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オークとの戦闘

 ハンガクの放った矢はまるで吸い寄せられるかのように敵に命中する。


 まったく無造作に行っているようにしかみえない弓射だが、どれもが次々と迫りくるオークの頭部を射抜いていた。


 商隊の後方から接近してきたのは十数体からなるオークの一団だった。

 屈強な二足歩行の体に豚の頭部を持ち合わせた魔物で、直接対峙すれば一体でも強敵といえる。

 だがこの距離から攻撃を行えるハンガクの弓のおかげで、隊の空気には少しゆとりができていた。


「貿易路にモンスターの集団が出てくるのは珍しいな」


 特に緊張するでもなく次の矢をつがえながらハンガクが言う。


「そうなのか?」


「迷い込むのは別としても、基本的には人間が集団で利用する道だからモンスターだってわざわざ群れてる人間を狙おうとは思わないだろ」


 いわれてみればそうだ。

 モンスターが人を襲うのは大抵山岳地帯や森の中などと決まっている。


「なるほど。ハンガクは物知りだな」


「むしろあんたが物知らなさすぎるんだよ。たまに不安になるぐらい常識的なこと知らないだろ」


 ハンガクの言うことは当たっている。当たり前の知識が欠如していると感じることが度々あった。

 実際には知らないわけじゃない。オレの自我とか前世の記憶に埋もれて思い出しにくいのだ。だから説明をされれば、ああそうだったなと思いだしたりもする。まわりを不安にさせているのなら申し訳ないが、オレ自身が不安になったりしないのは必要となれば思い出すと思っているからだろう。


「みんなが親切に教えてくれるから助かるよ」


 オレがそう言うと、ハンガクは呆れたような顔をしながらも、矢を放った。もちろんこれも命中する。


「にしてもすごいな。オレたちやることないぞ」


 遠距離から敵を攻撃できるアーチャーがこれほどの腕前なのだから、中距離を担当する魔術師ですら出る幕がない。いちおうは近接戦闘を担当しているオレなんかはもう昼寝をしてても大丈夫そうだ。


 しかもハンガクは剣の腕も一流らしい。近接戦闘になってもお荷物になるどころか、立派な戦力なのだ。


「まあ弱い敵なら大抵これでいけるな。でも硬いのとか武装してるのとかだと矢が刺さりながらでも距離詰めてこられるから──」


 稲光が走った。

 落雷じゃなく、地面に蜘蛛の巣が張るような形だ。そもそも雷雲もない。


 身に纏っている防具のお陰でハンガクの矢による死を免れたオークたちも、電撃をくらうに至って皆が地に伏した。


 これは範囲攻撃魔法の雷電網撃サンダー・ウェブだ。


 リュウガメの背の上ではスタッフを掲げてツルがポーズを決めていた。


「ツルの出番ってわけか」


 オレの声はため息混じりだ。

 なんていうか、オレ、いらないよな……。


 ハンガクの弓とツルの魔法があれば、近付いてこられる魔物なんて皆無だろう。

 さらには回復と格闘術が得意なトヨケが控えているのだ。


 それに比べてオレに一体何ができるというのだろう。思わず漏れるため息。まあ大変な目に遭うよりは万倍良い。


「お、いいカッコできなさそうだからヘコんだのか?」


 ハンガクの口元にからかうような笑みが浮かぶ。


「オレは美味い飯でも作ってカッコつけることにするよ」


 オレが言った直後、ハンガクの笑みはにっかりと深くなった。


「それが一番かっこいいじゃねえかよ。……いや、出番ありそうだぜ」


 その目が倒れ伏したオークの方へ向けられた。

 そこにはまだ動く姿がある。


「あれを食らってまだ動くのか。オークけっこう強いな」


 倒れている他のオークが身に着けているのがほとんど襤褸(ぼろ)同然の防具であるのに対し、唯一立ち上がった一体はかなりしっかりした革鎧をその胴に着ている。冒険者から奪った物だろうけどオレの鎧よりも断然良いやつだ。


「群れのリーダー、オークキングだな」


 ハンガクの声には余裕がある。むしろ楽しそうですらある。

 だけどオレは腋の下にじっとりと汗をかいていた。


 遠距離、中距離ときて次は近距離だ。直接戦闘になれば、ここはオレの出番になる。なってしまう。


 だけど、アレ、やたらとゴッツくないか?




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