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視線と吐息

 山には様々な植物が生える。

 標高が高くなれば樹木は生えず、背の低い高山植物ばかりになったりする。

 また、禿山と呼ばれる山もある。地質的な理由から、あるは伐採等の人為的な理由から植物が全く生えない山だ。


 ではオレたちが分け入っている延々と露頭した岩肌が続いたかと思うと、背の高い針葉樹が集まって生えていたりするような山は何と呼ぶべきか? まだら禿山?


「コカトリスの棲む山って感じでしょ?」


 シルバーが言った。

 またオレの思考を読んでいるらしい。


「まだら禿がコカトリスの棲む証なのか?」


 よくよく見ると、ただのまだら禿というわけでもない。

 木々の影にある岩を苔が覆うかと思えば、日当たりの良い場所ほど草木の生えない岩場だったりする。禿てるとこと禿げていないとこがチグハグなのだ。 


「石化の毒を出すからね。植物そのものが石になるというより、土がやられちゃうんじゃないかな」


 そういえばコカトリスはその息や視線に石化の効果を持つといわれている。

 冷静に考えれば、そんなものどうやって狩るんだ?

 ヤムトは自信満々だったが、オレ一人でそんなのと出会えば秒で石にされて食われそうだ。


「違う違う。本当に無知だなあ、カズは」


 いきなり呆れ声でおとしめられたのは、これまたオレの考えを読んだからだろう。

 完全にテレパシーハラスメント、テレハラ案件だ。


「なにが違うんだよ」


「コカトリスは人間なんて食べないよ。雑食だけど、ほぼ草食寄りの雑食だからね。好物はヨモギだし」


「じゃあなんで人を石にするんだよ。視線とか吐く息で石化するとか怖すぎだろ」


「おとぎ話と現実がごっちゃになってるよ。視線と息に石化の効果なんてあるワケがないじゃないか。

 一応は大人なんだから、ちょっと考えたら分かるでしょ。

 コカトリスのあれは唾液腺で作られた毒を口と目から噴き出してるだけで、捕食のためじゃない身を守るための攻撃なんだよ」


「そんなの知るわけないだろ。そもそもオレはコカトリスを見たこともないんだぞ」


「いくら見たことないっていっても、息とか視線で石化するなんて信じる?

 発想が幼いというか幼児並みの思考力というか。まあ純粋だといえなくもないけど」


「吐く息に魔法と同じ効果がある自転車なら知ってるんだがな」


「そんな素敵な自転車がいるんだね。一度会ってみたいなあ」


 辻褄が合わないというか、都合が悪いことにはシラを切るつもりらしい。


「まあいい。で、そのコカトリスだが、まったく姿を見せないのはどういうことだ?」


 山に入って三十分は経過していた。

 シルバーに乗ったままの疲れない登山だが、かなり登った気もする。

 カキプロルはなだらかな山容で、はっきりここが山頂だと呼べる場所はないが、山頂付近までは来ていると思う。

 密生する木も籔もほとんどなく、岩や苔の他にはまばらにクマザサの群生が見られる程度だ。

 見通しが良いので、辺りに生きものがいないこともよく分かる。コカトリスどころか山鳥の一羽もいない。少なくとも見渡せる範囲にはまったくなんの気配も感じない。


「うーん、前にここを通った時はけっこういたんだけどなあ」


 シルバーが言う。

 コカトリスのような異型の魔物がけっこういるような光景はあまり想像できないのだが、嘘ではなのだろう。


「気配も感じられないというのはおかしいな」


 辺りを散策して戻ってきたヤムトが言った。


「冒険者に狩りつくされたんじゃないか?」


 冒険者としていくつかの依頼をこなしてきた経験からすると、この世界には乱獲という概念はなさそうだった。

 魔物は人に害を成すものであり、放っておけば無尽蔵に増えるので、可能な限り駆除をしなければならないというのが、人々の共通認識のようだ。

 それが悪いとは思わないが、今ひとつ馴染めないことも確かだ。

 今回のように食べるための狩りを行うことに抵抗はないが、「どこそこで魔物の姿が目撃されたから素材採集を兼ねて討伐隊を組んで駆除しに行く」といった依頼にはあまり手を出す気になれなかった。


「そこまで徹底した討伐が行われたなら、ギルドで話ぐらいは聞きそうなものだが」


 言われみればその通りだ。

 冒険者の討伐が原因でないとすると、コカトリスを捕食する魔物が住みついたとかだろうか。


 そこでヤムトが言う。


「手分けして探してみるか」


 はい来た。これ孤立したオレが危機におちいるパターンだ。


「反対だ」


 即答してやった。みすみす死にに行くような提案に乗るわけにはいかない。

 だがこの場にいるのは三人。決定はどうしても多数決によるものになる。


「いいんじゃない? せっかく三人いるんだから固まってるより別の場所探すべきだよ」


 シルバーはヤムトの提案に賛成らしい。


「一人で行かされたらオレが死ぬじゃないか」


「また情けないこといってら。

 大丈夫だよ、危なくなったら思念伝達(テレパシー)で呼びかけてくれたらすぐに行くから」


 たしかに思念伝達(テレパシー)という連絡手段に、コイツの速度があればそれほど危険はないようにも思える。


「本当に面倒くさがったりモタモタしたりせずに、すぐに助けに来てくれるんだろうな」


「もちろんだよ。

 光の速さで飛んで行くよ」


 この適当な受け答えを信用することはできないが、ここで駄々をこねてばかりもいられない。

 見方を変えれば、オレがピンチということは、そこにコカトリスがいるわけだから、その獲物をシルバーがみすみす見逃すとも思えない。結果的には駆けつけてくれるはずだ。


「分かったよ。じゃあオレはあそこから探す」


 オレはなだらかに続く尾根筋を指さした。


 あんなかから見下ろしてもそうそう獲物を発見することはできないだろうが、突然遭遇してしまうリスクもほとんどないはずだ。


「まあ妥当な判断だよね。身の丈を知ってるというのは偉いと思うよ」


 シルバーが言った。


 なにとでも言うがいい。ここは安全第一だ。か

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