アメルーミラとルイゼリーン
スリングショットは、ゴムの力で物を飛ばすだけなので、そのゴムさえ手に入れれば、森で適当なY字の木を見つけて、それにゴムを付ける。
弾はその辺に有る小石を利用して飛ばすので、遠くに居る魔物を狙える。
ただ、小石だと真っ直ぐ飛ばない事の方が多いので、それ程長距離には向かない。
パーティーの先行偵察要員が弓だと嵩張るのでスリングショットを弓代わりに使う事も有る。
なので需要はあるから、武器を扱う店なら、探せば見つける事ができる。
ルイゼリーンは、アメルーミラに、スリングショットについて簡単に説明をした。
「帝都周辺の魔物は、俊敏性が高いので、新人冒険者は不向きとされております。 その速度に付いていけず、不向きとされているのですが、小型の魔物が多いので、この程度の威力でも倒せますから、それで、少しお金を稼いでみてはいかがですか。」
ルイゼリーンの話を聞いて、表情が明るくなった。
(なんとか、冒険者っぽいことが出来るかもしれない。)
アメルーミラは、希望が見えてきた様だ。
だが、ルイゼリーンの考えは違った。
(スリングショットは、接近戦には不向きだから、懐に入られたらこの娘は死ぬしかない。 それに拾った石だと命中率も下がるから、最初の一撃で倒せなければ、向かってくる魔物に対処は出来ないわ。 おおそらく、この娘の生き残れる可能性は、1%に満たないわ。)
ルイゼリーンにしてみれば、ジューネスティーン達に、不用意に帝国軍の息の掛かった者を近づけたくはない。
キツネリスを偶然に倒せただけなのだが、それに気を良くして、欲をかいて大怪我をするなりしてもらえれば、ジューネスティーン達への不安要素は減ることになる。
ただ、ルイゼリーン個人の考えとしては、このアメルーミラがどれだけの才能があるのか気になったのだ。
その二つの思惑を自分の中で整理する為に、可能性は低いが、戦える様に知恵を与えたのだ。
正規のスリングショットであれば、生存の可能性は上がるが、ゴムだけで支柱も無しでは命中精度はかなり落ちてしまう事になる。
そう考えると、命中精度の低い飛び道具だけでは、一撃で倒せる可能性が低いことになり、魔物とて、攻撃されれば、反撃してくるのだ。
その為、帝都周辺の魔物と対峙して、スリングショットだけで生き残る術は無いのだ。
教える側と教えられた側、2人の思惑には、大きな相違があるのだった。
スリングショットで、攻撃が可能となったと喜んだアメルーミラだが、ルイゼリーンは、スリングショットの欠点を思うと、生き残る可能性が低いと感じているのだが、その事はアメルーミラには伝えてはくれなかった。
それを、何とか対策出来れば生存率は格段に上がるのだが、アメルーミラが対策出来るかどうか、偶然にもキツネリスの魔物のコアを手に入れたその運がどれだけなのか見てみる事にするつもりなのだ。
「それと、スリングショットを、扱っている店も有りますから、スリングショットを買う様なフリをして、形を覚えて、ゴムだけを購入してみてはいかがですか。」
アメルーミラの目的は冒険者になる事では無いが、何の武器もないでは困ると思い、ルイゼリーンの話の通りに、スリングショットを手に入れてみることにするのだった。
アメルーミラは、スリングショットを教えてくれた、ルイゼリーンに好感を持った様だ。
それでなのか、アメルーミラは、ルイゼリーンに質問を始めた。
「あのー、こう言った物を扱っているお店は、どこに有るのでしょうか。 私、帝都は詳しくないので武器屋が、どの辺に有るのか分からないので。」
「それなら、ギルドの通りより、一つ北の通り、そう、南門から出ている通りに出て、門とは反対の方に向かって歩いて、次の通りに入るのよ。 その通りが、武器や防具を扱っている店があります。」
そう言われて、ルイゼリーンにお礼を言ってギルドを後にする。
ルイゼリーンは、アメルーミラを見送る。
(さあ、あの娘の才能を見せてもらいましょう。)
そのアメルーミラの後ろ姿を見送りつつ、ルイゼリーンは、あれだけのアドバイスで、アメルーミラが、どれだけ命を繋ぐことができるかと考えていた。
そして、ルイゼリーンの立場的に、アメルーミラの生存を願ってはいけないと思うのだが、何とか生き延びて欲しいと思ってしまうのだった。




