兵糧攻めと水攻め
ジューネスティーンは、チェルエールが何を聞きたいのかと思ったようだ。
いっその事ストレートに、聞いて仕舞えば良いかと思ったのだ。
「それなら、どんな答えが欲しいんでしょうか? 」
「お前さんが、帝都を攻撃する方法を聞きたかっただけなんだけど、難攻不落の帝都を落とす方法を聞きたかっただけ。」
チェルエールは、帝都の構造が防衛に適した構造になっていると気がついてから、物を作る人の思惑が面白い事に気がついて、創作者の思惑を読み解く事を、建物の構造にも製作者の思惑というより、こだわりのようなものを感じ取る事がとても面白いと感じているのだ。
特に、帝都の建物の構造については、1階の窓は、防犯の為に通りに面した窓から人が出入りできるような建物にする事を禁止されており、その代わりに、光の取り入れ方法のノウハウのようなものを公開されている。
その法律には、市民の財産を守る為とあるが、この法律には帝都の防衛の為に侵入してきた兵士との戦いに有利に進むようにと配慮されている。
縦長の窓ではあるが、明かり取りのために壁の内側は窓が広くなっているので、太陽の角度が多少動いても部屋の中にはよく光が入るようになっている。
そして、建物の玄関はドアの他に、大きな金属の扉で閉じられるようになっている。
その扉についても外からは開けられないような工夫もノウハウとして公開されており、帝国が推奨している。
時々、行政府の方から扉や窓の形がどうなっているのか建物の調査が行われている。
また、大通りの建物については、ここのイスカミューレン商会以外の建物は帝国の所有物となっており、格安で賃貸されている。
そして、有事の際は接収される事になっているので、その事からチェルエールは、門に連なる建物も含めて城塞としての役目を持っていると考えていた。
そうと分かると、この皇城をどういった方法なら落とせるのかが気になっていたのだが、自分には思いつかなかったので気になっていた。
それが、冒険者と思われる人が現れて何となく聞いてみたら、建物についての見識が高いことから、建物も含めて防衛するようになっていたと言った。なら、この帝都を落とす作戦も考えられると思ったのだ。
ジューネスティーンは、そんなチェルエールの思惑には考えず、ただ、単純にその押し問答が面白いと思い話を続けた。
「攻めるだけでは攻撃側に損害が出るだけです。 でも、戦争は剣や槍だけで戦うだけが戦争ではありません。 何もかも含めて戦争ですから、出入口や周りを全て固めて外界と遮断するれば、中に有る食料だけでどれだけ持つかって事です。 特に、民間人の居住区まで含めて、帝都ですから、穀倉地帯と帝都を分断すれば、長期戦には向きませんね。」
「あっ、ああ、なる程ね。」
チェルエールは、自分には、剣や槍、攻城兵器で攻める事を考えていたのだが、ジューネスティーンは、兵士を動かす為には、武器や防具だけでは無い事に着目している事に、興味を注がれたのだ。
「帝都のように中に食料の生産設備が無いので、倉庫の備蓄だけになりますから、倉庫の食料が尽きるのを待ちます。 まあ、嫌がらせの攻撃はするでしょうから、バリスタとかは用意するでしょうね。 自分達の兵士を死なせずに攻撃するなら、大型の弓であるバリスタは、非常に有効な武器だと思います。 それと、食料ですが、ここは城ではなくて都市として大きな城塞都市になっていますから、兵士だけじゃなくて、民間人の食料も必要になります。 ですから、帝都の食料が尽きてから本格的な攻撃を仕掛けます。 飢えた軍隊が、勝てる訳ないですからね。」
それを聞いてチェルエールは、ニヤリとする。
「ねえ。 もし、帝都の兵糧が1年分以上有ったらどうする。」
一介の帝国臣民であるチェルエールには、帝都の中にどれだけの備蓄が有るのかは分からないが、大掛かりな備蓄があった場合には、ジューネスティーンの戦術では長期間兵士の士気を維持する事も必要になるだろう。
兵士が里心を出してしまっては脱走者も出さないとも限らない。
それに、1年も本国が待ってられるのかと言う事もある。
1年以上の備蓄が有ったらその作戦は実行不可能になるだろう。
ジューネスティーンは、少し考える。
「水攻め? かな。」
帝都に食料の備蓄が1年以上有るとは思えないが、長期戦が1年も続くなんて史実はこの世界には無かった。
せいぜい長くて、20日もすると開城したり、攻撃側が撤退したりと、長い睨み合いのような戦争は行われた事が無い。
仮定の話の中でどんな作戦があるか尋ねると、ジューネスティーンは水攻めと言ってきた。
チェルエールは、興味をそそる作戦だと感じたようだ。
「それはどうやるの? 」
「川を使って堀を全周に作ってますよね。 外壁の手前に深い堀が有りますから、攻撃側は外壁から登る事は断念するでしょう。」
チェルエールは、最もな理由だと思ったようだ。
平城に城壁を作っただけなら城壁の側まで行って、梯子を掛けて登るという選択肢もでる。
しかし、城壁の前には堀が有り、それを渡っても梯子をかけるわけにもいかないので、帝都を攻撃する側は、門を突破する事に専念するしか選択肢が無いように作られている。
難攻不落とは、帝都の事を指すとまで言われているのだ、北の川から敷いてある堀は画期的で最強の防衛だと言える。
そんな事を考えているチェルエールを、ジューネスティーンは放っておいて話を進める。
「だから、堀の外周に塀を作ります。 それで、北の川を堰き止めて堀の水位を上げますね。 平城で川を利用して堀を作って防衛に使っているけど、それを逆手に取ります。 水位が上がって、地面より高い水位にできれば、兵糧や武器の移動に手間取ります。 内部で馬車のような大量移動手段を無くさせ、兵士の疲労を誘います。」
中々、面白い作戦だと思うが、それにも問題は有る。




