フィルルカーシャの剣と試し斬りについて
カインクムは、工房に最後のフィルルカーシャの剣を取りにいった。
フィルルカーシャは、身長120cmと周りから比べると、かなり低いのだが、それを補うため、刃渡りではなく、柄の長さを長くしてカバーしているのだ。
その身長を補うために柄を長くして、近接戦闘をカバーしているのだ。
本来なら、柄はただの棒状になるのだが、カインクムは、柄の刃側と柄尻の部分を太くして、バットのグリップのようにしてあるのだ。
(ウサギの嬢ちゃんが気にいてくれるといいんだがな。)
カインクムは、剣もだが、柄にも工夫をしておいたのだ。
その剣を持つと、カインクムは、店に戻る。
そこには、自分の剣を翳してチェックしている、フェイルカミラとシェルリーンがいて、その様子を横から覗き込んでいるフィルルカーシャとヴィラレットがいた。
そして、その様子をボーッと見ている、ユーリカリアとウィルリーンが居た。
その光景を面白いとカインクムは思ったようだ。
「ウサギの嬢ちゃん。 これが、あんたのだ。」
それを聞いて、フィルルカーシャは、今まで見ていたシェルリーンの剣にむけていた視線をカインクムに向けると、息を呑んで顔が綻んでいた。
「ハァ〜ァ〜ァ。」
カインクムは、鞘にも入れられてない剥き出しのフィルルカーシャの剣を持ってきた。
そして、もう一方の手には、木でできた鞘を持っていた。
「嬢ちゃんの鞘は、どうしようかと思ってたんだ。 これは、他と一緒で木で作ってあるが、革で作ろうかとも思ってたんだ。 革なら直ぐに作れるから、嬢ちゃんの好みに合わせようと思ったんだ。」
「フワ〜ァ、これ、これ、私のですか。」
そう言って、椅子から立ち上がって、奥の扉の前で立っているカインクムの方に歩いていく。
「ああ、これがウサギの嬢ちゃん用に作った剣だ。」
「ふふ。 でも、カインクムさん。 私をお嬢様扱いしてくるれるのは、嬉しいんですけど、私にもフィルルカーシャという名前があるのですよ。」
「ああ、そうだったな。」
「でも、みんなは、カーシャと呼びますから、カインクムさんも、カーシャと呼んでください。」
そう言いながらカインクムの前に、フィルルカーシャが来ると、持っていた剣をフィルルカーシャに渡す。
フィルルカーシャは、床に立てるように剣を持つと、自分の顔の前に刃を立てた。
「そうだったな、子供扱いしたみたいで悪かったな。 カーシャ。」
「あーっ、だったら、私も、ヴィラレットです。 ヴィラと読んでください。」
今まで、嬢ちゃん扱いされていたのを、気にしていたようだ。
「ああ、そうだったな。 これからは、ちゃんと名前で呼ぶよ。 ん? でも、カーシャとかヴィラで構わないのか? 」
「「はい。」」
「わかったよ。」
ヴィラレットとフィルルカーシャは、嬉しそうな顔をカインクムに向けた。
(やっと、私も、愛称で呼んでもらえそうです。)
(えへ。 有名なカインクムさんのような鍛冶屋さんに、ヴィラって呼んでもらえるわ。)
2人は、カインクムに大人扱いしてもらえて嬉しいようだ。
「おい、それよりカーシャ、その剣の鞘はどうする? 」
愛称の話で開いてしまった鞘について、カインクムが質問してきた。
「ああ、せっかくですから、その木の鞘でお願いします。」
「でも、邪魔にならないか? 」
「不意をつかれてなんてことは、少ないでしょうし、それに、これは、ちゃんと剣を保護しておきたいと思うんで、移動の時とかは、しっかり守れるようにしておきたいです。」
カインクムは、フィルルカーシャの言葉が嬉しかった。
それは、自分の作った剣を大事に使うということに聞こえたからだ。
「そうか、じゃあ、これな。」
そう言って、手に持っていた鞘をフィルルカーシャに渡した。
フィルルカーシャは、カインクムから木の鞘を受け取ると、剣にさしてみる。
「あのー、この柄ですけど、鍔側と柄尻の方が太くなっていますけど、これは? 」
「ああ、カーシャは、柄の持つ位置を、色々、動かして使っていそうだったからな。 そんな時、グリップがあれば、上手くスライドさせて、伸ばしたり縮めたりできると思ったんだ。」
「おおおーっ! ありがとうございます。 私は、身長が無いから、それを補うために柄が長いのですけど、これだと、考えなくても長く持ったり、短く持ったりできたできると思います。」
そう言いつつ、剣を上げたり下げたりを軽く握った状態で、剣の柄を動かしていた。
「いい感じです。 グリップに引っかかる感じがいいです。 それに、バランスも剣の方に偏ってなくて、いいです。 私の身長でも振り回すのにも、とても、扱いやすい気がします。」
そのフィルルカーシャの評価に、カインクムは満足そうに聞いている。
「おーし、全員の剣が揃ったから、試し斬りするぞー。」
ユーリカリアが、メンバー達に声をかけた。
「ああ、カインクムさん。 剣の出来栄えを疑っているわけじゃないです。 むしろ、早く、斬れ味を確認したいんです。」
「ああ、分かっている。 ヴィラの試し斬りの時のこともあるからな。 斬れ味を確認したいだろう、ちゃんと準備してあるよ。」
ユーリカリアとカインクムの話を聞いて、周りの目の色が変わった。
「ああ、ヴィラ。 お前、前回、全員に試し斬りさせてたけど、今回は、全員の剣の試し斬りをしてみるか? 」
「えっ! いいのですか? 」
ユーリカリアに言われてヴィラレットは、喜ぶのだが、他の4人は全て先輩なので、遠慮気味に4人の顔を見る。
「私のは、基本、あなたの剣と同じだけど、使った感じを聞きたいわ。 手作りの微妙な違いを教えてもらえればいいわ。」
「ええ、極めた技の斬れ味は見ておきたい。 槍から剣に変えたから、理想的な剣筋とかは確認しておきたい。 むしろ、私は、試し斬りしてもらおうと思った。」
「私のは、柄が長いけど、試してみてください。」
「えっ、あっ、ええーっ、はい。 私のも試し斬りしてください。」
ユーリカリアの言葉に、4人とも同意した。
「ありがとうございます。 全部、試させてもらいます。」
ヴィラレットは、嬉しそうに答えた。




