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支払い


 カインクムとユーリカリア達が、店に向かった。


 そこには、フィルランカが、お茶の準備をして待っていた。


 ユーリカリア達は、それぞれが発注した剣を持って、店の中に備え付けられているテーブルに向かう。


 それぞれが思い思いに座ると、フィルランカが、お茶を入れ替えて、お菓子を用意してくれた。


 パンケーキに蜂蜜を掛けてあった。


 ユーリカリア以外は、全員、目の前に置かれたパンケーキに目が行ってしまっていた。


 ユーリカリアは、甘い物も良いのだが、酒が出された時程に興味はそそられてない様子でいる。


「せっかくだから、軽く食べながら、話をしよう。」


「「「いただきます。」」」


 カインクムが、お茶とケーキを勧めると、ユーリカリア以外が、声を揃えて、いただきますを言ってきた。


「あ、いただきます。」


 その後をユーリカリアが、慌てて、いただきますを言った。


 その後は、ユーリカリア以外全員が、パンケーキに手をつけていた。


 そんな5人を他所に、ユーリカリアは、お茶を啜っていた。


 パンケーキを食べ始めた5人は、思い思いに自分の前に出された皿から、フォークで切って食べていた。


「これ、フィルランカさんが、作ったのですか? 」


 一口食べ終わったところで、ヴィラレットが声をかけた。


「ええ、皆さんがお見えになったら、お出ししようと思って準備しておいたのですよ。」


 フィルランカとしたら、中銀貨5枚の売り上げをしてくれる、高級客なのだ。


 その程度のサービスは、当たり前だと思って出したのだ。


「これ、蜂蜜がかかってますよ。」


「いや、それどころか、ケーキにも砂糖を使っているぞ。 本格的なケーキだぞ。」


 ヴィラレットが、フィルランカに話しかけると、周りで食べていたメンバー達が、ヒソヒソと話し始める。


 そして、大事そうに食べていると、ユーリカリアも、周りの話を聞いて、自分もパンケーキに手を付けた。


 ただ、その中で、1人だけが、一気に食べていた。


「あーっ、美味しかったです。」


 そう言って、一気に食べてしまったのは、シェルリーンだった。


 それ以外の5人は、味わって食べていたのだが、シェルリーンだけは、一気に食べ終えると、お茶を飲んでいた。


((やっぱり、シェルは、雑だわ。))


 その姿を見ると、周りは、声には出さずに、シェルリーンを見つつ、全員が、シェルリーンから、お皿を離すように、そーっと動かし始めた。


 そんな事にシェルリーンは、気が付かずに、お茶を飲んでいた。


 ただ、他は、ゆっくりと、噛み締めるように食べているので、食べ終えて、落ち着くと、シェルリーンは、周りを気にし始めた。


 シェルリーンは、食べ終えているのだが、他は、半分も食べてないのだ。


 やらかしてしまったシェルリーンに、周りは、目を合わせないようにしつつ、シェルリーンの横に居たフェイルカミラとウイルリーンは、徐々に、椅子をシェルリーンから遠ざけていた。


 そんな周りのメンバーの態度が、シェルリーンは、気になりだすと、ジト目で周りを見出しながら、お茶を、今度は、啜るように飲み始めた。


 そして、ユーリカリア達は、無言で、パンケーキを食べるのだった。




 そんな雰囲気の中、カインクムと、フィルランカは、困った様子で、話しかけられずにいたのだが、その雰囲気を終わらすように、ユーリカリアが、ケーキを半分食べたところで、カインクムに声をかけた。


「剣の出来栄えは、全員、満足できたようだ。 支払いは、それぞれが、行うので、とりあえず、私の分の支払いを終わらしておく。」


 そう言って、カインクムの前に、中銀貨1枚を出した。


 すると、周りも、一人一人、中銀貨1枚を、カインクムの前に出した。


「ああ、ありがとう。 確かに受け取った。」


 そう言って、カインクムは、中銀貨5枚を受け取ると、フィルランカに渡した。


「これ、いつものところに入れておいてくれ。」


 フィルランカは、受け取ると、中銀貨5枚を持って、奥に持っていった。


「これで、その剣は、あんた達のものだ。 ゆっくりと、食べていってくれ。」


 そういうと、カインクムは、お茶を啜る。


 そして、シェルリーン以外は、出されたパンケーキを、また、食べ出した。


 その様子を面白くなさそうにしながら、シェルリーンは、お茶を啜っている。




 すると、カインクムは、テーブルの上に銀貨を12枚置いた。


「頼みがある。 その今日渡した剣なのだが、可能な限り人目につくようにしてもらえないか。 これは、その宣伝費用として受け取ってほしい。」


「なるほど、1人、銀貨2枚で宣伝してくれって事か。」


 カインクムの話になるほどなとユーリカリアは、思ったようだ。


 それに、フィルランカに自分達の支払金を、しまわせてから話のなら、フィルランカには、知られたくないと思ったようだ。


「しかし、これだけの細身の剣だと、実際に使わないと分からないでしょう。」


 フェイルカミラは、自分では、分かっているが、今までのイメージというものがあるので、通常の半分以下の刃幅の剣が、そう簡単に売れるとは思わなかったようだ。


「確かに、これは、使ってみなければわからないと思う。」


 フィルルカーシャもフェルカミラの意見に同意したようだ。


「ああ、確かにそうだ。 だが、ユーリカリアの剣は刃幅も広い。 それに、エルメアーナの剣を持っているなら、その剣がものを言う。」


「なるほど、南の王国のよく斬れると噂の剣がある。 不安に思うなら、ユーリカリアの刃幅も作れるというわけですか。」


「そうですよね。 この前、そのエルメアーナさんの剣を、宿の裏で試し斬りしてみましたけど、私の剣と遜色無く使えました。」


 ヴィラレットが、カインクムの剣は、エルメアーナの剣と変わらないと言ってくれた。


 当然、出どころは、ジューネスティーンなのだから、その剣を真似て作っているので、出来上がりは、ほとんど変わりは無い。


 そして、お互いに鍛冶の腕は、一流ときているので、斬れ味は遜色無いのだ。


「なるほど、それなら、この店で売られている剣は、噂の剣と同じとなるのですか。」


「それだけじゃ無いでしょう。」


 フェイルカミラの話に、今まで黙っていたウィルリーンが、口を挟んできた。


「本命は、カリアの剣ですよね。」


「ん? 」


 ユーリカリアは、宣伝をすることは、すぐに分かったようだが、本命は、自分の剣と言われて、よくわからなかったようだ。


「一般的な曲剣は、刃幅が広いし、厚みもある。 今までの剣のイメージを、拭い去るには、かなりの時間が必要になるわ。 でも、カリアの剣は、刃幅が広い。」


「ああ、そういう事ですか。 それなら、リーダーの剣は、うってつけですね。」


 ウィルリーンの説明にフェイルカミラが、気がついたようだ。


「それは、どういう事なんですか? 」


 シェルリーンは、ポカンとした様子で、フェイルカミラに確認する。


「ああ、リーダーの剣は、刃幅が広いだろ。 あの広さなら、今までの曲剣のイメージから、直ぐに移せるってことさ。」


「ああ、そういえば、私も曲剣のイメージが合ったから、刃幅を広くしてもらったんだ。」


「ふーん。」


 ユーリカリアの話に対して、ウィルリーンは、ジト目で見る。


「な、なんだよ。」


「いえ、別に。」


「チェッ! 」


(少し位、私にも良い所を持たせろよ。)


 ユーリカリアは、不満そうな表情をする。


「カインクムさん。 言われた通り、宣伝を含めて、この剣を使わせてもらうよ。」


「ああ、よろしく頼むよ。」


 納得した様子で、12枚の銀貨を1人2枚ずつ渡す。


「あれ、きっと、剣のこと追求されたくなかったのよ。」


「そうなんですか。」


 フィルルカーシャが、小声で、ヴィラレットに言うが、それを、ユーリカリアに睨まれると、慌てて、明後日の方を向く。


「きっと、うまくいきますよ、カインクムさん。 ちゃんと、宣伝します。」


 そう言うと、ユーリカリアは、椅子から立ち上がる。


 それにつられて、他のメンバー達も立ち上がると、ユーリカリアが、礼をする。


 それを見て、全員が、カインクムに頭を下げた。


「ありがとうございます。 大事に使わせてもらいます。」


「ああ、注文してくれて、ありがとう。」


 カインクムは、少し寂しそうに答えた。


 ユーリカリアは、カインクムの言葉を聞くと、すぐに店を出て行く。


 その表情には、何か思うところがあるようだ。




 店を出ると、ユーリカリアは、黙って、歩いていた。


 その少し後ろで、いつでも声をかけられそうなところをウィルリーンが歩いている。


 リーダーと副リーダーの雰囲気が、何も聞くなと言っているように思えたのだ。


「リーダー、どうかしたのですか? 」


 ヴィラレットが、フェイルカミラに声をかけた。


「いや、リーダーじゃないだろう。 あれは、カインクムさんの思いを受け取ったんだ。 その思いが、重いと感じたんじゃないか。」


「きっと、カインクムさんは、この5本の剣に、とても思い入れがあったんじゃないかな。」


 フィルルカーシャも、何かを感じた様子でフェイルカミラの話に乗ってきた。


 ヴィラレット達は、カインクムの思いをもらった5人の重圧のようなものを感じたようだ。


 そして、自分の腰にさしている剣を見る。


(これにも、カインクムさんの思いが詰まっているのね。)


 魂のこもった剣を受け取ったのだと、ヴィラレットも実感するのだった。


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