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剣 〜焼き入れを遅らせる粘土 2〜


 ジューネスティーンは、作った剣に粘土を水で溶かした泥をしのぎから峰にかけて塗っていた。


 片側を一通り塗ると、薄い部分を見つつ、また、切先から更に塗っていった。


 何度か繰り返して塗ると剣を裏返して、また、泥を塗っていこうとしたのだが、その様子を見ていたシュレイノリアが何かに気がついたのか鋭い目をした。


「おい、ジュネス。焼き入れ具合を変える事によって反りが出るなら、裏表に均等に塗る事ができないと、変な曲がり方をするかもしれないぞ」


 片側を塗り終わり、反対側を塗ろうとしていたジューネスティーンに、シュレイノリアは声をかけた。


 その言葉を聞いたジューネスティーンは、刷毛塗りの手をとめて、剣をかざして裏表を確認しつつ、そして、峰側の方から剣に付いた泥の厚みを確認するようにみた。


「ああ、そうだな。剣の反りを焼き入れで作ろうとしているのだから、裏と表に塗る泥の量が違ったら、剣がしのぎ側に曲がる事も有るのか」


「そうだ。峰側に反らそうとしているのに、峰側の面に塗った泥が裏表で違いが出たら、峰側だけじゃなく、どちらかのしのぎ側に反る事になる」


 2人は、納得するようにジューネスティーンのかざしている剣を見た。




 ジューネスティーンの作った剣の断面は薄い五角形になっている。


 刃側は、鋭利にする必要があるので五角形の頂点になり、その頂点は、かなり鋭角にできて刃の反対側は峰になる。


 曲剣なので片刃の剣となる事から、刃の反対側は短い辺となっている。


 そして、刃と峰の中央部分に低い山になるように残りの角が剣の裏表に有る。


 その低い山のようになった部分、刃と峰の中央にある山の部分をしのぎと言う。




 ジューネスティーンは、シュレイノリアの指摘を受けて、もっともだと思ったようだ。


 最初に片側だけ塗ってしまった事を後悔すると、塗った泥を剥がそうと剣を桶の上に置き、泥のついた刷毛をしぼってから水の中に入れて泥を落とすと刷毛に水を含ませた。


 そして、その刷毛で剣に塗った土を落とそうと、粘土の泥の桶の上に置いた剣に刷毛を当てようとした。


「待て、ジュネス」


 水で濡れた刷毛を剣に当てようとしたところで、シュレイノリアが止めた。


「ジュネス。このまま、放置して、粘土が乾いたらどうなるか確認してみよう」


 それを聞いてジューネスティーンも納得した。


「そうだな。このまま温度を上げるわけにもいかないから、このまま、放置してみるか」


「そうだ。それに、もう直ぐ夕飯だ」


 シュレイノリアに言われて、ジューネスティーンは少し驚いたようだ。


 そして、周囲が少し暗くなっている事に気がついたのか窓の外を見ると、そこは夕陽で赤く染まっていた。


「ああ、もう、こんな時間だったんだな」


 言われて初めて気がついたという表情をした。


「集中しすぎていたな。でも、これで一つ階段を上がった」


 シュレイノリアは満足そうな表情をした。


「ああ、そうだ。人の成長は、階段のようにだ。決して、坂道じゃない」


「そうだったな」


 シュレイノリアの言葉に、ジューネスティーンは苦笑いをしつつも納得したような表情をした。




 人の成長というのは、坂を登るようには出来てない。


 何かを一つ理解した時、それに付随する数個も理解される。


 そして、その内容を理解した後、また、新たな壁に当たる。


 壁に当たった時は、成長が全く無い状態になるので平行線となる。


 しかし、何かのきっかけや閃きによって理解が進んだ時は、付随した事も理解できるので、ポンと飛び上がるような状況になる。


 一つの理解によって、これもあれもと2・3個は理解ができてしまう。


 その理解は、一瞬にして起こるものなので、一気に跳ね上がる事から階段を1段上がるように垂直に上がるものになる。


 それをグラフ化すると、その成長は階段のように描かれる事になる。


 停滞する時の平面、理解する時の垂直の壁、階段を登るように人は理解を深めていくのだ。




 ジューネスティーンは、シュレイノリアとの話の中で、粘土を剣の峰側に貼ろうとして失敗したが、水に溶いて刷毛で塗る事によって均一性を取る事に成功した。


 そして、片側だけを塗った事を見て裏表の泥の量に均一性が無かったら、峰側だけでなく、しのぎ側の方向に曲がってしまう事に気がついた。


 1人だけの知恵では上手く進まなかった。


 焼き入れによる素材の変化を利用した剣の反りを持たせる方法は、曲げる為の泥を刷毛塗りするところまで進んだ。


 作業を確認するシュレイノリアの目が、作業に集中していたジューネスティーンとは違い、一歩下がった所から見ていた事で、しのぎ側に反る可能性を見つけることができた。


 最初は、片側に塗った粘土の泥を失敗かと思ったのだが、乾いた時にどうなるのか確認を行う事にした。


 泥が乾いてしまったら、泥を再生使用する可能性は無い事もあり、限りある粘土を有効活用するのなら、廃棄する粘土は可能な限り少なくする為にも片側だけに粘土を塗って確認するのは理に叶っている。


 陶器の素焼きを行う為に乾燥をさせる。


 乾燥した時の様子を、この機会に2人は確認することにした。


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