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ヲンムンと奴隷商

 

 帝国軍本部を出たヲンムンは、西に向かう。


 向かう場所は、皇城の西側の区画である、第三区画になる。


 そこには、多くの奴隷商の館が有るので、その区画へ向かったのである。


 ヲルンジョンに言われた奴隷を購入する為である。


 帝国では亜人奴隷を認めている為、公に奴隷の売買が可能となっている。


 その事が帝国が他国に嫌われている一つである。




 奴隷商の館に入ると、主人のフゥォンカイが出迎えた。


「いらっしゃいませ、今日はどのようなご用件でしょうか?」


 フゥォンカイは、以前の調査で客が帝国軍諜報部のヲンムンだと似顔絵の顔を頭の中で、特徴を照らし合わせる。


(こいつは、帝国軍の監視者だな。 店になんのようだ。)


 だが、知らん顔を決め込み挨拶をした。


 そんなフゥォンカイの思惑に気がつく事もなく、ヲンムンは話を進める。


「ここに、冒険者に同行できそうな奴隷は居るか。」


 ヲンムンは出迎えてくれた主人に、そう聞くと店の主人のフゥォンカイは丁寧に答える。


「問題ございません。 最近はそう言った需要もございますので、色々取り揃えております。」


(冒険者に同行できる奴隷? 何に使う? それよりも商談だ。 上手くすれば、この男から、あの亜人達の情報も手に入れられるかもしれない。 ここは、丁寧に対応するだな。)


 そう言うと、手もみをしながら、直球で聞く。


「大変失礼ですが、ご予算は、いかほどでお考えでしょうか。 ご予算に見合った中で、一番良い奴隷をご案内させていただきます。」


 そう言われると、ヲンムンは、鬱陶しそうにいう。


「中銀貨1枚だ。」


 奴隷に掛ける金額としては相応の金額ではあるが、先程のヲルンジョンから受け取った金額よりかなり少ない。


 ただ、帝国軍にしても、奴隷商からの購入の伝票の様な物を残すわけにはいかないので、この様な時の領収証の類は不要となる。


 そのため、この様な時に上前を跳ねるのは、一般的な方法なのだ。


(ヲルンジョンの野郎、俺に渡す金額から、どれだけの上前を跳ねたんだろうな。 あいつのことだから、半分以上跳ねていてもおかしくないのか。 クソッタレ野郎め! )


 ヲンムンの思惑など気にせず、フゥォンカイは提示された金額に笑みを浮かべると、奥のドアを示すとヲンムンをドアに促すように言う。


「こちらへどうぞ。」


 そう言うと、店の奥に案内してくれる。




 フゥォンカイは、この帝国軍諜報部の諜報員が、亜人奴隷を買いに来た理由を考えつつ案内をする。


 ジューネスティーン達を帝国軍が監視している事は、自分の監視を外した後も、別の方法で情報は集めていた。


 状況の変化が起きたら直ぐに行動に移せる様にしているので、同業者や情報屋からジューネスティーン達の動向は確認している。


 ヲンムンが奴隷を買いに来たことから考えられる事は、尾行を増やすか、潜入という事になる。


(待てよ、さっき、ヲンムンは、冒険者に同行できる奴隷と言った。 だったら、奴隷を潜入させるのか。 対象は、ジューネスティーン達だな。)


 フゥォンカイは、そうだろうと予想する。


(さて、潜入スパイとなったらどのタイプが良いかな。 ウサギ系の女とチーター系の男だった。 同系統の亜人? いや、別の系統の亜人の方がよいのか。 切り崩すなら、チーター系の男の方か。 あれが一番年齢が低いはずだから、あのチーター系の亜人が好みそうな亜人がいいのか。)


 フゥォンカイは考えながらヲンムンに、どの奴隷を与えれば良いか考え出す。




 店の奥は、通路の両側に部屋があり、通路側は壁ではなく、太い鉄格子で区切られている。


 扉は分厚い木の板を金属の板で挟み込む様なっており、いかにも頑丈な作りになっており、その中に様々な亜人が入れられている。


 まるで牢獄の様な作りになっている。




 暫く歩くと、一つの鉄格子の前で止まる。


 その中には、4人の亜人が奥の方に、うずくまっている。


 寝具は無く、丈の長い草で編まれたゴザの様な物の上にうずくまり、体に辛うじて毛布の様な物を体に纏う様にしていた。


「お前達を見たいと言うお客様が来た。 さあ、こっちに来て、檻の前に並べ。」


 奴隷商のフゥォンカイが、話をすると、うずくまっていた亜人達が、身に纏っていた毛布を取ると、ゆっくり立ち上がり、檻の前に並ぶ。


 揃ったのを確認すると、ヲンムンに奴隷の案内を始める。


「お客様の予算ですと、こちらの中の奴隷がよろしいかと存じます。」


 示された鉄格子の中には、4人の亜人が入れられている。


 どの奴隷も、下着の下だけを履かせられているだけ、上半身には何もつけていない。


 そして胸には黒い奴隷紋が見えている。


 全員が女性で、猫系の亜人である。




 それをみたヲンムンが、疑問をフゥォンカイに聞く。


「猫系の、しかも女の亜人は冒険者に向いているのか。」


 なんで、この猫の亜人奴隷を紹介するのか、ヲンムンは疑問に思ったのだ。


「問題ございません。 跳躍にも優れておりますし、目も耳も良く、人属より暗いところも見えますので監視にも向いております。 女性でもありますので、夜の方でも大変重宝いたします。 人属と亜人であれば、妊娠の心配もございませんし、持って来いの逸材だと確信しております。」


 主人としては、ヲンムンが、帝国軍諜報部で、ジューネスティーン達を、監視している事を知っている。


(ジューネスティーン達に、スパイを潜り込ませようと考えているなら、あのメンバーの中に女子を入れた事で、パーティー内の男達がどう動くか? それに、上手くすれば不和を発生させて、分裂させる事ができれば、自分にもチャンスが生まれる可能性もあるさ。 散々、盗賊達に弄ばれた女達だ、男達の扱いもできるだろう。)


 フゥォンカイも自分なりに考えて、女性奴隷をヲンムンに紹介したのだ。




 ヲンムンは、その中の4人を確認すると、手足が細く栄養失調気味なのが見て取れるが、手前の1人だけが、その中では肉付きも、他の3人より良かった。


 下着一枚だけなので、筋肉の付き方は直ぐに見て取れた。


「分かった。 それじゃあ、一番右のを貰おう。」


 店の主人は、ニヤリと笑うと、指定された亜人を呼び寄せる。


 奴隷達は、店の主人の奴隷紋によって束縛されているので、指示された通りに、その猫の亜人は鉄格子の脇の扉の前まで来る。


 店の主人は鍵を開けて、その奴隷をオリの外にだす。


 呼ばれた奴隷は、恥ずかしそうに片腕で両胸を隠す様に反対の肩を持ち、もう一方の手で下着を隠す様に立ち、顔は横を向いて奴隷商とヲンムンに目を向けない様に立っている。


「お客様は、お目が高いですねぇ。 この奴隷はつい最近買ってきた奴隷なんですよ。」


 そうニヤニヤとしながら言うと、奴隷商は仕事に移るために移動するので、ヲンムンを促す。


「それでは、奴隷紋の描き直しをさせて頂きますので、こちらへどうぞ。」


 そう言うと、猫の亜人を連れて入口に行く。


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