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4人の剣


 カインクムは、店の奥の扉を閉めると、表情が一変した。


(あれが、エルメアーナの剣なのか、それにあの刃に波打つような紋様は、あれが、刃紋かあ。 あんな、見せることも考えた剣を作れるようになっていたのか。)


 ユーリカリアに見せてもらった時は、父親であり、師匠であるというプライドがあったので、表情に出さなかったのだが、人の居ない所にいって、気が抜けたようだった。


 右手で顔を覆いながら、震えを抑えていた。


(基本は、同じなんだ。 だが、見た目の美しさなんて、そこまで考えられなかった。 あんな、ことまで、エルメアーナは考えられるようになったのか。)


 カインクムが黄昏ていると、後ろの扉が開く。


 不思議そうな顔で、カインクムを見る。


「あら、まだ、工房に行かなかったのですか? 」


「う、うん? あ、いや、今、行く所だ。」


 フィルランカが、困ったような顔をする。


「ちょっと、早くして! お湯が無いのよ。 私は、あなたの剣を持ってくる間を持たせなければならないんですから、早くしてください。」


「あ、ああ。」


 カインクムは、フィルランカに促されて、工房に歩き始める。


 その後ろをフィルランカが、付いて歩いて行く。


(ふふ。 もう、エルメアーナの剣に見惚れてたのね。 お互い、ライバル視しているから、きっと、あの剣を気に入ったのね。 また、さっき見た剣を真似して作るようになるのね。)


 そして、フィルランカの表情が、少し曇った。


(あーっ、でも、そうなると、また、工房にいる時間が長くなるのか。)


 フィルランカは、寂しそうな顔をする。


(また、少し、一緒の時間が減ってしまうのかしら。)


 フィルランカは、カインクムの背中を見つつ、思いに耽っていた。




 カインクムは、フィルランカに自分の表情を見られた事を恥ずかしく思っていた。


(フィルランカに、見られてしまった。 俺は、エルメアーナに抜かれてしまったのを、見られてしまった。 あーっ、失敗だ。 工房に行ってから、表情を変えるべきだった。 あーっ、恥ずかしい。)


 カインクムは、肩を落としてしまったら、フィルランカに、エルメアーナの剣に負けたと思われてしまうだろうと思い、堂々と歩いているのだが、僅かに凹んだ様子が、うかがえていた。


(今日も、また、腕によりをかける必要がありそうね。 それに、5本の剣を売り渡すのだから、きっと、今日の凹みようは、いつも以上かもしれないわね。)


 フィルランカは、カインクムの考えていることを思いつつ、リビングに入ろうとすると、カインクムを見送るために、一旦止まった。


 そして、カインクムを癒すのは私の役目だと言わんばかりの笑顔を向けた。


(今日の夕飯は、楽しみにしててね。)


 フィルランカは、リビングに入っていった。




 カインクムは、工房に入っていく。


 工房に入ると、真っ直ぐ作業台に向かう。


 そこには、作業台の上に剣立ての上に載せられている剣のところへ行くと、5本の剣を見る。


 それを見ると、ユーリカリアの剣を取る。


 その剣を取ると、残りの剣を見る。


(全部を一度には無理か。)


 5本全部を持ってとなると、ガチガチとそれぞれの剣が当たってしまう。


 それは、作る側のカインクムとしたら本意ではない。


 特に、受け渡しまで、傷一つ無い状態で渡したいのだから、もち運びの時に鞘が、別の剣と触れて、凹みができるのは厳禁なのだ。


 そう思うと、ウィルリーンの剣を手に取って、工房を出た。


 店に戻ると、テーブルにユーリカリア達が座っていた。


 テーブルの上にカインクムは、持ってきた2本の剣を置く。


 1本は、刃幅が太いので、ユーリカリアのだと、直ぐに分かったようだが、もう1本が誰のなのかとと思っていると、カインクムが、声をかける。


「ユーリカリアとウイルリーンのだ。 ちょっと確認しておいてくれ。」


 カインクムの言葉に、フェイルカミラが、ため息を吐くと、ウィルリーンは、緊張を解いた。


 他は、自分のリクエストとは違うことから、少しがっかりした様子で見ている。


「待ってな。 残りの3本も持ってくる。」


 カインクムの言葉に、依頼していた3人の目つきが変わった。


 自分の剣も完成しているとカインクムは言ったのだから、3人はニヤリとした。


 カインクムは、テーブルを離れて、店の奥の扉を出ると、ユーリカリアとウィルリーン以外が、テーブルの上に置かれた剣に、体を乗り出して覗き込んだ。


 それに対してユーリカリアとウィルリーンは、のんびりとフィルランカの淹れてくれたお茶を飲んでいる。


 4人は、のんびりとお茶を飲んでいる2人をジロリと見る。


「リーダー、確認しないんですか? 」


「そうです。 ウィルねえも、早く見ましょうよ。」


 フェイルカミラとシェルリーンの話にフュエルカーシャとヴィラレットが、同意するように、ウンウンと頷いている。


「ん? ああ、でも、直ぐにお前達のも来るだろ。」


「そうよ。 それからでも、構わないでしょ。」


 その呑気な対応に4人はムッとした。


「ダメですよ。 そんなことしたら、私は自分の剣を見てしまいます。 今のうちに、リーダーと副リーダーの剣を見て置きたいんです。」


 フィルルカーシャは、今のうちに、2人の剣を確認しておこうと思ったようだ。


 それを聞いて、ユーリカリアとウィルリーンは、一瞬、ムッとしたようだ。


「カーシャねえ、それは、2人に失礼ですよ。」


「何をもめているんだ? 」


 店の奥の扉を開いて、カインクムが戻ってきた。


 全員が、扉のカインクムを見ると、その手には、また、2本の剣が持たれていた。


 そこには、普通の剣が、2本あった。


 カインクムは、その剣をテーブルに並べておく。


「私の剣は? 」


「慌てるなって、腕は2本しか無いからな。 一度に運ぶのは、2本ずつだ。 ウサギの嬢ちゃんのも、ちゃんとできている。 この後持ってくるから、ちょっと、待ってくれ。」


 1本だけ、最後になってしまったフィルルカーシャは、不安になってしまったようだが、直ぐにカインクムが、持ってくると言ってくれたので安心した。


「一番長いのが、フェイルカミラ、あんたのだ。 それと短いのが、シェルリーン、あんたのだ。」


 それを聞いて、2人は、息を呑んだ。


「じゃあ、ウサギの嬢ちゃんのを持ってくるんで、待っててくれ。 後、出来栄えは、確認しておいてくれ。 後、試し斬りが必要なら、後で、裏に用意する。」


「「ありがとうございます。」」


 嬉しそうにシェルリーンとフェイルカミラが答えると、2人は、自分用の剣を手に持っていた。


 それをフィルルカーシャとヴィラレットが、覗き込むように見ているのを、カインクムは、横目で見つつ、工房に戻っていく。


「「おおーっ。」」


 今度のシェルリーンとフェイルカミラは、直ぐに鞘から剣を抜くと、目の前に翳していた。それをフィルルカーシャとヴィラレットが、横から覗き込んでいた。


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