ジュネス達の前情報
一方、無事、登録を済ます事ができたアメルーミラは、足早にギルドを後にして、ヲンムンの宿に戻る。
ドアを開けたヲンムンが、アメルーミラを中に入れると、通路に誰か居ないか確認してドアを閉める。
扉を閉めたヲンムンに、アメルーミラは、ギルドカードと身分証明証を見せると、それを見て、何の問題も無かったのだろうと想像したのだろう、安心した様な顔をアメルーミラに向ける。
「問題無く作れたみたいだな。 誰か、冒険者に声を掛けられたか。」
そう言われると、アメルーミラは首を振るが、声に出して答えないと怒られると思い、慌てて話し出す。
「話をしたのは、受付嬢だけです。 ギルドにいた人には誰にも声をかけられてません。」
ヲンムンはジロリとアメルーミラを見る。
「装備も持ってない新規の冒険者をスカウトする様なバカは居ないだろうな。 まあ、嘘をついたとしても、直ぐに奴隷紋が反応するだろうが、今は何も無かったってことは、嘘では無かったってことだな。」
そう言うと、テーブルに座る様にヲンムンが指示すると、指示されるがまま、アメルーミラは、テーブルの椅子に座る。
対面にヲンムンが座ると話を始める。
「じゃあ、相手の事を少し教えておく。」
そう言うと、アメルーミラのお腹が、“グー” と、鳴る。
アメルーミラは慌てて、お腹を抑えるが、それを見たヲンムンが、ニヤリと笑う。
「丁度良い。 いつからか食べて無い。」
その質問に、アメルーミラは、正直に答える。
「昨日の夜に出てきたスープを食べました。 それからは何も食べていません。」
ヲンムンは、都合が良いと感じたようだ。
ニヤリとすると、次の指示を与える。
「そうか、じゃあ、ターゲットに食べさせてもらえ。 それまでは何も食べるな。 その方が相手に与える印象が違ってくる。」
アメルーミラは、唖然としてヲンムンを見る。
「朝食だけでなく、昼食も食べてはいけないのですか。」
しばらく何も食べられそうも無いと思うと、流石にアメルーミラも不満そうな声をあげる。
ただ、ヲンムンは、そんな事は気にする気配もなく答える。
「そうだ。」
まともな物を食べさせてもらえるとは思ってなかったが、もうしばらくすれば、昼食が食べられるかと思っていたのに、思ってもみないヲンムンの言葉に愕然とする。
「何を驚いている。 これが、お前の仕事の一環だ。 ターゲットに侵入するのだから、その位の事はできるようになれ。 出来なければ、お前は死ぬだけだ。 そして、俺はまた新たな奴隷を買って来る。 自由になりたいなら、自分で何とかする事だ。」
アメルーミラは、諦めた様な顔をして肯く。
「わかりました。」
ニヤリと笑うヲンムンは、ジューネスティーン達の話を始める。
ジューネスティーン達は、人属の男女1人ずつで、男は長身のガッチリ型で、特に腕の太さが目立つ事、また、女は魔法職だが、着ているものが、微妙に一般的な魔法職とは異なる事を伝える。
また、その魔法職の女は、かなり強力な魔法が使える可能性がある事。
後の人属以外は、エルフの男女1人ずつだが、若くは見えるが、年齢は40歳を超えている事と、チーター系亜人の若い男と、ウサギ系亜人の女性の6人パーティーだと教える。
それと、彼らは街道沿いに出た、東の森の強力な魔物を簡単に倒した事、南の王国から帝国に入った事、強力な魔法を使えるらしい事を伝える。
また、目の前の金糸雀亭に宿をとっている事を話す。
「ターゲットの話はこんな所だ。 それと、潜入した時に素性を聞かれるだろう。 奴隷になった事は隠して、盗賊に襲われた時、父親が、犠牲になっている間に、命辛辛逃げ出して帝国に来たと言っておけ、盗賊に襲われる前の話はそのまま使った方がいいだろう。 嘘の経歴を作っても、直ぐにバレてしまうだろうから、自分の経歴をそのまま話す様にしろ。」
ヲンムンは簡単に素性についての話を決めると、アメルーミラは頷いた。
「ターゲットが帰ってくるのは、多分、夕方で、まだ、時間があるから、お前で少し遊びたい所なのだが。」
ヲンムンは、嫌らしい笑いをすると、アメルーミラは震えて、盗賊のアジトでの出来事を思い出し、両手で自分を抱き抱えると、体を後ろに逸らす。
ヲンムンは、その気は無かったのだが、アメルーミラの反応が、自分の思った通りの反応をするのを、楽しんだだけなのだろう。
ヲンムンは続けて話す。
「あっちのメンバーの中には、亜人も居るから、匂いにも敏感だろう。 お前から、男の匂いがしたら不自然に思うだろうからな。 今はそんな事はしない。」
そう言って、前の言葉を否定すると、アメルーミラは、少し安心んしたのか、強張った体の力を少し抜く。
だが、 “今はそんな事はしない。” と、言った事が気になった様だ。
それは、今でなければ、普通に弄ばれるという事を、意味していると、アメルーミラは思ったのだろう。
そして、盗賊団のアジトでの出来事が思い出される様だ。
今の言葉は、執行猶予の様に聞こえたのだろう、顔色は良くない。
ヲンムンは、アメルーミラの気持ちなど、考える事なく話を続ける。
「今の話で、人相やメンバーについて分かったなら、今日の夕方に、あのメンバーの中に入れ。 それと、その格好だと、嘘とバレる可能性がある。 帝都の外に行って、もっと埃まみれになってから行動を開始するんだ。 命辛辛、帝国に来たのなら、古着でも洗濯された服だと怪しまれるからな。」
そう言われて、アメルーミラは肯くが、言われた通りにできるのか心配になる。
動きが鈍いと感じたヲンムンは、それを見て直ぐに声をかける。
「どうした、さっさと行け。 今日の夕方迄に、接触出来ないと、食事にもならないぞ。 それと、もうここにはくるんじゃ無い。 必要な時は、こっちから接触する。 夜に奴隷紋が痛み出したら宿を出てくれば良い。」
その話にアメルーミラは頷く。
アメルーミラは、奴隷紋の痛みを感じるのかと思うと、やるせ無い気持ちになる。
それを見てヲンムンが催促する。
「何をしている。 さっさと行動に移れ。」
そう言われて、慌てて席を立ち部屋をでて行く。




