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三連撃

 直後、黒い影が迫った。

 瞬きする間もなく、鉤爪のような物がオレの眼前に突き出されている。


 ギリギリで(かわ)した。


 勘だ。敵が動きを見せた瞬間に、反射的にオレは上体をひねっていた。

 剣で受け止めるなど到底ムリな速度だ。


 次は──


 嫌な気配をうけて無様に飛び退く。バックステップなんていう華麗なものではなくただ逃げただけだ。


 下から刈り上げるような軌跡で、次の斬撃がきていた。


 避けられたのは予測というより、これまたただのヤマ勘だ。


 さらに追撃がくる。


 少しだけ間合いができている。剣を使う程度の余裕があった。

 たぶんここだろうという位置に剣先を動かした。直後、衝撃がきて剣を弾かれた。

 敵の打ち下ろす攻撃に剣ごと体勢を大きく崩された。まるで防御になっていない。

 もうムリだ。頭部がガラ空きだ。次にくる一撃は防げない。


 黒い影は無常にもオレの脳天に向かってその鉤爪を振りおろした。


 ぽすん──


「え」


 予想外の感触に戸惑う。

 頭に振りおろされたのは死の一撃ではなくチョップ。いや、チョップですらないただぽんと置かれた手刀。

 手刀ってなんだ。魔物に手刀があるのか。

 どうやらオレは自分が生きていることにプチパニックを起こしている。


「我の勝ちだな」


「なに、なになにヤムト??」


 目の前にあった犬……じゃなかった狼の顔がにやりと笑った。


「なんでヤムトなんだ? 地底湖の中ボスはどこにいった? というかやっぱりお前オレの命を狙ってたのか」


 オレを襲った影は魔物ではなく、ヤムトだった。そのことを理解はしても、やはり色々と分からない。


「落ち着け。剣をおろせ。敵とまちがえて攻撃してしまったのは謝るが、我はお前の命など狙っていない」


「いやいやいやいや狙ってたって。だいたい間違うもなにも、そっちには灯りがあっただろ」


 ヤムトの後方に置かれたカンテラを指さした。

 自分の言葉で気付いた。そうだ、こちらからはただの影にしか見えなかったが明かりを背にしていたヤムトからはオレの姿が見えていたはずだ。


「こんなとこで湖から出てきたのだから、てっきりヤツらかと思ってな。

 反射的に攻撃をしかけたのだが、一連の動作である貫き手から蹴り上げまでは相手がお前であると気づけなかったのだ」


「おい、三撃目は分かっててやりましたって素直に白状してるじゃないか」


「まさかあの連続攻撃が防がれるとは思ってなかったのでな。少し意地の悪いことをした。

 けっきょくそれも防がれたが。お前本当に弱いのか?」


「オレ弱いなんて一言もいってないんだが?

 いや、強くはねえよ。今のだってヤマ勘がたまたま当っただけだし、四発目がきたら確実に死んでただろうし」


「ヤマ勘で防げるような攻撃ではないはずだぞ。これまで三連撃で仕留められなかった剣士はルシッドだけだったしな。

 だがたしかに剣は簡単に弾けたな。非力なのは間違いなさそうだ」


「そんなことより、ヤツらってなんだ? コカトリスじゃないんだろ?」


 ヤムトはさらっとヤツらなんて言ったが、コカトリスが湖から上がってくるはずはない。一体オレを何と間違えたのか。


「何なのかは我にも分からん。

 ここに棲みついた魔物なのだろうが、まだ観察もできてないのでな」


「〝ら〟なんだろ? 何匹ぐらいいるんだ?」


「それも分からん。五体は狩ったのだが際限がないのだ」


「あやうくオレが六体目になるところだったわけだ」


「本体というか、親がどこかにいるはずだ。そいつを倒せばそれ以上は増えないと思うのだが」


「皮肉をスルーすんじゃねえよ」


 言いながらもオレは辺りを見回す。ヤムトの事を許す気はないが、謎の魔物が襲ってくるのならそちらにも意識を向けなければならない。

 ヤムトのランタンが明かりを届ける範囲は狭く、その外には闇が横たわる。

 たしかに、水からあがってきたオレをオレと認識できずに攻撃を仕掛てきたのは仕方ないのかもしれない。まあ許す気はないが。


「コカトリスはここにはいないのか?」


「ここにはいない。だがコカトリスの数が減ったのはここに棲む魔物のせいだと思う」


 やはりよく分からない。


「説明するより見たほうが早い」


 言って、ヤムトは水際まで歩いていった。

 地底湖を前にして立ち止まると、水面を指さす。


「なんだ、何もないぞ?」


 しばらくそこを注視していると、水の中から何かが這い上がってくる。


「げ、なんだアレ」


 オレの腕ほどの太さと長さをした軟体生物だった。

 ヌメヌメとした体を蠕動させて前進する姿はナメクジのようだ。体色が緑と水色のカラフルな縞模様になっていてる点はアメフラシにも似ているが、触覚がないところはいずれとも異なっている。


「水面に生き物の影がうつると、こうやって出てくるんだ」

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