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魔法の才能と芋のスライス

砕けよ(ハルド)!」


 声が響いた瞬間、エルフ美女の手が触れていた石が砕け散った。

 ほぼ銀に近いプラチナブロンドの髪がぶわりと舞ったのは、吹き飛んだ石片が風を起こしたからだろう。


 おー、という歓声とともに周りからパチパチと拍手が上がった。

 オレも拍手をしていた。

 初めて見たが、単音節の呪文詠唱で発動する魔素弾(インパクト)という魔法だ。

 たしか体内の魔素(マナ)を衝撃波に変換して手で触れた対象にぶつけるカッコいいやつだ。


「まさか現場でこんな風に魔法を使うなんてな。あんな華奢なべっぴんさんがこの現場で何をするのかと思ってたんだ」


 オレは隣でジャガイモの皮を剥いていたハンクにそう言う。


魔素弾(インパクト)だけじゃないっすよ。何しろ技巧派のレミック姉さんっすからね。武器強化(エンチャントアーム)でツルハシの威力をマシマシにしたり、大きくて思い石を降ろす時に落下制御(ドロッププロップ)でゆっくり落としたりして、大活躍なんすから」


 ハンクが得意気に言った。

 石工に雇われているハンクがなぜ冒険者ギルドの人間の活躍を得意がるのかは分からないが、あのエルフの魔法使いに関してオレよりも詳しいことだけは分かった。


『カズは魔法使えないの?』


 シルバーの声がした。

 囁き声(ウィスパー)だ。

 バナバとは話をしたが、他の面々には喋ることができない設定で通すつもりらしい。


『一応こっちの世界に来た時に色々試したんだけどな』


 オレも心の中の声で返す。シルバーがこっちの心を読めるのなら、こういう形で会話が可能なはずだ。


『試してどうだったの?』


 思った通り会話ができそうだ。


『ぶっちゃけ何一つできなかった』


 異世界に転生したと分かった時に一番始めに試すとすれば、それはやはり魔法だろう。

 手から火を出したり宙に浮いたりする事を望んだことがない人間なんているわけがない。

 だけどできなかった。

 魔素(マナ)とやらも感じる事はできないし、術式や呪文や魔法図形を勉強してその通りのことを行っても何一つ魔法の効果は現れなかった。そういう人間も時々いるらしい。


『魔法の才能がなかったんだよ』


 オレがそう言うと、珍しくシルバーが神妙な声(念)で応えた。


『仕方ないよ。魔法ができなくても、カズにはカズにしかできないことがあるよ』


『珍しく優しいな』


『僕も魔法使えないしさ。

 ま、僕の場合は魔力を込めた(ブレス)でほとんどの魔法と同じ事ができるんだけど。

 だから本当のところは才能のない人の気持ちなんて分からないんだけど、弱者に優しくするのも強者の役目だからね。

 ほら、泣いてもいいよカズ』


 やはりシルバーはシルバーだった。こうまで性格が悪いと言い返す言葉も思い付かない。

 そこにハンクの声がかかった。


「皮全部剥けたっす」


「あ、じゃあ次は薄くスライスしてくれ」


「りょーかいっす」


 返事も良く、ハンクは皮が剥けたジャガイモを薄い輪切りにしていく。

 だが分厚い。


「もーちょい薄くならないか?」


「これでも精一杯やってるんすけどね」


 ハンクの切ったジャガイモを摘みあげると厚みが五ミリほどはありそうだ。

 できれば一ミリ以下にはしたい。


「そうか刃物が悪いんだ」


 ハンクの使っているナイフを借りて刃を見る。なかなかのなまくらだ。

 この世界ではこれで普通なのだろう。切るというよりも断ち切るという感じなのだ。


「これ使ってくれ」


 シルバーに買ってもらった業物のナイフを貸してやる。

 受け取ったハンクは先ほどよりもスムーズにサクサク芋をスライスしていった。


「これ、めちゃくちゃ切れるっすね」


「めちゃくちゃ高かったからな」


 とはいえ、それでも理想の薄さには届かない。


「スライサー欲しいな」


 もちろんこの世界にスライサーはない。

 あの百円均一ショップにも売っていた小さな道具が、場合によっては業物のナイフにもまさる偉大な発明品であったことを、オレは今さらながらに実感した。


「今後の課題だなあ。そのうち鍛冶屋の知り合いでもできた時には頼んでみるかな」


 魔法はどうにもならなくても、道具に関してはどうにかしていきたいところだ。

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