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剣 〜炉〜


 ジューネスティーンは、剣に塗った粘土の泥が乾き落ちなくなると、ひっくり返して反対側を塗る事にすると、振動を与えて落ちないように、ゆっくりとひっくり返えしていた。


 それ程、簡単に落ちるとは思えないが、余計な仕事を増やす事はしたくないというように慎重に行なっていた。


「柄の中に入る部分が有るから、その部分を道具で固定して釜戸に入れたり、焼き入れの時は、この部分を使って持てばいいな」


 当たり前の事だが、ジューネスティーンは、その当たり前を確認するように声に出すと、シュレイノリアは気になるような表情をして、ジューネスティーンの作業を眺めていた。


 ジューネスティーンは、最初に塗った時と同じように刷毛塗りを行なった後にヘラで泥を乗せて伸ばした。


 一度、刷毛塗りを終わらせると、ゆっくりと剣を上げ、顔を上下に動かして裏と表の厚みを確認しながら、厚みの微調整を行うようにした。


 納得できると、持っていた剣を建具に置いた。


「これで乾いたら焼き入れできそうだ」


 その様子を見ていたシュレイノリアは、何かに気が付いたような表情で、剣を鍛えていた時の炉を見た。


「おい、ジュネス。お前、その泥の状態で炉の中に入れるのか?」


 シュレイノリアは、炉を見つつジューネスティーンに聞いた。


「ん?」


 シュレイノリアの指摘を受けて、ジューネスティーンも剣を入れる炉を見ると考えるような表情をして剣を見た。


 そして、何度か両方を確認するように視線を送り考えていた。


「ああ、そうか。泥を削り落とす可能性が有るのか」


「そうだ」


 2人は、炉を見つつ考えていた。


「炉の周りのレンガを高くしてから屋根を作るか」


「そうだな。炎だけの中に剣を入れておいた方が安全だろうな。炭の中に入れたら擦れて泥が落ちるかもしれないからな」


 2人は、いつものように剣を真っ赤に赤くなった炭の中に入れて、表面に付けた泥が剥がれてしまう事を嫌い、炭の上にでる炎で温度を上げた方が良いと思ったようだ。


 釜戸は、剣に合わせて細長く作られており、側面をレンガで枠を作って有るだけだった事から、剣を叩いて鍛える場合は、炉の中で真っ赤に燃えている炭の中に入れて、吹子で風を送って温度を上げていた。


 しかし、今までのように炭の中に剣を入れた場合、剣に付けてある粘土が触れて剥がれ落ちる可能性が有る事に気がつくと、剣は炭の上に浮かせた状態で温度を上げたいと考えた。


 そのため、温度を上げるために熱が外に逃げないように対策する事が必要だろうとお互いに思ったのだ。




 剣を鍛えて作ろうと思った場合、素材を熱して叩き思った形にする。


 それ以外の方法は高温にも耐えられる型を作り、その中にドロドロに溶けた鉄を流し込んで冷やした後に取り出す。


 ドロドロに溶けた鉄の温度にまで上げるには、鍛治で行う温度よりはるかに高く、その温度に耐えられる型と道具を用意する必要がある。


 高温にするための設備もだが、そこまでの物を作るとなったら鍛治の技術だけしかないギルドの鍛治工房の設備から、どれだけの技術革新が必要となるか分からない。


 革新的な技術を生み出さない限り、今のギルドの鍛治工房では不可能である。


 ジューネスティーンとシュレイノリアは、この鍛治工房の技術レベルで作れる最高の物を狙っていた。


 鍛治仕事で出来る鍛錬のレベルなら、熱して叩き焼き入れ焼き鈍しという限られた作業によって出来る事を考えていた。




 ジューネスティーンの作ろうとしている剣は、軟鉄に硬鉄を覆うように被せる事によって、斬り裂く際の衝撃を芯に使った軟鉄が吸収し、表面の硬鉄が斬れ味の鋭さを保たせる。


 どんなに硬い材質でも薄かったり細かったりすると曲がる。


 薄い硬鉄が表面を覆い、芯に軟鉄を使う事によって両方の良い部分を活かそうとしていた。


 そして、最後に焼き入れを行う事によって、刃の硬度を更に増すために焼き入れを行う。


 その焼き入れの際の素材の変化によって伸縮が起こるだろうというシュレイノリアの提案を受けて、ジューネスティーンは、粘土を塗ることによって、焼き入れの時の温度の下がり方を峰側だけ遅らせ変化を持たせる事にした。


 粘土で峰側を覆うことによって、峰側の温度が下がるのを遅らせ、素材の結合の変化が生じさせ、どちらかに反りが発生するだろうと2人は考えていた時、新たな問題が考えられた。


 粘土を落とさないようにするために炉の改造が必要となった。


 しかし、今回は、それ程大きな問題は無かった。


 炉を覆うレンガが工房内に用意されたので、それを重ねて壁を高くして屋根を作るだけだったので、ジューネスティーンは、ただ、レンガを重ねて屋根を作る事にした。


 屋根を作る際、隣の壁に届く程長いレンガが用意されていなかったが、重ね方を工夫することで屋根を作ってしまった。


「よかったな。レンガが用意されていて」


「ああ、炉は熱くなるから、周囲のレンガが破損しやすいのだろうね。それで修理用に置いてある見たいだな」


 2人は、購入申請を行わずに済んだ事を幸運に思ったようだ。


 壁と屋根を作るため、レンガを重ねるのだが、元々、剣のような長細い物を作る為なのか、炉は細長く作られていた事が幸いした。


 出来具合をジューネスティーンとシュレイノリアは確認すると、炭に火を灯し焼き入れの本格的な準備になった。


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