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別の報告書


 ヲンムンは、あの日の事かと思っていると、ヲルンジョンは報告書の内容を読み上げる。


「細長の長剣を持った男が1人、魔法職の女が1人、エルフの男女1人ずつ、ヒョウ系の男の亜人が1人、ウサギ系の亜人の女が1人。 それが、西の湖の魔法騒ぎがあった後、その湖から戻ってくるのを近くの農民に目撃されている。」


 その話を聞いているヲンムンの顔から血の気が引いてくる。


 その様な構成のパーティーは帝国ではジューネスティーン達しか居ない。


 自分が巻かれてしまった後に、そんな事があったと、ヲクムンは理解したようだ。


「分かっているな。 このメンバー構成のパーティーは、帝国には1組だけだ。 そのパーティーとは、君の監視対象のパーテイーだけなのだよ。」


 そう言って、暫く間をおいて、ヲルンジョンはヲンムンの様子を伺うが、自分がジューネスティーン達に、巻かれてしまった事について、言い訳を考えるが思い浮かばない。


「君の見解を聞きたいのだが。」


 黙ってその話を聞いているヲンムンの拳が震えている。




 ヲクムンは、このヲルンジョンに返す言葉が見つからない。


 自分の失態をした後に、この始末である。


 叱責されるのは、仕方がない事なのだが、ただ、その日の報告書には、嘘の記載はしていない。


 適当な報告をあげておいて、監視をしていた様な報告をあげていたら、今の話で報告書の内容と異なる事になって、大きな問題になってしまう。


 新人冒険者パーティーの監視なのだから、自分が危険に晒されるような強力な魔物の側による事もないのだ。


 そんな簡単な仕事で給与が支払われているのだから、かなり有難い仕事だと思っていたのだが、かなり様子が違っていた。


 ジューネスティーン達に巻かれてしまった時も、その後、帝国を出たわけでもなく、夕方遅くには宿である金糸雀亭に戻ってきたので、その間の行動が不明となっただけなのだ。


 ただ、その事をヲルンジョンに指摘された事が、ヲンムンには嫌だったのだ。


 この男にだけは、そういった事を指摘されるのが嫌だったのだ。


 ただ、それは、ヲンムンだけでなく、ヲルンジョンの下で働いている全ての人が同意見なのである。




 ヲンムンの表情を見たヲルンジョンは、状況からの推測を述べる。


「どうも、君1人では、対象に巻かれてしまうな。 ヲンムン軍曹、君にいい案を提供しようと思って、今日はカルンコン准尉に代わってもらったのだよ。 そういえば、カルンコン准尉は君の後輩だったか。 私としても君のことを思えば昇級させたいと考えていたのだ。 だが、今回の案件が終わった後には昇進と思ったが、今回の様な事が続く様だと、それも見送りになるな。」


「・・・。」


 後輩に追い越された事を指摘する。


 ヲンムンとすれば、そんな事は指摘されなくても分かっているのだが、わざわざ言ってきた。


(ふん。 お前も同期からも出世は遅れて、後輩に抜かれているのだがな。 その話は、そっくりお前に返してやる。 それとも一度殴った方が良いのかもしれんな。 立場さえなければ、一度は殴っていただろうな。 このクソ上司! )


 そんな嫌味な事を平気で言い切るヲルンジョンを殴り飛ばそうかと思いつつも、立場を弁えて思いとどまる。

 相手は爵位の無い貴族と貴族の中でも下級だが、貴族は貴族である。


 自分の属する派閥の力を使えば平民出身の自分など、直ぐに帝国から追放されてしまうか、悪くすれば消される事だってあり得る。


 そう考えると、ここでこの嫌味なヲルンジョンを殴り飛ばす事は出来ない。




 沈黙しているヲンムンを見るヲルンジョンが、懐から中銀貨を3枚取り出してテーブルに置く。


「このままだと、カルンコンとの差も開く一方だ。 この金で奴隷を雇って監視対象に潜り込ませろ。 亜人をパーティーに入れているのだから、あのパーティーなら、もう1人亜人をパーティーに入れても構わないだろう。」


 そう言われて、不安そうにヲンムンが聞く。


「奴隷を彼らに雇わせるのですか。」


 そうヲンムンが答える。


(いや、そんな事は無理だな。 俺が奴隷を雇って、奴らのパーティーに潜りこませるって事か。 そうなると、新人冒険者として、奴らのパーティーに入れるのは、その亜人次第だな。 頭の良さそうで芝居がうまそうな亜人を探す必要があるのか。)


 ヲクムンは、方法を考えていた。


 だが、どんな方法を取れば良いのかと考えていると、ヲルンジョンが話をしてくる。


「まさか、その方法について、私に聞く事は無いよな。」


 そう言って、ヲンムンが何か言い出すのを制してしまう。


「これは、君の出世の為なのだよ。 その位は自分で考えてくれたまえ。」


(このクソ上司は、自分では何も思いつかなかったんだな。 方法も全て丸投げにするつもりか。 まあ、後でこのクソ上司の話の通りに進めて、成功したとしても、自分の案として伝えたから成功したと言い出すだろうからな。 ここは、少し知恵を絞る必要がありそうだ。)


 ヲンムンに言う事を伝え終わった、ヲルンジョンは椅子から立ち上がる。


「後は、よろしく頼むよ。」


 ヲルンジョンは、ヲンムンの肩を叩いて会議室を出て行く。




 亜人奴隷を雇って、その奴隷にジューネスティーン達を探らせろ。


 ただし、方法は自分で考えろ。


 とんでもない命令を出してきたと思ったのだろう、ヲンムンはテーブルに残された中銀貨3枚を拾い、椅子を軽く蹴飛ばす様にして机に戻すと、会議室を退室する。


 ヲルンジョンに対して、心の中で罵声を飛ばしながら、会議室を出て本部を後にする。


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