桶は長細くなっており、剣を入れられるだけのサイズは有ったので、何でシュレイノリアがそんな事を聞くのかと思ったようだ。


「ジュネス。お前は、この水桶を使って焼き入れをするのなら、剣は、どうやって入れる?」


 シュレイノリアが気になっていたのは、水桶ではなく剣の入れ方だった。


 その質問にジューネスティーンも気が付いたようだ。


「そうだな、水に入れる時の方向か」


「そうだ」


 ジューネスティーンが、気がついた内容はシュレイノリアが先に気になった部分だった。


「焼き入れは、急激に温度を下げる。真っ赤に熱せられている剣だから、その温度は水の沸点を超えている。剣を水に入れた時、表面に水蒸気が出るはずだ。その水蒸気は、水面に上がるし剣の熱で熱せられた水によって剣の周辺の水温が高くなる」


 シュレイノリアは状況を指摘した事で、ジューネスティーンは頭の中でシュミレーションを行うように考えていた。


 そして、ジューネスティーンは、結論を導いたというようにシュレイノリアを見た。


「そうか、水面と平行になるように入れた場合は、片側に偏る可能性があるな。まあ、水面に平行に入れるようなつもりは無いけど、刃側から入れる必要があるだろうね」


 ジューネスティーンの答えに、シュレイノリアも納得する表情をした。


 そんなシュレイノリアをジューネスティーンは見ると、お互いに考えている事は同じと思い安心した表情をした。


「刃側に強い焼き入れを入れたいのだから、刃が下になるだろうし、峰側は、剣の衝撃を吸収させる為に弾力を持たせたいから軟らかい方がありがたい。なら、焼き入れの際の水が熱せられたとしたら、温度の上がった水は上がるし、それに水蒸気が上がっていくなら、水蒸気によって峰側に水蒸気の隙間が出来て水との接触が減ったら、その分、峰側の温度の下がり方は余計にゆっくりになるのか」


 シュレイノリアの一言によって、ジューネスティーンは、これからの作業について頭の中で考えていたことを確認を確認するように言葉にした。


 その中で、焼き入れを入れる刃側と峰側の遅らせる粘土もだが、焼き入れを行う時にも促進させる可能性が有るとシュミレーションができたようだ。


 その様子をシュレイノリアは満足そうに見ていた。


「そうだな。そうなると、水の中に入れたら、下手に動かさないようにしたほうが良さそうだな」


 焼き入れの際は、刃側を下にして水の中に剣を入れる。


 熱せられた水は上がる性質もあり、水蒸気は気体なので水面に向かって上がってくる事によって、その水蒸気は剣の側面を這うように上がっていく事になる。


 その事によって峰側に行くほど、水蒸気の影響によって冷却が遅れることで、焼き入れが入りにくくなる。


 刃においても、高温の状態で水の中に入るので、焼かれた剣は、刃の部分にも水蒸気の発生して、刃が下に向いていたら、発生した水蒸気は直ぐに峰側に上がっていく事になるので、同時に周囲の水は剣から上に流れを作る事になり、下から温められてない水が上がってくる事によって刃は温まってない水にさらされる。


 刃側の水は常に入れ替えられる事になり、刃側と峰側の水に温度差が生じる事になり、粘土によって剣の温度が下がるのを遅らせるだけでなく、焼き入れの水によっても促進できる可能性を導いていた。


 ジューネスティーンとシュレイノリアは、シュレイノリアが提起して、ジューネスティーンが、その内容を吟味しシュミレーションし考えを深めた。


 やってみてから考える事も大事かもしれないが、行動を起こす前に考えられる内容は全て考えておく事によって、自分の考えていた内容と実際に行った時に思い通りに行かなかった時の考察に大きな影響が出る。




 ギルドのジューネスティーンに対する評価の低さもあり予算が思う存分取れるシュレイノリアとは違っていた。


 シュレイノリアは可能な限りの協力をしてくれる、ギルドではシュレイノリアの魔法力が高い事から、冒険者となったら支援用魔法や攻撃用魔法によって大いに活躍するか、ギルド本部で魔法の研究や新たな魔道具の開発を行なってくれる可能性を噂されていた事も有り、シュレイノリアへの期待は高かった事から予算も付けやすかった。


 一方ジューネスティーンについては、中庭で昆虫の観察をしていた時の印象が強かった事から、一般の魔法職以上の魔法が使えてもシュレイノリア以下だと見られてしまい、強い魔法が使えないと勘違いされていたため、一般的な冒険者程度なら予算をつける必要は無いと担当が判断されていた。


 そんな中、シュレイノリアの用意した粘土は、染色するときの模様をつける実験に使うからと言って多めに購入させ半分をジューネスティーンに分け与えていた。




 シュレイノリアとしても、2人で冒険者として生きていこうと決めていて、ジューネスティーンの冒険者の方向性も聞いていたので、中庭での観察の意味も知って理解し必要性も分かっていた。


 早く冒険者になって、王都にあるギルドの高等学校の学費を稼ぐ事と、冒険者になった時、魔物と対峙した時の前衛として必要な防御力とパワーを兼ね備えたパワードスーツを開発して冒険者の活動を行おうとしていた。


 その為の資金集めを行うには、前衛としてジューネスティーンは年齢的にも11歳程度の体型では盾を持って剣を振るうには通常の曲剣では筋力が足りない。


 道筋は描けたが、その為の資金集めには、今の弱い体力のジューネスティーンには負担が大きい。


 その負担を可能な限り下げるには、通常の厚くて重い剣は扱い難いが、硬鉄と軟鉄のハイブリット化をすることで重量が半分以下に減らす事が可能となる。


 腕力を必要とする重い曲剣では、現在のジューネスティーンには大きな負担となってしまう事もあり、この日本刀の開発は近接戦闘を余儀なくされた場合の対応への大きな足掛かりとなる。


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