フリーデ~隣国の悪女~
「フリーデ~伝説の少女~」から七十年ほど後の隣国にて。
久しぶりだな。大きくなって……。
もう、求婚されるような年になったのか。
聞いていたのかって? ああ。偶然な。
聞かれたくなかったって文句は、あんな所で求婚した相手に言えよ。
ところで、聞いて欲しい話があるんだ。
フリーデと言う名前に聞き覚えは?
無い? そうか。
ちょっと長くなるが、良いか?
聞いてくれるか。ありがとう。
昔々、俺の爺さんが子供だった頃、隣国にフリーデと言う悪女がいた。
フリーデは平民で、特に美しいとは言えぬ平凡な容姿だったそうだ。
彼女は、言葉巧みに三人の貴族の嫡男の心を掴み、彼等に愛され贅沢三昧したと言う。
しかし、それだけでは満足せず、彼等の伝手により王太子に近付いたのだそうだ。
そして、上手く自分に夢中にさせる事が出来たが、王太子には婚約者がいた。
彼女さえ居なければ自分が王太子と結婚出来ると思ったフリーデは、彼女を陥れる事にしたんだ。
王太子の婚約者とすれ違った直後、階段を転がり落ちて、殺人未遂の罪を着せようとしたんだと。
結果、本当に死にそうになったフリーデだったが、運良く腕の良いヒーラーに治療され、助かったらしい。
知らせを受けて駆け付けた王太子やフリーデの恋人達は、まんまと婚約者がフリーデを突き落としたものと思い込み、彼女を責めたそうだ。
だが、悪い事は出来ないもんだな。
ヒーラーは、フリーデが妊娠している事に気付いていた。
彼女は、フリーデが既婚者だと思ったらしい。
だから、その場で、子供も無事だと口にしたんだ。
どうなったと思う?
争いになった? そう。その通り。
だが、直ぐにじゃない。
その前に、三人の恋人達は、自分の子だろうと自信満々でフリーデに確認したらしい。
ヒーラーの嘘だと誤魔化そうとしたフリーデは、大弱りさ。
一方、驚いたのは、王太子だ。
彼だけは、まだフリーデに手を出していなかったそうだからな。
清純だと思っていたフリーデに三人も恋人がいて、しかも、それが自分の友人達。
おまけに、三人共、フリーデが他二人とも関係を持っていると知っていたような口振り。
え? 何で、そんなに詳しいんだって?
そりゃあ、治療院には他にも患者がいたからさ。
大声で怒鳴っていりゃあ、気になって見に行く奴がいても当然だろう?
口論の末、王太子は突然剣を抜いてフリーデを突き刺したらしい。
今度は、優秀なヒーラーでもどうにも出来なかった。
結果、フリーデを寝取られて激怒している王太子と、フリーデを殺されて激怒した三人とで、治療院の外で大乱闘さ。
患者や道行く人々が集まって、人だかりが出来たそうだ。
衛兵達が駆け付けた時には既に決着が着いていて、四人共絶命していたそうだ。
その後、隣国の国王は緘口令を敷いて、事件について口にしたりした者は死刑にするって定めた。
後、フリーデの治療をしたヒーラーを、余計な事を言った所為で王太子達が殺し合ったんだって、国王は捕らえて死刑にしようとしたらしい。
でも、そうするまでも無く、ヒーラーは責任を感じて自殺していたんだってさ。
この何十年の間に、フリーデ事件を題材にして色んな本が書かれたよ。
字を読めるなら、読んでみたら良い。
物凄い悪女だったり、反対に、無理矢理関係を持たされた被害者だったり、色んなフリーデの話がある。
だからさ、殿下との結婚なんて、断りな。
どうせ、陛下達から認めて貰えないだろうさ。
フリーデ事件みたいになる事を恐れて、暗殺されたらどうするんだ?
考え過ぎ? ……そうだと良いがな。
数ヶ月後、考え過ぎではなかった事が、証明されてしまった。