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剣 〜焼き入れを遅らせる粘土 4〜


 ジューネスティーンは、剣の曲がり具合を確認する為に、剣を4等分に分けて粘土の厚みを変えて変化を確認しようと考えていた。


 先端から、4等分に分ける為、剣の中心部分に白墨で一周するように印を付け、その中心部の線を基準に、切先側から中央の印の中間と、柄側から中央の印の中間に白墨で線を付けた。


 そして、粘土の泥を刷毛はけで塗っていくため、桶の中から刷毛を手に取った。


 先端から、全体に刷毛塗りすると、今後は、先端の4分の1を残して刷毛で二度塗りを行なっていると刷毛を止めて、その状況を見て眉をしかめた。


 シュレイノリアも、その状況を見ていて微妙な表情をした。


「なあ、ジュネス。その程度の違いでは差が出ないのではないか?」


「ああ、実験なら大胆に違いが分からないと、成功した時に方向性を決められないかもしれないな」


 刷毛塗りだとなかなか厚みが取れない、その事をシュレイノリアが指摘するとジューネスティーンも同じ事を考えていたようだ。


 すると、ジューネスティーンは、周囲を見渡すと、工具が置いてある棚に移動して、その棚を物色すると1センチ幅程のベラを見つけた。


 そのベラを、裏表、先端側の辺の部分を確認し何やら納得したような表情をすると、そのベラを持って剣の元に戻った。


 刷毛塗り用に用意した粘土の泥を溶かした桶にベラを入れてすくい、その滴り具合を確認すると、桶に少し粘土を足してかき混ぜた。


 ジューネスティーンは、今まで刷毛塗りしていたが、その刷毛塗りの粘り程度では、ベラで塗るには粘りが低いと思い粘土を足したようだ。


 桶の中をかき混ぜていると、外に置いた刷毛を見ると、少し考えてから桶をもう一つ用意した。


 持ってきた桶に、溶いた粘土の泥の半分を桶に入れると、片方の桶に、粘度を上げるために粘土を追加し馴染ませるように撹拌かくはんした。


 ジューネスティーンは粘度を確認して納得すると、そこにベラを入れて、ドロドロの粘土をすくうと剣の中央から切先側、4分の1の峰側に乗せ、そして、剣の中央から切先側の4分の1に乗せると泥をベラで伸ばし始め、綺麗に均等に乗せられたと思うと次の4分の1に移った。


 中央から切先側に乗せた泥より、中央から柄側は、泥の量を増やすのだが、ジューネスティーンは、ベラで乗せた粘土を今後は2回乗せた。


 中央から柄側の4分の1部分に、中央から切先側の2倍の量を乗せ、それを丁寧にベラで伸ばしていく。


 しのぎから峰までを、丁寧に粘土の泥の厚みが均等になるようにベラで伸ばしていった。


 息を呑むような真剣な様子で粘土の泥を平らになるようにしていた。




 そのジューネスティーンの様子を、シュレイノリアも真剣な様子で見ている。


 シュレイノリアとしても、剣の反りを焼き入れの入り方で作ると提案したので心配していた。


 焼き入れを遅らせた事によって材質の変化を持たせる事から、焼きの入り方で伸び縮みがあるだろうと予測していたのだが、どちらに変化するか、または、何も変化が無いのかも分かっていなかった。


 可能性としてあるだろう事を指摘して実験する事になっていた。


 理想は、峰側の焼き入れを遅らせた事によって峰側に反る事なのだが、シュレイノリアとしても、この粘土を乗せた事によって、どちらに反るのか心配だった。


 刃側は、焼き入れを行って硬度を増したいので、この実験では峰側に粘土の泥を乗せ、刃側は何もしていない。


 焼き入れは高温に熱した剣を水の中に入れて、一気に温度を落とす事で焼きが入る。


 それは、鉄の原子間の結合が、一気に冷えることで変化を生じるのだが、焼き入れによって、鉄は硬度が増すことになるが、その入り方の違いによって伸縮があるだろうと考えていたのだが、それが伸びるのか縮むのかデータが無い事から今回の1本目の焼き入れで確認を取りたいと思っていた。


 もし、この方法で刃側に反ってしまった場合は、別の何らかの方法を考えなければならない。


 刃側に反ってしまった場合、最悪、この方法は使えない事になるので、シュレイノリアも気になっていた。




 ジューネスティーンは、最後に柄側の4分の1に3倍の粘土の泥を乗せた。


 そして、ゆっくりと、その泥をベラで伸ばしていく。


 途中、鎬を越えて刃側に泥が流れそうになるが、持っていたベラで流れないようにしつつ、多めの泥を乗せていった。


 ジューネスティーンは、剣の片面の鎬から峰にかけて粘土の泥を綺麗に乗せ終わらせた。


 それを2人は、何も言わずに眺めていた。


 2人は、泥から水分が抜けて固まるまでを見るのかと思うほど長い時間見ていた。


 お互い、この焼き入れの実験によって、どうなるのか2人の希望も含めて泥の塗られた剣を見ているようだ。


 だが、塗られたのは片面だけなので、泥が乾いたら反対側を同じように塗る必要があるのだが、自分達の思いをぶつけるように泥の乗った剣を見ていた。


「なあ、ジュネス。綺麗に塗れたが、この後、裏を同じように塗らないといけないな」


「ああ」


 シュレイノリアは、自分のアイデアもあったので片側に粘土の泥が塗れたのを見て感慨深いものがあったようだ。


 アイデアが、上手くいった時とダメだった時、その時の気持ちのあり方は全く異なる。


 焼き入れをした時、刃側に反るのか峰側に反るのか、その反り方によって、シュレイノリアの気持ちは天と地との差が出る。


 その結果が出るまで、シュレイノリアは気が気ではないようだ。


 それは、ジューネスティーンにも言えるようだった。


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