チェルエールの仕事と思い
商売においては、お金を出す方が優位である。
お金を出す側が、金額を渋る様にする。
値切る事は、法人の場合には、当たり前の事なのだ。
何処まで、値切る事が出来るかを行う事で、コミュニケーション能力の向上させる事、無理矢理でも値段交渉をさせる事で、交渉力を向上させる。
値段を下げる以上に交渉力を向上させる事の方が、個人能力の向上の方が組織には、後々、有効になってくる。
チェルエールは、ジューネスティーンについて、何もかも完璧なのかと思っていたのだが、こんな所に、弱い部分があったのかと感じた様だ。
「まあ、その歳で交渉力まであったら、完璧過ぎて面白くないのかな。 少し抜けている程度でないと、魅力もないのかもしれないな。 これからは、少しお金の事も気にするといいよ。 お前は、商人に取っては、金のなる木なのかもしれないから、そう言った方面も気にした方が良いよ。」
言っている事は、もっともだとジューネスティーンも思った様だ。
どんなに信頼していても、組織が違うというのは、そういうものなのかと、考えさせられる一言だった。
今後、商人と付き合う場合もそうだが、それ以上に別の組織との関係についても、相手の思惑や利益がどうなのか、その辺りをもっと考えて付き合う事が必要なのだろうと考える。
「ありがとうございます。 これからは、少し考える事にします。」
そう言いつつ、今の支払いについても交渉すべきだったと感じるのだが、この状況で価格交渉を行うのは不適切な対応かなと感じる。
それなら、今すべき事の中で一番良い事は何かと考える。
「では、マントの加工お願いします。 満足できる仕上がりになると期待してます。」
もう少し、色々、言おうかとも思ったが、思わせブリな態度を取って、相手にプレッシャーを与えるだけにする。
「ああ、分かっている。 最高の仕上がりにしておく。 期待してくれて構わない。」
そう言って含み笑いをする。
チェルエールは、今の会話だけで、ジューネスティーンが、今、自分の出来る最大限の事を行なったと感じる。
自分が、それとなく言った言葉から、その言葉の真意を理解して、自分なりに考えて言葉にした事で、ジューネスティーンの反応の速さに大いに満足する。
「ああ、忘れてました。 さっきのパワードスーツの事は、口外しないでください。」
それを聞いて、チェルエールが答える。
「クライアントの秘密は守るよ。 当たり前の事だよ。 それより、私は、新たな技術を見せてもらえたことが嬉しかったよ。 いい、目の保養になったよ。」
チェルエールが、秘密を守ってくれると約束してくれた事で、ジューネスティーンは、ホッとする表情を見せた。
(でも、チェルさんは、言葉だけを信用するなって言うんだろうな。 きっと。)
「それじゃあ、明日の夕方を楽しみにしてます。」
そう言うと、ジューネスティーン達は、店を後にする。
ジューネスティーン達は、チェルエールの言い値で加工の依頼をして、支払いも上乗せして前払いで行ってくれた。
世間知らずの若造だと思うが、その金額に応じた仕事はこなす事にする。
多めに貰った金額をどうするのかは、それなりの付加価値を与える。
言われただけの仕事で終わらせ、後で、ぼったくりがバレてしまったら、彼らは2度と自分の店を使う事は無くなってしまう。
一度限りの客にするなら、言われた通りの仕事を及第点になる様にすれば良い。
しかし、支払いの良い冒険者は多く無い。
特に、チェルエールの様な店に、世の中で上客と言われる顧客が現れる可能性は、限りなくゼロに近いのだ。
今回のジューネスティーンの様な顧客が、チェルエールの店に現れるなんて事は、キセキに近い話なのだ。
ごく一般的な冒険者なら、この商会に来るのは限られている。
もし、ユーリカリアの様な有名な冒険者が、現れたとしたら、チェルエールの店を紹介されるなんて事は、絶対に無い。
ジューネスティーンの様に、門の所で聞く事になったら、工房区の、名の知れた店を紹介される。
チェルエールの店に来る仕事は、お情けの下請けで、部分的な所を指示された通りに加工するとか、そこに使うパーツの外注をもらう程度なのだ。
自分の様な売れ無い縫製家に珍しく来た仕事が、超当たり物件、この仕事を物にして、これだけの上客なのなら次の仕事に繋ぐ必要がある。
チェルエールは、門番の見る目の無さに感謝していた。
ならば、最高の仕事をして彼らに満足させる。
それが、チェルエールの出来る事なのだ。
ジューネスティーン達が帰ると、直ぐにポンチョ型のマントの加工を行う。
最高の仕事をすると思うと、入口のドアに行き、表に閉店の看板を出し、ドアの鍵を閉めて作業台の上に有るマントを確認し加工の順番を決める。
今日と明日で仕上げなければならない。
それも、言われた以上の仕事をして、満足させる必要がある。
ただし、やり過ぎて逆に引かれることの無い様にする。
道具を揃えると、久しぶりに力の入った仕事になると思い作業を始めるのだった。




