チェルエールの反応
チェルエールは、ジューネスティーンが、フルメタルアーマーを、直ぐに出せる様な事を言ったので、不思議そうにジューネスティーンを見ている。
ジューネスティーンは、シュレイノリアに向くと、指示を出す。
「じゃあ、姉さんのパワードスーツから出してもらえるか。」
「分かった。」
ジューネスティーンの指示を受けて、シュレイノリアは、チェルエールに向くと、ジューネスティーンの言った意味が分からない様な顔をしているのだが、シュレイノリアは、気にせずにチェルエールに聞く。
「ここの床は、300kg程度なら耐えられるか? この店は重い物を取り扱ってないから、心配。」
チェルエールは、シュレイノリアに話しかけられて、真顔に戻った。
「ああ、この工房区は洋裁だけでなく、鍛治の店も含まれているから建物は、重い物を入れる事も考えられている。 だから、その位の重量なら十分に耐えられる構造になっているはずだ。」
「分かった。」
シュレイノリアは、チェルエールに確認をすると、床を杖でコンコンと叩く。
光の模様が床に現れると、その模様は魔法紋となる。
魔法紋が現れると、その中央からアリアリーシャのパワードスーツがゆっくりと浮き出る。
チェルエールは、そのパワードスーツが魔法紋から出てくるのを、あんぐりと口を開けてその光景を見ている。
初めてみる収納魔法に驚いたが、それ以上に、通常のフルメタルアーマーなら人に取り付けていくので、パーツで置かれているのだが、明らかに組み立てた状態で、今にも動き出しそうな格好で立っている事に驚いた。
自分の考えていた常識とは、全く違う世界を見てしまった。
そんな思いを、チェルエールは、感じてしまう。
こんな事があるのかと思われる位不思議な光景に思える。
一般的と言われている事、普通と言われている事、その当たり前と思われていた事が壊されたその感覚を味わう。
自分の考えを超えてしまう感覚を味わってしまうと、人は呆然としてしまうものである。
そんなチェルエールに、シュレイノリアが声をかける。
「このパワードスーツにマントを付ける。 開閉箇所とかは、全部教える。」
マントを取り付けるパワードスーツを出したので、マントの付ける位置の確認、長さの調整が可能になったのだ、チェルエールの要求を満たしたのだが、チェルエールの表情は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になっている。
それを不思議そうに、シュレイノリアは見ていると、チェルエールも口を開いた。
「すみません。 これ、なんで立っているの。 フルメタルアーマーなら、普通は、パーツ毎になっているわよね。 それに、あなた、収納魔法が使えたのね。 初めて見たわ。」
驚いているチェルエールをほっといて、シュレイノリアは、アリアリーシャに話しかける。
「姉さん、パワードスーツ開いてみて。」
「わかりましたぁ。」
アリアリーシャは、パワードスーツの後ろに行くと、背中に手を添える。
パワードスーツから、空気の抜ける様な音と、ジョイントの外れる音と共に、頭の後ろが開き頭が前に倒れると、背中が開きながら、体が前に倒れ、持っていたホバーボードを、つっかえ棒の様にして前に倒れるのを防ぐ。
脹脛の第二装甲が跳ね上がり、床と水平になり、背中が完全に開く。
初めて見るパワードスーツなのに、背中が開いて乗り込む事が出来るところまになる、その動きをみて、チェルエールは、パワードスーツに視線が釘付けになる。
(何なの? このフルメタルアーマーは、何も補助用の建具も無しに立っていた。 それに、勝手に背中が開いて、そこから人が入るのか。 体に取り付けるパーツ型ではなくて、元から人の形をしている。 それだけじゃない。 この方法なら、きっと、装着に、ほとんど時間もかからないはずだ。)
チェルエールは、初めて見るパワードスーツに驚愕しているのだった。
パワードスーツは、体にパーツを一つ一つ取り付けるフルメタルアーマーとは、全く概念が異なる。
こんな事が出来るのかと、初めて見るパワードスーツから目を離せないが、作業台の脇を歩く。
ゆっくりと、足を動かすのだが、膝に力が上手く伝わる気がしない。
ガクガクと震える膝のまま、シュレイノリアを押し除ける様にしてパワードスーツの前にいくと、手前のホバーボードに手を掛けて左に回りながら、肩の開いたジョイント部分、ホバーボードに隠れていた、ヘルメット部分の開閉部の位置を確認しながら、背中の装甲を確認しつつ、腰の部分まで、ゆっくりと手で触れながら、ゆっくりと眺める。
それから、背中の開いた接続部分をみると、幾つもの四角い金属の塊が何個も重なっており、その一つ一つに突起と凹みが付いており、左右の背中が閉まると、そのパーツの突起と凹みが、丁度合わさる様になっている事がわかる。
まるで背骨を中心で切ってしまった様に、左右の背中の開いている。
腰の部分も、腰を覆うように作られた金属が楕円を描いており、背骨の一番下は、左右の腰の所から、背骨に向かって、腰の楕円と同じRを描いたような細長い板が中央の背骨に向かってついていて、その先端に背骨が上に向かって伸びている。
背中が閉じられると、背骨の一番下に取り付けられている板が、腰を一周している楕円のリングの様な金属板と固定される様になっていた。
腰をぐるりと回る様に、楕円リングが、それと強度を保つために、股間を覆う様に楕円の半円が取り付けてある。
前後から見ればT字の様に見えるだろうそのパーツに、人の左右の腰骨の位置から背骨に向かって二重になる様に配置されている。
腰と背骨を結ぶパーツは、腰骨の部分にシリンダーで固定されていて、背骨に向かっている板は腰骨の部分のシリンダーと直角にもう一本のシリンダーが付いており、外に広がる様になっているので、背骨が左右に開けば、後ろ側は、腰も上下に開く様に見える。
胸の後ろの部分は、完全に鎧で覆われているのだが、左右の脇腹は、鎖帷子となっており、人の体の動きに対応して体を傾けられる様になっているのだが、背中には、小さな5枚の装甲板を背骨から外に向かう様に付いており、鱗の様に重ねて取り付けてある。
気になって手前の腹部を見ると、鳩尾の下に3枚の装甲板が縦に取り付けられている。
多少、動きに影響は有るかと思えるが、人の体の動きに対応できる様に配置されていると、チェルエールは、パワードスーツを見て思うのだった。




