チェルエールの縫製店
アンジュリーンとアリアリーシャの2人は、自分で服を作ったり、直すような事はしないので、店員の綺麗に縫製されているという話が気になった。
自分達のような素人が、加工してカッコ悪くなってしまったらと、不安に思ったようだ。
それを見た店員が、2人に声をかける。
「嬢ちゃん達のマントを直したいのかい。 ならそこの作業台の上に置いてごらん。 自分でやるなら、裁断の場所とか縫い合わせ方とか、教えても良いよ。」
ジューネスティーン達は、ありがたい申し入れだと思うので、頼むにせよ自分達で直すにせよ、参考になると思い今の話を聞くことにする。
メンバーと店員が、作業台に行くと、インファの店で買ったマントの入ったカゴを、作業台の上に置き、マントを作業台の上に出すと、店員の目つきが変わる。
「随分、良い物を買ったんだね。 結構高かっただろう。 これを加工しようってんなら、それなりの腕を持ってないと台無しにしそうだが、あんた達大丈夫かい? 」
聞かれて、誰も自信が無さそうな顔をする。
その顔を見て、店員は畳み掛ける。
「自分達で加工するのは、構わないがどうする? 失敗して、もう1着買うことにならないと良いなぁ。」
そう言って、口の端が少し上がるのだが、ジューネスティーン達は、お互いに顔を見合わせるので、それには気が付かなかった。
店員は、仕事が手に入る可能性が出てきた事に喜んで、思わず口の端に出たのだ。
ジューネスティーン達は、店員に言われて、現状のマントの品質を確保しつつ、加工するのは自信が無かったと言うより、無理だろうと思ったのだ。
全員の意見が、この店員に、外注をお願いしようと思っていると、ジューネスティーンは感じると、店員にお願いすることにした。
「それでは、加工をお願いできますか。」
それを聞いて店員は、満面の笑みを浮かべると、一歩下がってから、お辞儀をしてからお礼を言う。
「この度は、マントの加工に、当店をご利用いただき、誠にありがとうございます。 当店の持てる全てを使い、お客ように満足いくものに仕上げさせていただきます。」
突然の態度の変化に、ジューネスティーン達は、少し戸惑うが、丁寧な受け答えに少し安心する。
そのジューネスティーン達の表情を見て、自己紹介を始める。
「申し遅れましたが、私は、この店を経営している、アツ・イン・チェルエールと申します。 チェルエールとお呼びください。」
そう言って、深々とお辞儀をして、元に戻ると、すぐに元の口調に戻る。
「それじゃあ、どんな風に加工したいんだい。 一つ一つ教えてもらえるかな。 あっ、ちょっと待ってね。」
突然の代わりように少し驚いていると、チェルエールは奥の戸棚に行って、6枚の石板と白墨を持ってきた。
一人一人の要望を聞いて、それぞれのマントのデザインから、切った後の加工方法までを詳しく教えてもらった。
時々、石板に何かを書いている。
加工方法についての覚書なのだろうか、要望や自分の話た事を書いていた。
全員の話が終わると、5枚しか無い事に気付き、シュレイノリアに聞く。
「嬢ちゃんのマントは無いのかな。」
「私のは有る。 それを見て、コイツらも欲しいとなった。 だから私のは無い。」
「ふーん。 そうだったのかい。」
何処の魔法職も、マントかそれと似たような物を使っている。
シュレイノリアを見て、よく見る魔法職の出立と違うように見えたが、剣士や弓を扱うようには見えなかったので、魔法職か魔法も扱える別の職業なのだろうと思っていたのだ。
もうマントは用意してあると判断した。
だが、5着のマントの加工なら、それなりの金額になると思い、それに満足することにしたようだ。
5人の要望を聞いたのだが、彼らの体型より、かなり大き目のポンチョ型のマントだと、チェルエールは思ったようだ。
全員が鎧を着けられる程の冒険者なら、それなりに稼いでいるとは思うのだが、どう見ても若い。
ギルドのランクは能力によって上がるが、この年齢なら良くてCランクだと思うが、そのランクの冒険者が、簡単に買えるほどの品物ではないと、目の前の商品を見て思ったのだ。
そんな事は置いといて、チェルエールは自分の仕事に戻る。
「ちょっと、気になるんだけど、あんたらの体型とそこに鎧を取り付けたとしてもだよ。 少し、大きすぎるように思うんだが、実際にあんたらの鎧って、一般的なフルメタルアーマーより大きくないかい。」
ジューネスティーンは、鋭い指摘を受けたと感じたようだ。
少し、驚いたような顔を一瞬するが、直ぐに表情を戻すと答えた。
「多分、大きいと思います。」
一般的なフルメタルアーマーは、各部のパーツを体に取り付けるため、関節部分が覆われている事は少ないので、完全に身体を覆われるパワードスーツは、関節部分も鎧で覆われている。
その部分の事まで含めて考えると、持ち込んだマントは大きく感じるのだろう。
チェルエールは少し考える。
自分の知っているフルメタルアーマーとは、彼らの持っている物とは違うと感じるので、どんな感じなのか少し悩む。
かなり大きなフルメタルアーマーだと感じるのだが、ジューネスティーンの体格なら、それだけ大きなフルメタルアーマーでも使いこなす事は可能なのかと思うのだが、残りの5人にそんな大きなフルメタルアーマーでは、動き難くなって、本来の良さを発揮出来ないのではないかと思うのだ。
何となく、彼らのフルメタルアーマーを見てみたい、そんな衝動に駆られる。
「うーん。 出来れば、あんたらのフルメタルアーマーを見て、合わせてみてからの方が、確実なのだけど・・・。」
マントを見て、それぞれの要望を書いた石板を眺めて、それぞれの体型を見る。
マントの加工に、そんなに真剣に考えるのかとは思うが、この姿勢や態度が本物なのだろうと、ジューネスティーンは感じたようだ。
「すまないが、あんた達のフルメタルアーマーを見せてもらう事は・・・。」
チェルエールは、そこまで言うと、無理な事を言ったと思い、話を途中で止める。
「持っているわけないか。 フルメタルアーマーにマントを当ててみて、寸法を見たいと思ったけど、無理な事を言ったな。 忘れてくれ。」
ジューネスティーンは、微妙な顔をする。
シュレイノリアに言えば、全部のパワードスーツをこの場に出す事は可能だ。
だが、それを行う事のメリットが、マントの加工が上手く行くだけだと、人目につけるだけで、収納魔法を見せる事にもなり、情報が出ていくだけになってしまうような気もするのだ。
どちらかと言うとデメリットの方が多いと判断するが、先ほどチェルエールが、石板を6枚持ってきていた事に気がつく。
「あのーっ。 見せる事は出来ませんが、絵に描く事ならできると思います。 どれもデザインに大きな違いはありませんから、大凡の形は分かると思います。」
その手が有ったとチェルエールは思ったように、表情に出した。
ジューネスティーンの言葉に納得したような顔をする。
チェルエールは、ある程度の感じが掴めるならと思った様子で、残っていた石板をジューネスティーンに渡す。




