奴隷紋の用意
ヲンムンは、牢獄の入口の横にある部屋に案内されると、奴隷商は連れてきた奴隷を、部屋の中央に有る椅子に座らせる。
その椅子には何本もベルトが椅子に取り付けてあり、かなり頑丈そうな作りの椅子で、その椅子の足は、床に固定されている。
「お前は、そこに座れ。」
フゥォンカイが、奴隷に指示をすると、猫の亜人は、言われるがままに、中央に有る椅子に座る。
大人しく奴隷が座るのを確認したフゥォンカイは、その両手首・両足首と順番にベルトを止めていく。
その後に脇腹の位置のベルトを固定したのち、両方の脇の下から引っ張り出したベルトを反対側の肩のベルトでクロスする様に固定する。
最後に、太腿の間に手を入れて2本のベルトを引っ張り出そうとする。
太ももも、股間に近い位置だったので、奴隷が顔を赤くして、慌てて太腿を閉めるが、フゥォンカイはそんな事を気にせずに、太腿の間に無理矢理手を入れて、椅子に付けられたベルトを引っ張り出した。
椅子の外側に下がっていたベルトと、太腿の内側のベルトで、太ももを固定する。
その様子をヲンムンは、眺めていた。
(奴隷紋の上書きなんて初めて見るが、随分とがんじがらめに固定するのだな。)
その光景を見て不思議そうに思っていると、奴隷商が、ヲンムンに向いて説明を始める。
「奴隷紋の更新を行う際、奴隷には痛みが伴います。 その痛みに耐えられずに、奴隷紋のスクロールを掻き毟られても困りますので、奴隷紋を描く際は、この様に固定します。」
そう言うと奴隷商は、奥の壁際の机に行くと、引き出しから丸めた布のついたベルトの様になっている猿轡を持ってきて、奴隷の顔の前に見せる。
その猿轡を見た奴隷が、気持ち悪い物を見た様な表情で、顔を逸らす。
奴隷は、その猿轡の意味する事を知っているので、嫌がっている様子を見せたのだ。
すると、フゥォンカイは、奴隷に命令をする。
「さあ、口を開くんだ。」
嫌がる奴隷なのだが、奴隷紋の影響で胸が痛むのだろう、痛みを堪える様な表情をする。
堪えているが、その痛みに耐えきれなくなっているので、その表情を見たフゥォンカイは、もう一度命令をする。
「口を開け! 」
先ほど以上に、胸の奴隷紋に痛みが走った様子で、奴隷の表情は更に引き攣っている。
「その痛みを和らげる方法は、私の命令に従うことだ。 さあ、口を開け! 」
その言葉に奴隷は、仕方なさそうに、口を大きく開く。
奴隷は、口を開くと、胸の痛みが和らいだ様で、表情から、痛みを堪える様子は無くなった。
その口にフゥォンカイは、ベルトに取り付けられた布の塊を、口の中に入れると、後ろに回ってベルトを奴隷の後頭部で固定する。
奴隷商のフゥォンカイは、一通り固定した部分を確認すると、顧客であるヲンムンを壁際の机の方に促す。
机の上に、フゥォンカイは、羊皮紙のスクロールと、壺と皿、そして、筆を用意する。
用意が整うと、ヲンムンに向き説明を始める。
「それでは、これから魔法紋によって奴隷紋を刻みます。 もし、奴隷紋の効力が無かった場合は、お支払い頂いた、お金は返却させていただきますので、お支払いをお願いします。」
ヲンムンは、中銀貨1枚を支払う。
奴隷商も商売を行なっている。
奴隷紋を刻んだ後に、奴隷を連れて逃げられたりする事もあるので、奴隷紋を刻む前に支払いを済ませるのだ。
ヲンムンは、中銀貨1枚をポケットの中から出すと、フゥォンカイに渡す。
フゥォンカイは、中銀貨1枚を受け取ると、ニヤリと笑ってお礼を言う。
「お買い上げありがとうございます。」
そう言うと、店の主人は、ツボの中の液体を皿の中に入れる。
液体は黒い色をしている。
「では、お客様の血を少し分けていただけないでしょうか。」
奴隷商の主人が、蝋燭の火で炙って簡易消毒をした針をヲンムンに渡す。
その針をヲンムンは、左手の人差し指に刺す。
指先に血が滲み出ると、その血を皿の黒い液体に垂らす様にと言い、店の主人が黒い液体が入った皿を差し出す。
ヲンムンは、その液体の中に左手の人差し指から出てくる血を数滴垂らす。
奴隷商の主人は、羊皮紙にその液体で魔法紋の描かれたスクロールに最後の紋様に何かを書き足すように描きだそうとすると、奴隷の胸に奴隷紋が黒く浮き出ているのを見て、慌てて伝える。
「ご主人、その魔法紋だが、この奴隷に、焼き付けた後を残したく無いのだが、できるか。」
店の主人はニヤリとする。
「問題ございませんが、特殊な奴隷紋になりますので、少しお値段が掛かります。」
「いくらになる。」
ジューネスティーン達に潜入させるので、胸に奴隷紋が浮き出ていては困るのだ。
奴隷紋が有れば、警戒される可能性もあるし、お人好しなら、奴隷紋を見てその奴隷紋を外しにかかる可能性もある。
見られない奴隷紋の方が有難いのだ。
(やはりな。 見えない奴隷紋が必要なのは、奴隷紋が見られては困るからだ。 この奴隷をジューネスティーン達のパーティーに潜り込ませるためだということは、これで確定した。 この奴隷を選んでもらったのは、正解だな。)
フゥォンカイは、ニヤリとすると、お辞儀をする。
「銀貨1枚になります。」
「分かった。」
そう言って、銀貨1枚を渡すと、店の主人は別の羊皮紙を取り出す。
羊皮紙には予め魔法紋が描かれており、その魔法紋に奴隷の主人の血を混ぜた特殊なインクで最後の仕上げを行う。
最後に誰がその奴隷の主人になるのかを、その主人の血を使ってスクロールの奴隷紋に描けば、その奴隷は、使った血の人の物になる。




