剣 〜シュレイノリアの気遣い〜
シュレイノリアは、黙ったままジューネスティーンを睨んでいた。
「何で、メイなんだ」
「えっ!」
シュレイノリアは、ジューネスティーンからメイリルダによって粘土の購入許可が出たことを知ると、それが気に食わなかったのだ。
シュレイノリアとしたら許可が下りなかった時の事を考えて行動していたようなのだ。
そして、そのアイデアを使う必要が無くなってしまった事は良かったのだが、それがメイリルダによってもたらされた事がシュレイノリアには面白くないと言う表情をしていた。
ジューネスティーンとしたら粘土の購入許可が出たことで良かったと思っていたのに、シュレイノリアが不満そうな表情をしていたことに困惑気味だったが、メイリルダの名前が出た事で何となく様子が理解できたようだ。
「ごめんよ」
ジューネスティーンが、一言、ポロリと言った。
シュレイノリアは、ジューネスティーンが気を回してくれていることが分かったというように、一瞬、表情を戻したのだが、また、面白くなさそうな表情をした。
「シュレ、ひょっとして粘土の用意をしてくれてたのかな?」
ジューネスティーンが聞くと、シュレイノリアはギクリとしたので、その様子を見てジューネスティーンは、シュレイノリアが粘土の手配を行なっていたのだと確信したようだ。
そして、ジューネスティーンが、粘土の手配に失敗したところに、それを差し出そうと思っていたのではないかという事が、ジューネスティーンの頭をよぎった様子でシュレイノリアを見た。
シュレイノリアは、両手を後ろに回して何かを隠している事にジューネスティーンは気が付いて気まずそうな表情をした。
ジューネスティーンは、嬉しい反面困ったとも思ったのか苦笑いをした。
シュレイノリアが持っているものが、何なのかジューネスティーンは分かったようだ。
シュレイノリアは、粘土の購入許可が降りなかった時の事を考えて用意しておいたのだろうと思うと、ありがたいと思ったようだが、自分の方もメイリルダの助言によって許可が降りたので手配が被ってしまった。
そして、メイリルダによって許可を下す為のアドバイスをもらった事がシュレイノリアには面白く無かった事から、その機嫌を戻す為にどうしたら良いのか困ったように考えていた。
しかし、直ぐに何かを思いついたような表情をするとシュレイノリアに優しい視線を送った。
「ああ、シュレ。メイに教えられて粘土を手配できたけど買ってもらえる量は多くは無かったんだ。だから、何回か実験できる程度だから実験の結果次第なんだ。俺の手配できた量は、ほんの少しだけなんだよ」
それを聞くとシュレイノリアの表情が良い方向に変わった。
そして、肩を少し震えさせたかと思うと表情が笑顔に変わってきた。
「そうだったのか。うん、そうか、それは残念だったな」
シュレイノリアが話し出すと徐々に胸を張った。
そして、両手を前に出すと、そこには少し太めの繊維で編み込まれた袋があった。
大きさは、たいして大きくはなく両手で少し余る位の大きさだった。
「これ」
シュレイノリアは、そう言ってジューネスティーンの前に出し渡そうとしてくれたので、それを受け取ると袋の中を確認した。
その中には、陶器用の粘土が入っていた。
それを見たジューネスティーンは、やっぱりといった表情をし視線をシュレイノリアに戻した。
「ありがとう。シュレのおかげで、粘土の量も確保できたよ。俺の方は、実験の結果が良ければ追加発注に応じてもらえる事になっていたんだ。万一、実験の失敗の事も考えたら、この粘土は本当に助かるよ。俺が用意できたのは、これよりも少ないかもしれないから、シュレが用意してくれて助かったよ」
その言葉を聞きつつシュレイノリアの表情は、徐々に偉そうになり更に胸を張った。
「うん、そうだったか、メイの言葉だけでは量が足りなかったのか。そうか、そうか」
シュレイノリアは得意そうな表情になった。
「じゃあ、私が用意した粘土の事を、ありがたく思う事だ!」
シュレイノリアは、ジューネスティーンの為に粘土を用意してくれていた。
この始まりの村周辺は、砂漠に近い事もあり周囲の土はサラサラしており粘り気が無い。
その土に水を加えても直ぐに分離してしまうので、粘土が取れる土地から送られてきたものを購入する必要があった。
その為、購入以外に粘土を用意することはできない事もあり、ジューネスティーンは、ギルドの職員から良く思われていないこともあったので、シュレイノリアは気を利かせて粘土を用意してくれていた。
そして、シュレイノリアの用意してくれた粘土もジューネスティーンが必要と思われる量だったのだが今の話でシュレイノリアを納得させていた。
ジューネスティーンは、こんな言い訳でシュレイノリアが納得してくれた事にホッとした様子で袋の中身を確認した。
「良かった」
ジューネスティーンは、一言、ポロリと漏らした。
思わず本音が出たのだが、直ぐに、その一言で、また、シュレイノリアが機嫌を損ねるのではないかと、持っていた粘土からシュレイノリアに視線を向けた。
そこには、また、ムッとした表情のシュレイノリアが見ていた。
「おい、何が、良かったというのだ」
ジューネスティーンは失敗したと思ったように青い顔をした。
「あ、いや、ね、粘土の量が確保できて、よ、良かった、なぁ」
その様子をシュレイノリアはジーッと見ていた。
「そうか、どうも違う意味だったのかと思ったが、それなら、それでいい」
シュレイノリアの答えに、ジューネスティーンは肩から力が抜けた。