表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1021/1356

チェルエールの過去


 チェルエールが、ジューネスティーンの才能を面白がって、根掘り葉掘り聞いていたので、ジューネスティーン達の、残りのメンバー達は、暇を持て余していた。


 そんな2人の会話を聞いていて、痺れを切らしたアンジュリーンが、タイミングを測って、声を掛けてきた。


「あのー、奥様、事情は何となくわかりましたけど、マントの加工の方はどうなりますか? 」


 アンジュリーンが、ジューネスティーンとチェルエールの2人だけで、会話を進めていたのを、聞いていて話しかけてきた。




 すると、チェルエールはアンジュリーンに顔を向ける。


 その顔には、怒りも含まれているように思えるので、アンジュリーンは、何か悪い事を言ったのか、と自分の言葉を思い返す。


 そんなアンジュリーンにチェルエールは聞き返す。


「今、なんて言った。」


「えっ! 」


 アンジュリーンは、チェルエールの言葉に凄みがあったので、驚いたようだ。


 固まってしまったアンジュリーンに、チェルエールは、たたみかけるように話だす。


「今、奥様って言ったわよね。」


 アンジュリーンは、チェルエールの年齢から、結婚して子供も大きくなっているのではないかと思い、 “奥様” と、言っていた事を思い出す。


「すみません。 つい、失礼な事を言いました。 お許しください。」


 アンジュリーンは、慌ててお詫びをする。


「まあ、いいわ。 私が言ってなかったからね。 でも次からはお姉さんと言ってね。 男の人と付き合った事もなくて、おばさん呼ばわりされるのもちょっと嫌なので、そう言ってくれるとありがたいわ。 あっ、でも、あんたは、エルフだからねえ。 お姉さんかどうかもわからないから、チェルでいいわよ。 その感じなら、ヘタをすると、私より年上って可能性だったあるわ。」


 歳の話をされて、アンジュリーンは、微妙な顔をする。


 確かに、エルフであるアンジュリーンは、見た目は、16歳の少女のように見えているが、転移してから、34年が過ぎている。


 転移した時の年齢が、10歳だったとすると、アンジュリーンの年齢は、44歳となるのだ。


 人属であるチェルエールと大差は無い年齢なのだ。


「わかりました。 今度から、チェルさんと呼びます。」


 そう聞いて、アンジュリーンは、この人はそれなりに美人なのに、男の人と付き合った事も無いのだと分かると、少し可哀想に思ったようだ。


「家が取り潰されなければ、今頃は、何処かの家の妾として嫁いで、子供を産んでたかもしれないけど、取り潰された貴族の子供を、自分の家に入れて皇帝や皇族に目をつけられて、痛くもない腹を探られても困ると思ったんでしょうね。 帝都に戻って今日まで、縁談の話は何一つ無かったわ。」


 メンバー達は、その話に何と答えれば良いのか困っている。




 それを察したのか、チェルエールは話を続ける。


「ああ、縫製はね、皇女殿下の趣味だったのよ。 留学した時に、その皇女殿下の趣味に付き合って、授業以外の時間に、一緒にデザインから出来上がるまで一通り行ったのよ。 その時に覚えた事が、今役に立っているのね。 大体、取り潰された家の子供で、しかも貴族位を剥奪された女子に、帝国で公職に就くなんて不可能だったわ。 その時は、かなり凹んだけど、今になって考えてみれば、取り潰された貴族の子女なんて、他の国で平民として暮らしていけばよかったのかもって思うわ。 でも、今は、大旦那様や支配人と副支配人の奥様に感謝ね。」


 言われてみれば、家が取り潰されたとなれば、帝国には住み難い事になるだろう。


 高学歴と言っても封建社会では、取り潰しにあった家の子女なら公職にもつけず、縁談の話も有るとは思えない。


 それでも、皇女殿下の取り計らいと、このイスカミューレン商会との縁があった事で、露頭に迷う事は無くて済んだようだのだと、ジューネスティーン達は理解したのだ。




 チェルエールの過去の話を聞いて、ジューネスティーン達は、何を言って良いのか、言葉が見つからない。


 ジューネスティーンは、助けを求めるようにシュレイノリアを見る。


 彼女なら、場の雰囲気も考えずに自分の目的の事だけを言うので、今の話とは全く違う事を話し出すのではないかと思ったのだが、今回は自分のマントを加工する訳でも無いので、我関せずと黙っている。


 シュレイノリアの表情には、今までの話、帝都を攻撃する話も、今の取り潰しにあった貴族の話も、自分にとっては、だから、それがどうした、程度にしか、思ってないようだ。


 そんな雰囲気を感じるので、場の雰囲気を、彼女が変えてくれる気配も無かった。


 困っていると、チェルエールも、流石に変な話をしたと思ったのか、この雰囲気を変える必要があると判断したのだろうか、ジューネスティーン達に話しかけてきた。


「私の暗い過去は、もう終わりにしましょう。 それより、仕事の依頼についての話よね。」


 そう言ってくれたので、ジューネスティーンもメンバー達も、そっちの話に移る事にする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ