骨格を持つ鎧
ここまで、確認しただけでも、今までのフルメタルアーマーの概念とは全く違った、人の骨格構造を元に、考えられた構造になっているとチェルエールは思った様だ。
そんな事を考えながら、パワードスーツを見て驚愕しているチェルエールを、隣にいたアリアリーシャが心配そうに尋ねる。
「あのー。 大丈夫ぅですかぁ。」
尋ねられて、その声を遠くから呼びかけられているのか、水の中で聞いている様に聞こえるチェルエールは、徐々に現実に引き戻されてくる。
「お姉さまぁ。」
もう一度、アリアリーシャは尋ねると、チェルエールは、隣に居るアリアリーシャの顔を見下ろして、この子がこの中に入るのかと見つめるのだった。
チェルエールは、その顔を見ると、心配そうに見ているアリアリーシャに尋ねる。
「あ、ああ、だ、大丈夫よ。 初めてみるフルメタルアーマーに感動していただけ。」
チェルエールは、徐々に、現実に戻ってくる。
「ねえ、ジューネスティーンさん。 これはなんで立たせられるの? 」
パワードスーツから目を逸らさず、ジューネスティーンに話しかける。
ボタンを決めていたジューネスティーンは、聞かれて振り返る。
「ああ、骨格を作ってから、そこに装甲を取り付けているんです。 人体も骨に筋肉が付いて、それを覆う皮膚があるじゃないですか。 体の線に合わせた骨格を考えてから、そこに人工筋肉で動きを付けられる様にして、皮膚の代わりとして装甲が取り付けてあるんですよ。 だから、人が居なくても立たせる事も可能なんです。」
骨格を用意して装甲を取り付ける。
動きをカバーする為の、人工筋肉が有って、初めて立たせられる事を伝えたのだが、チェルエールに、どれだけ理解できたのかと、ジューネスティーンは思った様だ。
「骨格を作ったのか。 骨格が有るから形が固定できる。 そうなのか。 そんな考えが出来てしまうとは、不思議な事を思いついたのだな。 ん、いや、人体も動物も骨格が有って、筋肉がそれを動かすのだから、同じ事なのかもしれないな。 骨格をフルメタルアーマーに組み込むなんて発想は、今までに無かった。 骨格か。」
チェルエールが、“骨格” に興味を持ったのか何度も、“骨格” と言うので、ジューネスティーンは、少し経緯を話す。
「自分もフルメタルアーマーを使ってたんです。 魔法付与で筋力強化を行なって魔物と戦ってたんです。 でも、それだと、筋力に自分の骨が悲鳴を上げてしまったんで、フルメタルアーマーに骨格の代わりになる物を取り付けて補ったんです。 でも、フルメタルアーマーに取り付けた骨格、特に肘や膝とか、関節部分に蝶番の様な物を取り付けただけだと、限界が有ったのと、肩や腰、それに足首とかは、今のフルメタルアーマーでは、人の動きに付いてこれないので、人の動きに連動したフルメタルアーマー様の骨格を考えたんです。 それが、パワードスーツの原点です。」
防具としてのフルメタルアーマーだが、基本的に魔物の爪や牙から身を守る、戦争なら、弓矢や剣の刃から、身を守る為に有る。
ジューネスティーンには、防御という考えだけで終わってないと、チェルエールは思った様だ。
それにしても、筋力強化の付与が、自分の関節に影響する程、強力な付与魔法とは凄いと、チェルエーるは思った様だ。
「筋力の強化で、骨や関節も強化してもらえればありがたかったのですけど、そこまで万能じゃなかったのが、パワードスーツが作れたのかもしれません。」
フルメタルアーマーは、人の体の防御を主体として考えているので、体に取り付けて攻撃を防ぐ事を目的としているが、ジューネスティーンの作ったパワードスーツは、骨格を考えて作ったので、立っていられるのだと、チェルエールは理解した様だ。
普通ならそんな事まで考えられないだろう、普通、一般的な事柄に疑問を持つ事が、新たな技術を産む。
当たり前だと思ったなら、そこで進歩は止まるが、そこに疑問を持つ事で、新たな技術が産まれる。
そんな考え方が、新たな技術を生んだのだと、チェルエールは感じていると、不安に思ったアリアリーシャが声をかける。
「あのーぉ、私のマントはぁ、どうなるのでしょうかぁ。」
話しかけられて、アリアリーシャを覗き込んで、やっと現実に戻ってくる。
チェルエールは、マントの加工を頼まれたのだ。
自分より20cm程低い、アリアリーシャが不安そうに見上げているのを確認する。
「ごめんなさいね。 新しい概念で作られた物って、とても楽しいのよ。 でも、これは、自分の考えから逸脱して、想像の範囲を超えていたので、少し驚いていたのよ。」
話している途中で、また、パワードスーツをチェルエールは見ている。
アリアリーシャは、そんなチェルエールを見て、ここまで、パワードスーツに魅力を感じていて、すごいと思うのと同時に、まともに仕事になるのか疑問が浮かんだ様だ。
(驚いていたのは、少しじゃないわよね。 息をするのも、忘れる位だったし、足ガクガクしてたよね。 メンタルが、こんなんでいい仕事できるのかしら? )
そんな事を考えている、アリアリーシャの視線が刺さったのか、チェルエールは、じっと見つめているアリアリーシャを見る。




