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剣 〜焼き入れを遅らせる粘土 3〜


 ジューネスティーンは、剣の片側だけに粘土を塗って一日置いてから確認しようと考えていた。


 初めは粘土を貼り付ける事だけを考えており、粘土を薄く伸ばして貼り付けようとしていたが、シュレイノリアと話をする事で水に溶いて塗る事に気がついた。


 そして、塗った粘土が乾いたらどうなるのか確認するため、一晩放置する事にした。


 直ぐに裏面に粘土を塗ろうとした時、表面の粘土がドロドロしていた事もあり、流れ落ちてしまうことも嫌だと思い泥が乾いて固まった後に裏を塗った方が良いと考えたからだ。


 一晩も置いておけば固まってしまうだろうと考えてのことだ。


 そして、初めての焼き入れに対して情報は多い方が良い事もあり、時間も夕方になっていた事もあったので一晩乾かしたらどうなるか確認ができると考えていた。


 片側にだけ粘土の泥を塗った剣の様子を確認し、状況を確認して最良の案を見つける事にした。


 夕方、夕食間近なので、作業を一旦止めて今の泥の状態を確認すると、ジューネスティーンは、その日の作業を終わらせシュレイノリアと夕食に向かった。




 翌日、一晩放置した剣を確認の為、朝食後、鍛治工房に向かった。


 いつものように1人だけだと思ったようだが、ジューネスティーンの後についてシュレイノリアも鍛治工房に向かった。


「おい、昨日の粘土の様子はどうなんだ?」


 シュレイノリアも、粘土の事が気になり後をついてきていた。


 工房に入ると、早速、昨日の粘土を片面に塗った剣を手にとり眺めると、ジューネスティーンは納得したような表情をした。


「ああ、いい感じで土が残っている」


 すると、ジューネスティーンは、片側の鎬から峰側だけに泥のついた剣を見ながら答えた。


「なあ、シュレ。泥が乾くのはいいけど、乾くまでって液体だから、重力に引かれて下がるよね。だから、一度に両側に泥を塗ると下の方に泥がたまるか滴る事にならないかな」


 ジューネスティーンは、乾いた泥の付いた剣を見て、上に向けたり下に向けたりして聞いた。


 そのジューネスティーンの指摘を聞いていたシュレイノリアも、昨日話したことを思い出した様子で考え始めた。


「そうだな。乾いたから落ちないが、水に溶いた泥なら下に流れてしまうな。うーん、両側に泥を塗って、乾くまで待ったらか。そうだな、そうなると、どの方向に向けても、下に流れるのなら、片側を塗った後、乾いたら反対側を塗った方が良いのか」


 乾いてない泥は、時間と共に徐々に下がる事になる。


 シュレイノリアは、ジューネスティーンの意見に一旦賛同すると更に考えていた。


「そうだろう、厚みについては、何かで印をつけておけば何とかなるから、片側から塗っていった方がいいだろう。厚みの微妙な違いは出るかもしれないけど、大きな違いがなければ、それで良いんじゃないかな。それに、小さな修正なら、焼き入れの後に軽く火を入れてから叩くだけで終わると思うんだ」


 考えているシュレイノリアにジューネスティーンは自分の考えを伝えた。


「そうだな、それでいいだろうな。でも、乾いた後に反対側を塗る時は、翌日以降になるだろうから、感覚が狂うかもしれない。乾燥させた後に乾いた泥の厚みを確認した方がいいだろうな。可能な限り裏表で同じにしておいた方が、焼き入れ後の修正は小さくなるはずだ。焼き入れによって、余計な曲がりを直すにしても、直す量は小さいに越した事は無い」


「ああ、そうだな」


 シュレイノリアもジューネスティーンの話に大凡賛成なのだろうが、細部について言ってきた。


 その意見について、ジューネスティーンも納得したようだ。


 2人は、お互いに考えている内容を共有化するためのディスカッションを行っていた。




 物事を行う前に想定される事は事前に考えておく。


 1人だけで考えると、考えに偏りが出てしまう事が多いので、ジューネスティーンは、シュレイノリアと話しをして、自分の見落としている事を指摘させていた。


 シュレイノリアは、一歩下がった位置から作業を見てくれているので、ジューネスティーンの視野が狭くなってしまった部分を補うように指摘を行ってくれる。


 2人は、良いコンビなのだ。




 ジューネスティーンは、片側だけ泥を塗った剣を眺めていた。


「裏表のバランスとなると、塗る前に印を付けておいた方が、都合が良いのか」


 ジューネスティーンはポロリと漏らすように言葉にした。


「なあ、ジュネス。なあ、これは、もう一度、粘土を塗り直しをするなら、今の剣に塗られた粘土の厚みよりも厚く塗ることも考えてくれないか」


 シュレイノリアが、ジューネスティーンの言葉に反応して何気なく言った言葉が、ジューネスティーンには刺さったようだ。


 昨日、ジューネスティーンは、シュレイノリアから刷毛を受け取り、剣の峰側半分を泥で塗ったのだが、泥に大した厚みがあった訳ではなかった。


 シュレイノリアは、泥の厚みが気になって伝えると、ジューネスティーンも泥の厚みについて考えだした。


 そして、乾いた剣の粘土を落とし始めた。


「そうだな。実験なのだから、大胆に変化を持たせた方がいいな」


 ジューネスティーンは、シュレイノリアの話から一つ二つ先の事を考え始めていたようだ。


「ああ、可能なら泥の厚みの限界を見れた方がいいかもしれないな」


 その答えの内容を聞いたシュレイノリアは、自身の考えていた事を先にジューネスティーンが話し出したと思ったのかニヤリとして話した。


 2人は、粘土の厚みによって曲がりの変化量が気になりだしていた。


 素材が熱によって変化するにしても変化量の限界もあるだろうし、泥により熱伝導率を落とすとしても、高温に熱した剣を一気に水温にまで落とすと、ある程度の厚みになったら曲がりの変化量も変わらなくなる事に気がついた。


「厚みの限界かぁ。そうだな、泥によって曲げる限界か。分かるけど、剣の厚み以上に泥は付けられないだろうし、できる限りやってみるよ。粘土の厚みが厚すぎると、ひび割れが出そうだな。曲がり方の様子を確認しつつそれも考える必要があるのか。そうだな、可能な限り試してみよう」


 ジューネスティーンは、乾いた粘土を落とした剣を掲げて、また、新たに粘土を塗るにあたり、考えをまとめるように眺めていた。


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