お店の対応
店の中に入ると、品揃えに圧倒されるアンジュリーンを置いといて、その横に並ぶジューネスティーンが、周りを見渡すと、近くに居た店員がこちらに向かってくる。
大股にならず、歩幅を狭くして速足で向かってくる。
近付くと、ヘソの前で、左手で右手の親指以外の4本の指を抑え、顔は上の前歯を見せて目尻を下げ、接客の見本の様に対応をしてくれた。
「いらっしゃいませ。 インファの店にご来店頂き、誠にありがとうございます。」
そう言ってから丁寧に頭を下げる。
店員に、最高のおもてなしをする態度を、叩き込んでいることがわかる。
店員は、丁寧に挨拶をしてくれると、ジューネスティーンは、アンジュリーンが先に入ってしまった事で、お店に迷惑をかけないかと思ったのだ。
エルフや亜人連れの自分達でも問題無いか聞く。
「あのー、俺達、最近帝都に来た冒険者なのですが、この様に人種以外も居ます。 ショウウインドウの服を見て入ったのですが・・・、構いませんか? 」
“入店しても良いか” と訊こうとしたが、もう全員店の中に入ってしまっているので、“構いませんか” になってしまった。
帝都の人属至上主義があるので、亜人種も居る、自分達のパーティーに対して、偏見があるのではないか気になったのだ。
「当店では、亜人の方であっても、特に気にする事はございません。 帝都以外とも、広く取引をしておりますので、様々な、人属以外の方と、取引を行なっております。 私自身、こちらで雇われる際の条件として、亜人種の方々とも、人属の方と同様に扱う事が条件で雇われております。 万一、亜人種の方に失礼があった場合、私はこの店を辞めなければなりませんので、その様なご心配は無用です。 なお、これは、総支配人であるイスカミューレン様から言われておりますので、この建物の中のお店では亜人の方も人属の方と対等に接する様になっております。」
そう言われて、安心するジューネスティーン達なのだが、続けて店員が話をする。
「ただし、それは私共店側の都合になりますので、お客様の中には、そういった事を言うお客様もいらっしゃいます。 その際は、誠に申し訳ございませんが、別室をご用意いたしますので、そちらで選んで頂く様になります。 そういったお客様がご来店した際は、誠にもしわけございませんが、ご了承ください。」
そう言うと、深々とお詫びをする様にお辞儀をした。
店は、亜人に対する差別はしないが、客の中にそういった人も居る。
その時には別の部屋に行く事になる。
それなら問題無いとジューネスティーンは思った様だ。
「分かりました。 その時はお店の都合に任せますので、何なりと仰ってください。」
そう言うと、店員は、先程の笑顔を作るとジューネスティーンに答える。
「ご理解いただき、ありがとうございます。」
そう言って丁寧にお辞儀をした。
ジューネスティーン達は、今日の目的であるマントを見に行く事にする。
「俺達、マントが欲しいんだけど、こいつが、ショウウインドウのマントを見て気に入ったので、見せてもらいたいんです。」
「かしこまりました。 それではご案内致します。 こちらへ。」
そう言うと、マントが多く置いてある売り場に案内してくれた。
「マントは、それ程サイズは有りませんが、こちらにご用意してあります。 ショウウインドウの物でしたら、こちらになります。」
本当はポンチョなのだが、アンジュリーンが、マントと言っているのを、ジューネスティーンは、気になっている様だ。
だが、その事には触れず、ハンガーラックから取り出して、自分の前に持ってアンジュリーンに見せる。
「そう、これ、凄く機能美に徹しているって、その感じが、素敵よね。」
「では、着けてみますか? 」
そう言うと、アンジュリーンは嬉しそうに、店員に着けさせてもらう。
肩から背中に回して首の下のボタンで止めるだけのシンプルのものだった。
長さは腰と膝の中央辺りまで有る。
アンジュリーンは、腕のスリットから手を出したり引っ込めたりして、軽く左右に体を回してみたりしてから、姿見の前で前や後ろを確認している。
男子2人は、気のない顔で見ているが、ジューネスティーンは真剣に見ている。
実際には、パワードスーツを着けてなのだが、機能性がどうなのかと思ったのだろう。
ついつい、そのアンジュリーンの、嬉しそうな姿を見入ってしまっている。
「ねえ、どお、なんだかとてもいい感じ。 ターンした時に裾が広がってとても素敵。 姉さん、どお? 」
そう言われても、その姿では普段様の街歩き用になるなと思ったのだろう、アリアリーシャも引き攣った表情で笑顔を作っている。
「普通ならぁ、それで良いと思いますぅ。」
そう言うと、ジューネスティーンが店員に、パワードスーツに取り付けるとは言わないにしても、魔物との対戦時に、使う事を伝える必要があるので、その事を伝えることにする。
「すみません。 実は装備を付けた状態でマントを着けたいのです。 機能的には、いい感じだと思うけど、サイズ的に小さくなってしまうかな。 一応フルプレートアーマーを着けてから付けられる物にしたいのです。」
ジューネスティーンの話を聞いたアンジュリーンが、現実に戻ってくる。
今迄の、嬉々とした笑顔が一気に落ちていった。
「そうでしたか。 そのフルプレートアーマーですが、肩当ては有るのですか? 」
店員が、肩当てと言ったので、その話を聞いて、どうもそう言った需要もありそうだと感じる。
それなら、話は早い。
「一応、全員肩当てがあります。」
「そうなると、今のサイズですと、そちらの方なら丁度良いサイズになると思います。」
そう言って、アンジュリーンが着ているマントなら肩の部分で大きく丈を持っていかれるだろうと思い、アリアリーシャの身長なら、丈の長さは丁度良くなるのではと思った様子で、アリアリーシャを示す。
「おそらくですが、肩当ての分だけ生地が横に伸びますので、少し長めにしておくのが良いと思います。 それと、アーマーの厚みにもよりますが、前後の長さも左右ほどではありませんが短くなると思います。」
そう言うと、アンジュリーンの後ろに回って、マントの両肩の下、二の腕の上の方を摘んで持ち上げると、左右が持ち上がって正面から見ると裾が弧を描いた様になる。
「先ほどまで、裾は地面に水平になっていましたが、肩が大きくなった分、この様に左右が持ち上がって弧を描く様な感じになります。 それと戦闘用に使うのでしたら、こちらの商品より、別室の方に冒険者用の衣類がそろえてございます。 こちらは街歩きとかで使う物ですので、戦闘には耐えられないと思います。」
その店員の話に、シュレイノリアが、口を挟んできた。
「戦闘用のマントだと、デザインは限られてくる。 それに、余計な付与魔法は解除が面倒、何も魔法付与が施されて無い方が、ありがたい。」
そう言われて、店員は、考え込むが、シュレイノリアの話に納得する。




