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共同戦線

「なんだこりゃ、うめぇっ!!」


 野太い声が響き渡った。


 石工の棟梁が、カレーライスをひとくち食べるなり声を上げたのだ。


 棟梁は白髪でひと際体格の良いドワーフだ。

 黙っていれば気難しそうな印象「なんだこりゃ、うめぇっ!!」


 野太い声が響き渡った。石工の棟梁が、カレーライスをひとくち食べるなり声を上げたのだ。

 棟梁は白髪のひと際体格の良いドワーフだ。

 黙っていれば気難しそうな印象を与えるが、口を開けばそれが短気そうな印象に変わる。いずれにせよ、オレは近寄りがたく感じていた。

 それがカレーによって子供のように相好を崩している。


「米なんざ麦と一緒にミルクにぶちこんで煮て食うぐらいしかないと思ってたが、こいつは美味いな」


 作業中は鋭い目で現場内を睥睨し、石工、モリの人足問わず叱責を飛ばしていたのだが、意外によく喋る。

 そして食べるのも早い。一瞬で皿の半分ほどが無くなっていた。

 かなり多めに作ったつもりだったけど足りるだろうか。


「そこのひょろっとしたアンタ。アンタがコレを作ったのか?」


 ひょろっとしたという表現に、思わず石工の料理番の方を見たのだが、どうやらオレのことを指していたらしい。別にひょろっとはしてないつもりなんだけど、ドワーフから見ればそうなのだろう。


「ああ、作ったのはオレだよ」


「ワシも若い頃はあちこち旅をしていたんだが、こんなのは初めて食う。なんていう料理だ?」


「カレーというんだ。南方の料理をアレンジしてみたんだよ」


「なるほどな。確かに南方の料理に似てはいるな。辛いが美味い」


 棟梁がそう言うと、他の石工たちからも「こいつは美味い」「何皿でもいける」「エールが欲しくなる」などの声が出る。


 石工たちは全部で五人。

 棟梁はドワーフだが、あとは二人がドワーフで二人が人間だ。

 ドワーフには社交的ではないイメージがあったが、気心が知れるとそうでもないらしく、みんな口々にカレーのことを褒めてくれた。


「モリさんよ、あんたすごい料理人を見つけてきたもんだな」


 棟梁が言うとモリは


「まあな。ちょっと特別なツテで探した秘蔵の料理人だからな」


 などと、適当なことを言ってる。


「確かに兄貴はすごいよ。

スパイスの効いたスープに小麦粉とバターを使ってとろみをつけたんだ。それで米にかけても染み込まないから食べやすくなってるんだ。

 しかもスープは何種類かのスパイスを使うだけじゃなく、あらかじめそれらをすり潰してからブレンドしてカレー粉ってのにしとくんだってさ。その配合さえ覚えておけば、同じ風味と辛さがいつでも再現できるもんな」


 ハンク──石工の料理番が、まるで自分のことのように得意気に言った。


 恥ずかしすぎるからやめてほしい。それ全部オレが考えたことじゃないんだ。

 ハンクの料理への熱意を感じてカレーの作り方くらいは教えてやりたくなり、色々と得意げに喋ってしまったことをオレは激しく後悔した。いや、正直なところをいえば兄貴呼ばわりされて調子に乗ってしまったのだ。


「へー、すごいアイデアだねえ。カズは天才料理人だなあ」


 シルバーがオレにだけ聞こえる囁き声(ウィスパー)で言う。

 くそっ、何も言い返せねえ。

 無視してオレもカレーのスプーンを口に運ぶ。


「うまいっ」


 思わず自画自賛してしまった。


 よく煮込まれてニンジンもジャガイモも小さくなっているけど、その分ソースに甘味とコクが出ている。

 何より良い仕事をしているのが干し肉だ。煮込まれた干し肉そのものもほろりと柔らかくなっていて美味いが、もどし汁(と呼ぶのかは分からないが)がソースに強力な旨味を与えている。

 市販の固形ルウを使い慣れているオレからすれば、旨味とかコクの点ではきっと物足りなくなるんだろうなと予想していたのだが、そんなことはなかった。

 むしろこれまで食べたことのないくらいの肉の旨味が出ている。それが飴色タマネギの甘さや香ばしさ、スパイスの風味と相まって、至高の逸品となっていた。

 これは一流カレー店のカレーといっても通るのではないだろうか。

 うーむ、やはりオレは天才なのかもしれない。


「何をにやにやしてるの、気持ち悪い」


 シルバーのヘイトも気にならないぐらいの美味さだ。


 石工の料理番が作っていた腸詰とキャベツのスープも別けてもらったので、それも一緒に食べた。

 汁物アンド汁物なので腹がちゃぽんちゃぽんになりそうだが、こちらも美味い。

 保存のためなのだろうが、腸詰に塩と香辛料がよく効いていて、それがスープの味を作っている。大量にぶちこまれたキャベツもよく煮込まれてくたりとしていて美味い。

 キャベツ好きのシルバーはカレーよりもこちらの方が気に入ったようだ。そこはちょっとだけくやしいような気がしなくもない。


「この飯の費用は払わせてくれ」


 棟梁がオレとモリを交互に見て言った。


「あ、その事についてなんだが、モリにも言っておきたいことがあるんだ」


 オレはそう前置きをしてから続ける。


「まずこのカレーは、材料をトメリア食料品店が提供してくれたので、それを使って作ったんだ。まあつまりおごりだと思ってくれていい」


 トヨケとカノミがダンジョンで助けてくれた礼をしたいと言って譲らなかったのだ。

 なのでオレはカレーの材料を所望した。作ってみたかったのだカレーが。


「それと、今後の食事についてなんだが、ハンクと二人で協力して石工と冒険者全員分の食事を作りたいんだ」


 先ほどハンクから提案された事だった。

 オレとしては異論はない。

 もとより同じ場所で働く者たちが別に用意された食事を別に食べるということに効率の悪さを覚えていたので、これはありがたい提案だった。

 ハンクとしてはオレから料理を学びたいらしいのだが、オレもこの世界の料理を十分に知っているとは言い難いので、学べることがあるのはお互い様だ。


 あとは食材の費用に関しての取り決めだ。オレとハンクで勝手に決められることではないし、金のことなので、そこはモリと石工の棟梁に話し合いをして決めてもらいたい。

 ところが、


「なるほど、それは良いな。二人で美味いもん作ってくれりゃ、こっちとしても仕事のやり甲斐があるってもんだ。

 今それぞれが用意している食材を使ったあとは、材料費はオレが出させてもらう。

 金はケチらないから良い物を買ってきてくれ。

 モリさんもそれでいいかい?」


「もちろんだ。こちらとしてもありがたい話だ」


 こうもあっさりと決まってしまった。

 現場のおっちゃんのこういう気風の良さってカッコイイよな。


「ということで、よろしくなハンク」


「お願いします、兄貴」


 オレとハンクは熱い握手を交わしたのだった。

 兄貴呼びだけはやはり気恥ずかしいからかんべんして欲しいんだがな。与えるが、口を開けばそれが短気そうな印象に変わる。いずれにせよ、オレは近寄りがたく感じていた。


 それがカレーによって子供のように相好を崩している。


「米なんざ麦と一緒にミルクにぶちこんで煮て食うぐらいしかないと思ってたが、こいつは美味いな」


 作業中は鋭い目で現場内を睥睨し、石工、モリの人足問わず叱責を飛ばしていたのだが、意外によく喋る。


 そして食べるのも早い。一息で皿の半分ほどが無くなっていた。

 カレーはかなり多めに作ったつもりだったけど足りるだろうか。


「そこのひょろっとしたアンタ。アンタがコレを作ったのか?」


 ひょろっとしたという表現に、思わず石工の料理番の方を見たのだが、どうやらそれはオレのことを指していたらしい。別にひょろっとはしてないつもりなんだけど、ドワーフから見ればそうなのだろう。


「ああ、作ったのはオレだよ」


「ワシも若い頃はあちこち旅をしていたんだが、こんなのは初めて食う。

なんていう料理だ?」


「カレーというんだ。

南方の料理をアレンジしてみたんだよ」


「なるほどな。確かに南方の料理に似てはいるな。辛いが美味い」


 棟梁がそう言うと、他の石工たちからも「こいつは美味い」「何皿でもいける」「エールが欲しくなる」などの声が出る。


 石工たちは全部で五人。

 棟梁はドワーフだが、あとの四人は二人がドワーフで二人が人間だ。


 ドワーフには社交的ではないイメージがあるが、気心が知れるとそうでもないらしく、みんな口々にカレーのことを褒めてくれた。


「モリさんよ、あんたすごい料理人を見つけてきたもんだな」


 棟梁が言うとモリは


「まあな。ちょっと特別なツテで探した秘蔵の料理人だからな」


 などと、適当なことを言ってる。


「確かに兄貴はすごいよ。

スパイスの効いたスープにルウでとろみをつけることで、米にかけた時に食べやすくなってるんだ。

しかもスープは何種類かのスパイスを使うだけじゃなく、あらかじめそれらをすり潰してからブレンドしてカレー粉ってのにしとくんだってさ。その配合さえ覚えておけば、同じ風味と辛さがいつでも再現できるもんな」


ハンク──石工の料理番が、まるで自分のことのように得意気に言った。


 やめてくれ。恥ずかしすぎる。それ全部オレが考えたことじゃないんだ。


 兄貴呼ばわりされて調子に乗ってしまい、カレーのウンチクを得意げに喋ってしまったことを、オレは激しく後悔した。


 ハンクの料理への熱意に対して、カレーの作り方くらいは教えてやりたくなったのだ。


「へー、すごいアイデアだねえ。カズは天才料理人だなあ」


 シルバーがオレにだけ聞こえる囁き声(ウィスパー)で言う。

 くそっ、何も言い返せねえ。


 無視してオレもカレーのスプーンを口に運ぶ。


「うまいっ」


 思わず自画自賛してしまった。


 よく煮込まれてニンジンもジャガイモも小さくなっているけど、その分ソースに甘味とコクが出ている。


 何より良い仕事をしているのが干し肉だ。煮込まれた干し肉そのものもほろりと柔らかくなっていて美味いが、もどし汁(と呼ぶのかは分からないが)がソースに強力な旨味を与えている。


 正直言って、市販の固形ルウを使い慣れているオレには、旨味とかコクの点では物足りなくなるだろうなと思っていたのだが、そんなことはなかった。

 むしろこれまで食べたことのないくらいの肉の旨味が出ている。それが飴色タマネギの甘さや香ばしさ、スパイスの風味と相まって、至高の逸品となっていた。


 これは一流カレー店のカレーといっても通るのではないだろうか。


 うーむ、やはりオレは天才なのかもしれない。


「何をにやにやしてるの、気持ち悪い」


 シルバーのヘイトも気にならないぐらいの美味さだ。


 石工の料理番が作っていた腸詰とキャベツのスープも別けてもらったので、それも一緒に食べた。

 汁物アンド汁物なので腹がちゃぽんちゃぽんになりそうだが、こちらも美味い。


 保存のためなのだろうが、腸詰に塩と香辛料がよく効いていて、それがスープの味を作っている。大量にぶちこまれたキャベツもよく煮込まれてくたりとしていて美味い。


 キャベツ好きのシルバーはカレーよりもこちらの方が気に入ったようだ。そこはちょっとだけくやしいような気がしなくもない。


「この飯の費用は払わせてくれ」


 棟梁がオレとモリを交互に見て言った。


「あ、その事についてなんだが、モリにも言っておきたいことがあるんだ」


 オレはそう前置きをしてから続ける。


「まずこのカレーは、たまたま食材やスパイスを提供してくれた人がいたので、それを使ったんだ。まあつまりオレのおごりだと思ってくれ」


 提供者はトヨケとカノミだ。


 ダンジョンで助けてくれた礼をと言って譲らなかったのだ。

 なのでこの仕事のための仕入れの食材とは別に、一食分、このカレーの材料をありがたく頂戴することにしたのだ。


「それと、今後の食事についてなんだが、ハンクと協力して全員分の食事を作りたいんだ」


 先ほどハンクから提案された事だった。


 オレとしては異論はない。


 もとより同じ場所で働く者たちが別に用意された食事を別に食べるということにやりにくさを覚えていたので、これは悪くない提案だった。


 ハンクとしてはオレから料理を学びたいらしいのだが、オレもまだまだこの世界の料理を十分に知っているとは言い難いので、学べることがあるのはお互い様だ。


 あとは食材の費用に関しての取り決めだ。オレとハンクで勝手に決められることではないし、金のことなので、そこはモリと石工の棟梁に話し合いをして決めてもらいたい。


 ところが、


「なるほど、それは良いな。

二人で美味いもん作ってくれりゃ、こっちとしても仕事のやり甲斐があるってもんだ。

今それぞれが用意している食材を使ったあとは、材料費はオレが出させてもらう。

金はケチらないから良い物を買ってきてくれ。

モリさんもそれでいいかい?」


「もちろんだ。こちらとしてもありがたい話だ」


 こうもあっさりと決まってしまった。

 現場のおっちゃんのこういう気風の良さってカッコイイよな。


「ということで、よろしくなハンク」


「お願いします、兄貴」


 オレとハンクは熱い握手を交わしたのだった。

 兄貴呼びだけはかんべんして欲しいところなのだけど。




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