ジュネスの政治的センス
ジューネスティーンは、仲間にエルフも亜人も居るにも関わらず、帝国に対して、、友好関係を築くと言った。
人は見かけによらないのかと思っていると、ジューネスティーンが続ける。
「帝国は、接している国も多いですけど、それよりも東の森の魔物の恐怖の方が強いと思います。 国となら対話で妥協点を見つける事ができるでしょうけど、魔物とは話も出来ませんから、戦うしか無いと思います。 何処の国でも魔物の被害は有りますから、国には討伐軍もあり、冒険者やギルドが存在する訳です。 ましてや帝国には、この大陸内で最強の魔物の脅威に晒されているのはどこの国も理解している訳ですし、帝国が無くなってしまったら、帝都を南北に連なる街道の警備が大変になりますから、帝国に取って代わるなんて事は何処の国も考えてないと思います。 帝国は、東の森の脅威に備えて、なおかつ大きな穀倉地帯を持ってますけど、これは帝国が穀倉地帯を独自に作った事でも有名ですけど、街道に現れていた、東の森の魔物から、街道を守ったことで建国できたと思います。 帝国と戦争して勝ったとしても、直ぐに東の森の魔物に対応する必要が有りますから、市政の対応と魔物の対応でしばらく苦労が続くでしょうね。」
チェルエールは、ジューネスティーンの軍事的才能もだが、政治的な見識にも見るものがあると思ったようだ。
「なる程ね。 正しい見識をしているのね。 安心したわ。 私は、この帝都の防衛システムに弱点が有るのか、気になっただけだけど、剣を交えないで、なんて事は考えも及ばなかったわ。 それに、最終的には、戦争にせず、友好的な関係を結ぶ事を考えるとは驚いたわ。」
「軍というのは、持っていても動かさない。 動かすとしても短時間で終わらせる。 戦争を長期化させるのは愚行です。 戦争は生産性が無く、破壊するだけですから、国庫の財源なんてどんどん減ってしまいます。 お金をドブに捨ててるのと一緒です。」
ジューネスティーンは、そろそろこの話をまとめようと思って、国家における軍のあり方について話をする。
「国が、軍の力を持ってはいるが、持っているぞ、こっちに仕掛けたら痛い思いをするぞ。 軍を持つのは、そんな程度が一番良いと、自分は考えてます。 軍は、動かす事で国庫に多大な負担を掛ける事になりますから。 戦争をしない為に、軍を持つみたいな感じです。」
(確かにそうだ。 軍が戦うとなったら、その戦場までの移動、兵士の兵糧、武器や防具を揃えるだけではすまない。 馬や地竜といったものの餌、野戦病院の後詰、本陣や防御柵の設置の工作部隊と、上げればキリが無い程の戦費がかかってしまう。 確かに戦争をするには、金がかかって仕方がないことになる。)
それを聞いていたチェルエールが、国の武力を持つ事と、冒険者の持つ武力との違いについて、気になった。
これも、ジューネスティーンはどう思っているのだろうか、気になったので聞いてみる事にしたのだ。
「戦っているっていったら、あんたら冒険者も戦っているよな。 魔物とだけど。 それは国が持つ軍事力とは違ってくるが、それはどうなんだ? 」
軍の有り方と冒険者のあり方は違てくる。
ジューネスティーンは、また、面倒な事を聞いてくると思うが、自分としてもこういった話は好きなので続けてしまう。
「冒険者の場合は、戦う相手が魔物となので、ギルドが魔物のコアを買い取ってくれますから、戦っても減るだけにはなりません。 ただ、成功報酬となるので、能力が必要になりますけど、でも、戦争は、人同士の戦いですから、相手を倒してもコアが手に入る訳でも有りませんから、倒しても倒しても収入に繋がりません。 活躍した兵士の収入は、所属している軍、つまり、国から出てくるので、相手国からの賠償金を得られなければ、全部自国で出さなければなりません。 だから、冒険者と国の戦いの違いってそんなところが有りますよね。 国同士の戦いって、どんどん武器や防具、特に矢とかの消耗品は補充しなければならないし、どんどん消耗しますから、城を占領した時は国庫の中を使い切っていて、勝ち戦で城を占領して、国庫を開いてみたら、空っぽだったなんて事は、よく有りそうな話ですから、国同士の戦争なんてやらないに越した事は無いですよ。」
そこまで言うと、少し、さっきの話に戻ってしまったと思い、話を戻す事にする。
「まあ、冒険者は、魔物を倒す事が目的ですから、戦うことが必須ですからね。 魔物の渦が無くならない限り冒険者という職業は無くなる事は無いし、魔物のコアを販売できて、ギルドがそれを活用している事で、産業として成り立っています。 ああ、魔物のコアの活用ができたことで、奴隷制度が崩壊したとも言えますね。 人や動物によって農業の労働力が必要だったのですけど、魔物の活用によって、奴隷を使う必要が無くなったのは大きいですね。 ギルドが、どうやって、コアから召喚した魔物に、人の命令を聞かせているのかは、公開されてないので不明ですけど、冒険者は、人々を魔物から守っているので、武器を持ってはいるけど、軍隊とは少しニュアンスが違います。 どちらも人民を守るために有るけど、対国家なのか、対魔物なのかの違いはありますね。 ああ、冒険者は、魔物のコアを集める職業と言ってもいいかもしれませんね。 そのために武器を持っているって、ところじゃないですか。」
そう言われると、その通りだと思うのだが、そうなると、帝国の東の森の魔物対策の軍はどうなるのか、また、疑問が湧いてくる。
「じゃあ、帝国の東の森の防衛隊は、東の森の魔物を倒している分、戦っても消耗は少ないというか、収入は有ると思うけど。」
また、微妙に面倒な事を聞いてくると思うが、聞かれたなら、何らかの答えを出そうとする。
「それも収支バランスが、どうかと思います。 実際、自分もですが、東の森の魔物と戦ってはみましたが、実際、一対一で戦ったら、前回のように、まともに勝てるかどうかは、疑問が残ります。 装備と戦略や戦術で勝てはしましたが、そう簡単に勝てるとは思えないですね。 帝国軍の装備が、どれだけ充実しているかは、わかりませんけど、使っている装備が一般的なものなら、東の森の魔物と対峙すると考えれば、東の森の魔物1体に対して軍は、最低でも10人は必要でしょう。 それでも、倒せる確率は5割ってところじゃないでしょうか。 それに、東の森の魔物は、一定間隔で森の外に出るわけではないでしょうから、魔物が出て来ない時でも軍は、待機させる必要があります。 使っている軍人の数を考えたら、多分赤字ですよね。 東の森の魔物のコアが、軍を維持できる程の金額になるとは思えません。 なので、帝国は東の森に配備している軍の維持に、莫大な金額を当てていると思います。」
話終わると、ジューネスティーンは、チェルエールの表情が変わっていることに気付いた。
チェルエールは、今の話にジューネスティーンが、東の魔物と戦ったと言った事を見逃さなかったのだ。
「あんた達、東の森の魔物と戦った事があるの? それも、その魔物を倒したのか? 」
ジューネスティーンは、口を滑らせてしまった事に気がつく。




