シュレとジュネスの痴話喧嘩
ただ、シュレイノリアの、その言葉に、男子3人が固まった。
あたふたとするチェルエールに、シュレイノリアはさらに続ける。
「目が覚めた時の顔は、愛しい人に起こしてもらった時の顔だった。 手を握られたのを見て、変な喋り方は、恋する女がよく取る仕草だ。」
「シュレ、そこまでだ。 あれは、不用意に、俺が、カップを取ろうとしたから、慌てただけだ。」
ジューネスティーンは、慌ててシュレイノリアをとめる。
だが、シュレイノリアの矛先は、ジューネスティーンに向いてしまった。
「そうだ。 お前が一番悪い。 不要に女の手を取る、お前が悪い。」
「あれは、カップからお茶がこぼれて、服を汚しちゃいけないと思ったからでしょ。 そんな誘惑目的で触ったわけじゃない! 」
「お前は、いつもそうだ。 優しすぎるんだ。 だから、周りの女は、それに反応するんだ。」
「それじゃあ、お前がやってあげればよかっただろ。」
「私は、知らなかった。 見ていたら、直ぐに対応した。」
「お前は、馬鹿か! あんなイビキを聞いて知らなかったとは、よく言えたもんだ。 お前こそ、寝てたんじゃないのか! 」
すると、シュレイノリアの顔が赤くなり、涙目になってきた。
「ジュネスが、バカと、言った。」
シュレイノリアは、ボソリと一言いう。
カミュルイアンとレィオーンパードは、ゆっくりとテーブルから立ち上がる。
アンジュリーン達の方に逃げようとすると、ジューネスティーンが、シュレイノリアを見たまま、2人を止める。
「おい、お前ら、そこに座ってろ。」
2人は、逃げるタイミングを失って、椅子に座り直す。
その痴話喧嘩を見ていたチェルエールが、ジューネスティーンとシュレイノリアに声を掛ける。
「2人とも、すまなかった。」
そう言って、テーブルに手をついて頭を下げる。
「目の前に、突然、男の人がいて、驚いたんだ。 ときめいてしまったのも事実だ。 それは、もう、20年近くも男性と手も握ったことも無かったし、あんなに、顔が近付いた事もなかったんだ。 だから、許して欲しい。 決して、そんなつもりじゃ無かったんだ。」
チェルエールは、ジューネスティーンとシュレイノリアの、痴話喧嘩の仲裁に入ってくれた。
その事に、レィオーンパードとカミュルイアンは、ホッとした様子を表情に出した。
だが、ちょっと内容は過激な発言だったので、ジューネスティーンとシュレイノリアも呆気に取られている。
チェルエールは、その沈黙から、2人がまだ許してくれないのかと思ったのだろう、話を続けた。
「私は、帝都に戻ってから、この工房兼住居で、ずーっと、暮らしてきたんだ。 外に出るのも仕事か買い物程度だったんだ。 だから、目が覚めて、目の前に男が居たなんて事は、一切無かったんだよ。 だから、ときめいてしまったのも事実だが、それは、男性に免疫が無かったからなので、許して欲しい。 決して誘惑目的とか、そう言ったことじゃないんだ。」
工房内に沈黙が続く。
だが、それはほんの一瞬の事なのだが、工房内の7人にしたら、かなり長く感じた様だ。
今の話で、シュレイノリアの気持ちも、少し晴れた様である。
「分かった。 こっちこそ許して欲しい。 恥ずかしいところを見せた。」
シュレイノリアの一言で、重苦しい空気も和らいだ。
レィオーンパードとカミュルイアンは、ため息をついた。
アンジュリーンとアリアリーシャは、ラッキーな事に、離れて、マントを確認していた。
しかも、後ろを確認していた時だったので、シュレイノリアの大声が聴こえたところで、マントの後ろに隠れて、様子を伺っていたのだ。
チェルエールの仲裁が入った事もあって、2人は、顔を見合わせると、そろそろ、とばっちりを受ける事は無いとお互いに確認すると、テーブルに向かった。
全員がテーブルに付いて、お茶とお茶菓子をもらっていると、シュレイノリアが話し出した。
「さっきは、失礼した。 私の勘違いで、言わなくてもよい事まで言わせてしまった。 お詫びする。」
シュレイノリアが、素直にチェルエールに謝罪した。
アンジュリーンとアリアリーシャは、お互いの顔を見て、意外そうな表情をしていたが、声には出さなかった。
「いや、いいんだ。 私の方こそ失礼した。 本当に男性には縁がなくてな。 こちらこそ悪かった。」
2人がお互いに詫びを入れた事で、残りの人達はホッとする。




