追跡に失敗した日
帝国軍本部に着くと、ヲルンジョンが居る事務所に入る。
朝早かったせいで、ヲルンジョンは出勤していない。
嫌な上司であって、何かと愚痴はこぼすし、指示はいい加減で、報告書も目を通しただけで上に上げる。
報告書の内容を理解せずに上に上げるので、上から質問されても答えられない。
この前など、報告書を届けてから、目を通した後に確認のサインをしたのだが、後に、その報告書を統括であるメイカリア中佐に持っていった後に叱り付けられたこともあった。
ごく些細な事なのだが、ヲルンジョンには難しすぎたのかもしれない。
報告書の内容が説明できなかった様だ。
直ぐに説明をするとその内容を鵜呑みにして、戻っていったが、その後はしばらく戻ってこなかった。
その後にヲルンジョンから報告書の内容について、再度説明を求められたので、もう一度説明した。
この上司であるヲルンジョンは下級でも貴族の出身なので少尉ではあるが、他の同世代の貴族は出世しているが彼だけはいまだに少尉のままなのは、このいい加減な仕事のせいなのだろう。
ただ、経費の請求にはかなり厳しく見られる。
使った費用について、特に飲食代については、水増しして請求などしようもものなら、直ぐに見破られてしまう。
金についてはシビアで、仕事の内容は雑な、嫌な上司である。
その為、周りからは嫌われている。
いつか、支給される経費について、不正でも起こさせて失脚させてやろうかとか、下士官の宴会の際に話が出たほどだ。
ヲンムンは、自分の机は無いので、入口付近にあるソファーに腰を下ろし、ヲルンジョンを待つ。
ヲルンジョンは自分用の執務室は持っておらず、事務所の一角に机が用意されているだけである。
その事務所にも徐々に出勤してきた人が居るが、ヲルンジョンはまだ出勤してこない。
一つの席を除いて出勤して来た士官達が席について徐々に仕事を初めているのに、ヲルンジョンの姿は現れない。
呼び出しの内容については、先日のレポートの件かと思って、とりあえず、魔法職の女性が魔法を使ったみたいだと言っておけば良いだろう。
席に着いている人達の中には、一通りの書類に目を通して一息ついているもの、書類の内容を相談している物も出てきている。
そんな中で1人で入り口付近にあるソファーに座っているヲンムンは、そんな風景をなんとなく見ていると、事務所のドアが開き、ヲルンジョンが入ってきた。
ヲンムンは、ソファーから立ち上がり敬礼をする。
「連絡を頂きましたので、参上致しました。」
ヲルンジョンはヲンムンをジロリと見ると返事をする。
「ちょっと、待ってろ。」
そう言うと、自分の席に鞄を置き、入口に居るヲンムンのところに戻ってくる。
「こっちに来い。」
そう言うと、事務所を出て、隣の会議室に向かう。
ヲンムンはその後を追うが、ヲルンジョンの機嫌が悪い事が気になっている。
会議室に入ると、ヲンムンはドアを閉めて立っている。
ヲルンジョンは入口近くの椅子に座ると、直ぐに話を始めた。
「数日前に西の湖で大掛かりな魔法の報告を受けている。 その魔法について調査をした部隊からの報告書に君の監視対象と良く似た人物とあった。 それで、君の報告について調べてみたのだが、その日の報告は1日、宿屋にいた事になっていた。」
話の内容から、その日の調査対象の事を思い出しながら答える。
「はい、報告書に挙げたとおりです。 報告書への記載には嘘も誤魔化しもありません。」
「おい、それは確かか? 君の報告書を読むと、その日は、ギルドに一度出かけた様だが直ぐに戻って、出かけるが、馬でも追い付かない馬車のおかげで巻かれたとあった。」
それを聞いていつの事か思い出した。
その日はエルフの2人と魔法職らしい少女の3人が宿を出てギルドに向かったのだ。
この様な場合は、ジューネスティーンを優先する事になっていたので、自分は、金の帽子亭にとどまって、様子を伺っていると、3人は同じ通りにあるギルドに入っていった。
3人は戻ってきて宿の中に入ると、しばらくたってから、全員が馬車で外出した。
西門から出てから馬車とは思えないスピードで走り去り、その後を追っていたのだが、自分の乗っている馬がバテてしまて追い駆けることが出来なかった事を思い出している。
対象に巻かれてしまった場合は、宿に戻ってくるのを待つ。
無闇に走り回って、見つかる事は無いので、その時のマニュアルの通りに、宿に戻ってくるのを待っていたのだ。
その事についてもちゃんと報告をあげているので、問題はないはずなのだ。




