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冒険者パーティと腰抜け

 

「おお、噂通りのドラゴンだな」


 まだ距離があるうちからモリの塩辛声が響いた。朝日の中にはあまり似つかわしくない強面が大きく手を振っている。


「噂なんて大げさな。誰に聞いたんだよ」


 集合場所の広場はまだ朝モヤがかかっている。

 モリの他にすでに来ていたのは半数ほど。どれもギルドで見知った顔だ。


「ギルド内はお前のドラゴンの話題でもちきりだよ」


 見知った顔の一人が言った。カルドという名の気の良い小男だ。


「悪魔の話は?」


「それも聞いてる。お前さん活躍したそうだな。あのハンガクが生贄にされかかったんだって?」


「オレはなんもしてないさ。ハンガクたちはうちのドラゴンが助けたんだ。でも悪魔はまだダンジョンにいるから、下の方には降りない方がいいぞ」


「悪魔がいなくたってダンジョンに行く仕事なんか受けねえよ」


 カルドは左足の膝から下が無く、今は義足を付けている。過去にダンジョンに潜る仕事で魔物にやられて失ったのだ。

 日常の生活やこういった仕事なら問題なくこなせるが、魔物の討伐やダンジョンに潜る仕事はもう受けていない。


「あのドラゴンは噛み付いたりしないのか?」


 ヨハンが訊いた。モリの仕事仲間の古株だ。


「噛むも何も、しゃべれ……」


「カズ」


 オレが言いかけた言葉を遮るようにシルバーの思念伝達(こえ)がした。オレにだけ聞こえるこれは囁き声(ウィスパー)だったか。


「面倒だから僕は喋れないって事にしといてね」


 トヨケたちとは普通に思念伝達(テレパシー)で会話をしていたのに、今回は話すつもりがないらしい。

 多分おっさん差別なのだろう。キレイどころの女性とは喜んで話すくせに、むさ苦しいおっさんたちとは話したくないのだ。気持ちは分かるが。

 オレは軽く頷いて、ヨハンに返事をする。


「大丈夫だ噛まない。あんまり賢くないけど、オレが躾けたことはきっちり守るから」


 考えてみれば、シルバーが喋ってあることない事を誰彼かまわずに吹いてまわられるより、喋れないとしておく方が安全かもしれない。

 その時、ガヤガヤとした声が広場に入ってきた。五人組の冒険者だ。


「早いな」


 先頭にいた男が言った。大きな剣を腰に提げている。

 その後には、鉄槌を背負ったひげもじゃドワーフ、ワンドを持ったエルフの美女、リンゴを齧っている目付きの悪いハーフリング、手ぶらだが鋭い威圧感を発している、イヌ科──おそらく狼の獣人が続く。典型的な冒険者のパーティだ。


「ルシッド、来たか」


 モリが手を上げた。

 だが剣士はそれには応えずこう言った。


「なんだ、変なトカゲと腰抜けが紛れてるな」


 腰抜けはオレの事だとして、トカゲが何を指しているのか、少しの間分からなかった。

 そういえばみんなにはシルバーがドラゴンに見えているのだった。だからドラゴンを揶揄する言葉としてのトカゲなのか。

 意味は分かったが、自転車がトカゲと呼ばれることに違和感を拭い切れない。いやまあ、ドラゴンと呼ばれる事にも違和感マックスなのだが。


「お、ルシッド。来てそうそう、ご挨拶じゃないか。相変わらず口が悪いなー」


 オレの隣のカルドがおどけた調子で言った。場をとりなそうとしてくれている。

 だがルシッドはカルドには見向きもせず、オレの顔を見て続けた。


「何か言いたい事があるか?」


 納得はできないものの、言いたい事というほどのものでもない。それにトカゲもドラゴンも違和感では大差ない。

 オレは黙って首を振った。

 ハーフリングがははははと声を上げて笑った。

 そこにモリが割って入った。


「来て早々揉め事は勘弁してくれ。カズはオレが頼み込んで来てもらったんだ。お前たちも飯が乾し肉と硬いパンだけじゃつまらないだろ」


「料理係として彼を呼んだのは知ってるわ。だけど料理するだけなのにドラゴンを連れて来る必要はないわよね」


 エルフの美女が冷たい声で言った。


「怖がらせてすまないなレミック。こいつオレがいないと寂しがって泣くんだよ」


 オレは最大級の爽やかな笑顔でそう言った。

 だがレミックはむっとしてそっぽを向いた。


「貴様、我々がトカゲごときを恐れると思っているのか?」


 半ば唸り声でそう言ったのは獣人のヤムトだ。

 オレが見上げる上背で睨みつけられると、肝が冷えてしまう……のだけど、思ったよりも怖くはない。

 以前はもっと縮こまったはずだが、と首をひねるが、考えてみれば悪魔に遭遇して腰を抜かした事に比べれば、怖さを感じるような相手ではない。

 もちろんオレにはケンカを売る意思もない。


「そう聞こえたなら謝るよ。一緒に仕事するんだし仲良くしてくれよ。

 自てん……トカゲなんか連れてるけど、こう見えてオレ犬好きなんだ」


 これまた最大級に感じの良い笑顔をヤムトに向けた。

 途端に彼の殺気が膨れ上がった。

 あ、何か分からないけど失言したらしい。これ殺されるやつだ。

 怖くはなくても、ケンカになればボコボコにされて生死の境をさまようハメになるのは目に見えている。貴人たちにやられた痛みが甦る。


「やめとけ、お前たち」


 モリが珍しく低い声を出した。

 ありがたい。止めてくれ。

 だがヤムトの殺気は収まる気配はない。大きな拳が握られ二の腕に筋肉が膨れ上がる。


「どうしてもやるならオレが相手になるぞ」


 モリがオレを背にして割って入った。デカい背中だ。獣人にも引けを取らない。

 数秒間モリの顔を見たあと、獣人は聞えよがしに大きな舌打ちをして、


「身の程もわきまえない腰抜けが」


 そう言うとぷいと背を向けた。

 仕事のチームリーダーにここまで言われては、ヤムトも収めるしかなかったのだろう。モリがいてくれて本当に助かった。

 そのモリは盛大にため息を吐いた。

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