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闇と愚か者の火

「さっきはここに敵が待ち構えていたんだ」


 ヨールが言った。


「って、真っ暗で何も見えないじゃないか」

「さっきはここに敵が待ち構えていたんだ」


 ヨールが言った。


「真っ暗で何も見えないじゃないか」


 そこは完全な闇だった。

 滝そのものは外から透けて入ってくる月明りを受けてぼんやり明るかったが、一メートルも進めばそこは自分の鼻も見えないような闇が満ちている。


愚か者の火よ(イグニス・ファトス)


 小さな声がした。青白い光の玉がレミックの指先に生まれた。


「私とヨールだけなら灯りなんてなくても見えるんだけどね」


 言いながら指を振る動作をして、宙に浮く光の玉をオレたちの少し前方まで進める。

 完全な暗闇でいきなり矢を射かけられたのだから、三人が大慌てで洞窟から転がり出てきたのも納得がいく。滝が明るい分、良いマトになっただろう。本当によく死ななかったな。


 青白い光に照らされて浮かび上がったそこは広い空間になっていた。

 予想していたように通路の真ん中をふさぐように土嚢が積まれていた。今は真っ黒に焦げていて臭いが鼻をつく。

 壁には松明(たいまつ)が設置されているが火はついていない。


 左右の壁と土嚢の間にそれぞれひと一人が通れるぐらいの幅があった。


「やっぱり魔法や飛び道具対策がしっかりされてたんだな」


 オレの言葉にヨールが頷く。


「土嚢の裏で待ち伏せていて、あの左右の隙間から矢を射ってきやがったんだよ」


 やはり準備万端すぎる。どう考えてもただの野盗には思えない。

 これだけの準備を行っているということは、長期的にネグラに使うつもりなのだ。

 通常、野盗のネグラというのは、身軽にいつでも引き払えるような物ではないのか。


「まるでここを守ってるみたいな感じだよな」


 ヨールが言った。

 土嚢の奥を注視しているのは生命感知(センス・ライフ)の魔法を使っているからだろう。


「お、ヨール君もそう思うか?」


 意見が合った。


「君とか付けんな。オレの方がずっと年上なんだぞ」


 失言だったらしい。なかなか仲良くはなれそうにない。

 ハーフリングの年齢が見た目通りじゃないことは頭では分かっているのだが、どうしても子供を相手しているような気になってしまう。


「ふむ、我も同意見だ。やつらは隠れているのではなく、何か目的をもってこの場所に陣取っているようい思える」


 ヤムトが言った。

 ルシッドとレミックは何も言わなかったが、否定しないということは同じ意見なのだろう。


「ま、なんにしても進んでみなきゃ分からんね」


 軽い口調で言ったヨールだったが、その目は真剣だった。魔法が伝える感覚に集中しているのだろう。


「少し先に敵さんが待ち構えてるから、そいつらに聞くのが手っ取り早いな」


「そうだな」


 応じたヤムトも耳をピンとそばだてている。獣人の聴力や嗅覚が頼もしい。


「ヤムトとこういうトコ来ると、イカの時のトラウマが蘇るな」


 ふと思い出して言ってみた。

 地底湖で巨大イカと対戦した時は二人とも死にそうな目にあったのだ。


「ああ、あの時は楽しかったな。今回も野盗なんてチンケな獲物ではなく、あんな大物が待ち構えていてくれれば嬉しいのだが」


「いやいやいや、オレはあんたとは真逆で、今回は野盗なんていうチンケな獲物でそれも数がもうほとんど残ってないってのを期待してるぜ」


「ほら行くぞ」


 短く言ってヨールが歩き出したので、ヤムトも口を閉じてハーフリングに並んだ。

 ルシッド、レミックと続いたので、オレも渋々後に着いた。

 土嚢を過ぎた先は一本道だった。

 奥に行くに従って少しずつ道幅が狭まり天井も低くなっている。洞窟自体がゆるやかに右方向へカーブを描いているため、先は見通せない。

 愚か者の火は足元までは照らしてくれないので、オレは何度も岩の凹凸につまずいた。そのうちの一度は濡れて滑りやすい地面に踏ん張りがきかず、小気味いいほどにつるりと転倒して。したたかに腰を打ってしまった。

 接敵する前にすでに満身創痍だ。


「いたぞ」


 腰をさすりながら歩くオレの耳にヨールの鋭く押し殺した声が聞こえてきた。

 そこは完全な闇だった。


 滝自体は外から透けて入ってくる月明りでぼんやりと明るかったが、一メートルも進めばそこは自分の鼻も見えないような闇が満ち身満ちている。


愚か者の火よ(イグニス・ファトス)


 小さな声がした。青白い光の玉がレミックの指先に生まれた。


「私とヨールだけなら灯りなんてなくても見えるんだけどね」


 言いながら指を振る動作をして、宙に浮く光の玉をオレたちの少し前方まで進める。


 完全な暗闇でいきなり矢を射かけられたのだから、三人が大慌てで洞窟から転がり出てきたのも納得がいく。滝が明るい分、良い的になっただろう。本当によく死ななかったよな。


 青白い光に照らされて浮かび上がったそこは広い空間になっていた。予想していたとおり通路の真ん中をふさぐように焼け焦げた土嚢が積まれていた。壁には松明たいまつが設置されていたが火はついていない。レミックの火球魔法で吹き飛んだか敵が消したかのどちらかだろう。


 洞窟の左右の壁と土嚢の間にそれぞれひと一人が通れるぐらいの幅があった。


「やっぱり魔法や飛び道具対策がしっかりされてたんだな」


 オレがそう言うと、ヨールは頷いた。


「土嚢の裏で待ち伏せていて、あの左右の隙間から矢を射ってきやがったんだよ」


 準備万端すぎる。どう考えてもただの野盗には思えない。


 しかもこれだけの準備を行っているということは、そこそこ長期的にはここをネグラに使おうとしているということだ。

 野盗のネグラというのは通常、いつでも身軽に引き払えるようにしているものではないのか。


「まるでここを守ってるみたいな感じだよな」


 ヨールが言った。

 真剣な目を土嚢の奥に向けているのは生命力感知を使っているからだろう。


「お、やっぱりヨール君もそう思うか?」


 意見が合った。


「君とか付けんな。オレの方がずっと年上なんだぞ」


 失言だったらしい。なかなか仲良くはなれそうにない。

 ハーフリングの年齢が見た目通りじゃないことは頭では分かっているのだが、どうしても子供を相手しているような気になってしまう。


「ふむ、我も同意見だ。やつらは隠れているのではなく、何か目的をもってこの場所に陣取っているようい思える」


 ヤムトが言った。

 ルシッドとレミックは何も言わなかったが、否定しないということは同じ意見なのだろう。


「ま、なんにしても進んでみなきゃ分からんね」


 軽い口調でそう言ったヨールだったが、その目は真剣だった。

 生命感知センス・ライフの魔法に集中しているのだろう。


「少し先に敵さんが待ち構えてるから、そいつらに聞くのが手っ取り早いな」


「そうだな」


 応じたヤムトも耳をピンとそばだてている。獣人の聴力や嗅覚が頼もしい。


「ヤムトとこういうトコ来ると、イカの時のトラウマが蘇るな」


 ふと思い出してオレはそう言ってみた。

 地底湖で巨大イカと対戦した時はオレもヤムトも死にそうな目にあったのだ。


「ああ、あの時は楽しかったな。今回も野盗なんてチンケな獲物ではなく、あんな大物が待ち構えていてくれれば嬉しいのだが」


「いやいやいや、オレはあんたとは真逆で、今回は野盗なんていうチンケな獲物でそれも数がもうほとんど残ってないってのを期待してるぜ」


「ほら行くぞ」


 短く言ってヨールが歩き出したので、ヤムトも口を閉じてハーフリングに並んだ。

 ルシッド、レミックと続いたので、オレも渋々後に着いた。


 土嚢を過ぎた先は一本道だった。

 奥に行くに従って少しずつ道幅が狭まり天井も低くなっている。洞窟自体がゆるやかに右方向へカーブを描いているため、先は見通せない。


 愚か者の火は足元までは照らしてくれないので、オレは何度も岩の凹凸につまずいた。そのうちの一度は濡れて滑りやすい地面に踏ん張りがきかず、小気味いいほどにつるりと転倒して。したたかに腰を打ってしまった。

 接敵する前にすでに満身創痍だ。


「いたぞ」


 腰をさすりながら歩くオレの耳にヨールの鋭く押し殺した声が聞こえてきた。



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