新大陸の冒険 〜魔物への攻撃〜
地面をホバーボードで滑空するようにして、10メートル級の魔物に追いかけられているアリアリーシャの頭上を、アンジュリーンとカミュルイアンの放った2本の矢は、後ろの魔物の胸の辺りに突き刺さった。
アンジュリーンは、火魔法付与を得意としており、弓矢での攻撃は、火魔法を付与した矢を放つようにしていた。
そして、カミュルイアンも火魔法付与も得意なのだが、アンジュリーンと同じでは、攻撃に偏りが出てしまうので、カミュルイアンは、遠慮して、常に雷魔法を付与した矢を放つようにしていた。
また、アンジュリーンは、火魔法と他の魔法を比べると、火魔法が圧倒的に効果が高い事を知っているので、このような同時攻撃の際には、カミュルイアンは、アンジュリーンに遠慮して火魔法は使わないようにしていたのだ。
ただ、その事を、アンジュリーンに話したり、メンバーの誰かからアンジュリーンの耳に入ると、アンジュリーンのプライドを傷付ける可能性が有ると考えたカミュルイアンは、その事をジューネスティーンにしか話してないのだ。
別の属性の魔法を矢に付与するのは、今回のように、初めて出会う魔物だと、万一、どちらかの魔法属性に耐性が有った場合、全く効果が出ない可能性があるので、常に魔法は、お互いに違う魔法を付与するのだ。
そのため、2人は別々の魔法を矢に付与していたのだ。
2人の放った矢は、1本は、右胸に突き刺さると、矢の周辺に炎を出すのだが、10メートル級の魔物の胸を軽く焼く程度にしかならなかった。
もう1本の矢は、左胸に刺さったのだが、刺さった際に、左腕が引き攣ったようになったが、それだけで終わった。
その一部始終を見ていたレィオーンパードが状況説明をする。
「うーん。 炎の矢は、少しだけ胸を焦がした程度で、雷の矢は、腕が軽く引き攣った程度だった」
アリアリーシャと、少し離れて並走している、レィオーンパードが、矢の攻撃の結果を、面白く無さそうに伝えた。
「本当なの」
「マジですか」
その声から、信じられないといった思いが伝わってきた。
確かに、新大陸に渡って来る前の大陸では、史上最強と言われた、東の森の魔物でも、身長2.5メートル程度だった。
他の魔物でも、身長2メートル程度が、一番大きな魔物だったのだ。
矢が当たれば、倒せなくとも、それなりの効果はあり、足止め程度にはなると、アンジュリーンとカミュルイアンは思っていたようだったのだが、思った通りの効果が出なかったことで、2人は、信じられないと言うような返事をしたのだが、レィオーンパードには、それが、いまいち、気に食わなかったようだ。
「ねえ、この状況で、冗談言っても意味ないでしょ」
弓で攻撃したアンジュリーンと、カミュルイアンの答えに、レィオーンパードは、少しイラついたように答える。
10メートル級の魔物にメンバーであるアリアリーシャが、囮りではあったとしても追いかけられている状況で、ふざけた発言は出来ないと、レィオーンパードは思っていたのだ。
「そんな事に感心してないで、囮りの私の身にもなってくださいぃ。 こんな大きな魔物、初めてなんですからぁ!」
「ああ、そうよね。 アリーシャの言う通りよね。 じゃあ、レオン、今度は、あんたの番ね」
アンジュリーンは、当たり前のように言う。
レィオーンパードは、アタッカーなので、直接、剣を相手に入れるようになるのだ。
まだまだ、成長期でもある、身長165センチのレィオーンパードは、パワードスーツを着ていたとしても170センチ程度なのだから、10メートル級の魔物に、できれば近寄りたいとは思ってないのだ。
「って、ねえ、アンジュ! 10メートル級の魔物に、俺の剣で何処を攻撃すればいいんだよ。 あの大きさじゃあ、俺の剣じゃ傷もつかないよ。 それに、俺って、メンバーの中では一番年下なのに、なんで、そんな危険な攻撃を俺にやれっていうの?」
言われてみれば、その通りなのだ。
「でも、私と、カミューも、見た目は、一緒くらいよ。 むしろ、私の方が若く見えるかもよ」
「だけど、アンジュは、見た目が、幼くても、この世界で34年は生きているよね。 どう考えても、生きている長さは、俺が一番下だよね」
「実年齢の話は、しちゃダメなの。 終わったら、しっかり、お話ししてあげるわね。 レオン」
アンジュリーンは、最後の名前を呼ぶときに、ドスの効いた声で伝えた。
レィオーンパードは、パワードスーツの中で、ピクリと体を揺らす。
その揺れが、全身に伝わり、ホバーボードが揺れた。
アンジュリーンが、自分の名前を呼んだ時の雰囲気から、自分は、アンジュリーンの逆鱗に触れてしまった事に気が付いた。
実際に、レィオーンパードが、魔物に攻撃するには、腰に取り付けた剣だけになる。
その剣の長さは、刃渡り50センチといった程度なのだ。
その剣で攻撃しようと思うと、後ろからだと魔物の尻尾を警戒しつつ、前からは、魔物の牙を警戒しつつになるのだ。
先程のアンジュリーンとカミュルイアンの弓矢による攻撃には、火魔法と雷魔法の魔法付与が施してあったのだが、その10メートル級の魔物に対して、大した効果は無かった。
ほぼ無傷の状態なのだ。
10メートルもの大きさの魔物に、パワードスーツを纏っているとはいっても、レィオーンパードは、パワードスーツを付けていて、170センチ程度なので、魔物の攻撃が当たればひとたまりも無い。
魔物の口が大きく開いたら、軽く2メートルは超しそうな位大きい口なのだ。
パワードスーツは、外装骨格を用いて、内部の人を保護するように作られているのだが、どれだけ防御力に優れていても、限界強度というものがある。
その魔物の口なら、パワードスーツの限界強度を、軽く超えてしまう可能性が高いのだ。