帝都の攻略方法
チェルエールは、ジューネスティーンの描いた、鎧と人の絵を見て、少しジューネスティーンを試してみたくなったようだ。
少し意地悪なような顔をすると、ジューネスティーンに質問してきた。
「なあ、帝都の建物を見たかい。あれをどう思う? 」
石板を見ながらチェルエールはジューネスティーンに聞いてきた。
ジューネスティーンに、それなりの目が有るなら、皇城の前の、このイスカミューレンの建物もその周辺の建物も、どんな考えの元に作られているのか理解できるだろう。
チェルエールは、ジューネスティーンが、どんな答えを出すのか聞いてみたくなったのだ。
ジューネスティーンは、その趣旨が何なのかと微妙に気になるようだが、何気に感じたままを答えた。
「帝都の建物は、戦争時の防衛の為に、、計画的に建てられていると思います。」
チェルエールは、ジューネスティーンには、本質的な事が見えていると思えたようだ。
普通の冒険者なら、数人のパーティーで魔物と対峙するので、魔物との戦い方は理解しているだろうが、数千人、いや、数万人規模の戦いの方法は、将官クラスの考え方になる。
それを理解できるから、建物の構造について理解できているのだと思えるのだ。
チェルエールは、ジューネスティーンが、どれ程の事まで理解できるのか気になったのだ。
「それは、何でかな。」
チェルエールは、興味をそそった様子で、少し嫌らしい顔をして、ジューネスティーンを見て聞いた。
ジューネスティーンは、自分が値踏みされているのだろうと感じているようだが、こんな所にいる縫製士にそんな事まで聞いてくるのかと言うより、彼女が何で帝都の建物が防衛を考えて作られているのか気になったのだが、素直に答える事にする。
ここで、帝都の建物について話てもそれだけで終わるのだ。
自分が帝都を攻撃する事を考えたとしても帝都を落とすだけの兵士を持っている訳ではないのだから、ここでその話をしても大きな影響を及ぼす事は無いと判断したのだ。
「1階の構造は、この周辺の建物が、全て同じ考えで出来てました。 入り口はどこも金属の扉で閉じる事が出来るようになってましたし、それに、建物の1階の窓ですけど、縦に長細くなってました。 あれは、窓からの侵入を防ぐように工夫されているのでしょう。 城壁と城壁の外の建物の高さが同じなのは、建物自体が出城の役目も持っていると思います。 四角く囲った建物で内側に入り口が有るのは、建物自体が出城としての役目を果たす為に考えられているから内側からしか建物に入る事が出来ないのでしょう。 下から見ただけですけど、屋上からも、2階・3階からも攻撃できるようになっているのでしょうね。 恐らく、帝都を攻撃した軍は、皇城に辿り着く事無く撃退されるでしょうね。」
チェルエールは、よく見えているどころか、戦争時のシュミレーションも脳内で済ませているのだと思えたようだ。
そこまで分かると、ジューネスティーンの見識が気になったので、もう一つ聞いてみたくなったのだ。
「お前が、帝都の皇城を落とすとしたら、どんな作戦を立てる? 」
チェルエールは、多少の策なら言い負かせてしまおうと思って、目を少し細めて嫌らしそうな顔をする。
「帝都は、陸上を行く軍には歯が立たないでしょう。 平面の戦いなら、どんな軍でも帝都に攻め込んでも勝ち目は全く無いと考えます。 自分が、帝都を攻撃する側なら、門の手前に軍を配置して、その周りには監視を置くだけにします。」
若いくせに、意外に年寄臭い作戦に出るなと、チェルエールは感じたようだ。
攻城に成功しないまでも、失敗しないなら、今の作戦は有効になる。
だが、その後にどうするのかが知りたいと思うので、その後の行動が聞きたいと思ったようだ。
「それで? 」
「それだけです。」
ジューネスティーンは、何を言っているのだと思う。
自分の知りたいのは、その後にどうやって帝都を攻めるのかが知りたいのだ。
「いや、私は、その次の行動を知りたいんだが・・・。」
「いえ、それだけです。 それ以上の事はするつもりはありませんけど。」
もう一度聞いても答えは一緒だった。
「いや、いや、いや、攻撃の方法を聞きたいんだよ。」
「いえ、攻撃はしません。」
(攻撃しない?何で攻撃もせずに皇城を落とすのか? )
チェルエールが聞いたのは、帝都を落とす方法なのだが、攻撃せずにどうやって落とすのか気になるのだ。
「じゃあ、どうやって帝都を落とすんだ。」
「放っておきます。」
「・・・。」
頑なに放置すると言うジューネスティーンを、じーっと、上目遣いにチェルエールは見る。
(この男は何を考えているのか。 放っておいてどうやって落とすのか、何もしなければ帝都は落とせないだろう。 でも、この男は、放っておくと言った。その真意が何なのか気になる。)
ジューネスティーンは、じーっと見られているのに耐えられなくなる。
「あのーっ、何でしょうか? 」
「放っておいたら、城は落とせない。」
チェルエールは、上目遣いのまま、恨めしそうにジューネスティーンに答える。
ジューネスティーンは、チェルエールの真意がいまいち掴めないでいた。




