アメルーミラの経歴と身分証明書
ヲンムンは、アメルーミラの話を聞いて、何処にでもある、聞いた事のある話だと思った様だ。
「そうか、取って付けたような話だな。 出身は、北の王国で間違い無いか。」
アメルーミラは肯くが、また、怒られると思い慌てて返事をする。
「はい。」
その返事を聞いて、学習能力は有るとヲンムンは感じたようだ。
「名前も、アメルーミラで間違い無いな。」
「はい。」
そう言うと、ヲンムンは、アタッシュケースの中から、机に1枚のプレートをだすと作業を始める。
しばらくすると、アメルーミラを呼んで、ナイフを抜く。
それに驚くアメルーミラだが、ヲンムンはそのナイフの棟を持つと柄の方をアメルーミラに向ける。
「お前の血をこのプレートに付けろ。」
ナイフの刃に驚くアメルーミラに、詳しい説明をする。
「お前の指先を、このナイフで傷を付けて、このプレートに血を付けろと言っているんだ。 このナイフで、お前を殺すつもりも、傷付けるつもりも無い。 人差し指を、刃で傷を入れて、出てきた血を親指に擦り付けてからこのプレートに親指を当てる。 出来るな。」
そう言うと、アメルーミラは、恐る恐る、右手の人差し指を、ナイフの切先に当てる。
指を傷つける瞬間の痛みで、目を瞑り、ヤイバから指を離すと、出てきた血を親指になじませる。
ヲンムンは血が滲んだのを見ると、プレートを指差す。
「親指を、ここに押せ。」
ヲンムンの指差した先には、自分の名前がプレートに刻まれている。
震える手をプレートに伸ばして、恐る恐る、親指を名前の一番最後の文字の上押すと、一瞬プレートは青白く輝き、直ぐに光が消える。
ヲンムンは、情報部の仕事をしているので、身分証明証の偽造を行って、他国に潜入する事もある。
その為、身分証明証の偽造は、帝国軍に入った時に覚えており、自分の持ち物の中には、各国から非正規ルートで入手した身分証明証が用意されている。
場合によっては、突然命令が来て、直ぐに立たなければ間に合わないこともあるので、常に携帯しているのだ。
「これで北の王国の身分証ができた。 これを使ってギルドに冒険者として登録しろ。」
そう言うと、プレートと、銀貨1枚をアメルーミラに渡す。
アメルーミラは、渡されたプレートを手に取って、椅子から立ち上がるのだが、そのまま、立ったまま動こうとしない。
「何している、さっさと動かないか。 いや、待て。」
そう言うと、ヲンムンは何か引っ掛かる。
何で動こうとしないのかと考える。
(この奴隷は、つい最近、盗賊団から買ってきたと言っていた。 帝国の市街地を歩いた事は有るのか? 盗賊団のアジトから、奴隷商の館までの距離を考えれば、馬車を使うはず。 その馬車は、奴隷を運ぶための馬車と考えれば、中から外に出る事は出来ない。 それなら、外も見えるかどうか気になるな。 初めて来た土地で、何処にどの建物が有るか、分かるはずもないのか。)
ヲンムンは、何かを考えた様子だったが、直ぐに、考えがまとまった様子で、アメルーミラに話しかける。
「そう言えば、お前、帝国のギルド支部の場所は分かるか? 」
そう聞くと、アメルーミラは首を横に振るが、何も言わないと、また、怒られて奴隷紋の痛みを受ける事になると思ったのだろう、慌てて答える。
「いいえ。 帝国には初めて来ました。 それに帝国に入る時は、奴隷商の馬車だったので、外の様子はわかりませんでした。 なので、ギルドがどこに何があるのか分かりません。」
アメルーミラが答えると、ヲンムンはやはりなという顔をする。
「そうだったな。 こっちに来い。」
そう言うと、窓際にアメルーミラを呼ぶ。
「ここを出て右に行くと、左に大きな建物がある。 あそこの塀のある建物だ。 今、門から、人が出てきた。 あそこに行って、 “冒険者に登録させて欲しい” と、言えば手続きをしてくれる。 身分証明書は、お前が手に持っているプレートが証明してくれる。 費用も、さっきの銀貨1枚で、問題無い。 それと、パーティーは、どうするか聞かれたら、あてがあるから大丈夫だと答えておけ。 分かったか。」
「はい。」
ヲンムンは、アメルーミラの返事を聞いて、だいぶ素直になったと思った様だ。
これなら、1人で行かせても問題ないだろうと思ったのだろう、ニヤリとすると、アメルーミラに指示を出す。
「じゃあ、直ぐに行って来い。 今の時間なら他の冒険者も少ないから、ギルドの中に居る冒険者に声も掛けられないと思う。 だが、他の連中とは喋るんじゃ無いぞ。 口数が多いとボロが出るかなら。」
そう言うと、ヲンムンは、右手でアメルーミラに行けと言う様に手を振って、指示をする。
それを見て、アメルーミラは、部屋を出てギルドに向かう。




