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悪魔

「これって結局何をしようとしてたんだろうな」


 魔法陣の一部にされているトヨケの拘束を解きながらシルバーに話し掛ける。

 腕輪も造作なく外すことができたが、針が刺さったままだったので、それを抜いた痕からまた少し血が流れ出た。すぐに止まるだろうけど、これを外してからシルバーに回復させればよかったな。


「悪魔召喚とかだろうね。外にいる人たちに訊けば分かるだろけど」


 シルバーも向こうで他の冒険者の拘束を解いている。手は無いはずなんだけど、どうやってるんだろう。


「ああ、あっちの貴人は気絶してるだけだったな」


 この部屋の識人はシルバーがあっさり葬ってしまった。この魔法陣の目的を知る術がなくなったかと思ったが、言われてみればまだ外の貴人たちがいる。


「トヨケ、大丈夫か?」


 トヨケに手を貸して起こしてやる。


「カズ……さん?」


 いまだ状況が飲み込めないらしく、トヨケの猫目はしきりに瞬きを繰り返している。


「立てるか?」


 訊くとトヨケはこくこくと頷く。

 カノミとよく似た真っ直ぐな髪は高い位置でひと括りにされていて、それが頷く動きに合わせてぴょこぴょこと動いた。


「助けに来てくれたの?」


「ああ、いや、配達に来た」


「配達?」


「腹減ってるだろ」


「お腹……減ってる」


 トヨケが少し恥ずかしそうに答えた。


「美味い物持ってきたぞ」


「おねーさんたちも大丈夫かい?」


 シルバーが優しい声で他の女性冒険者たちに話し掛けている。

 身を起こした二人はシルバーの姿を認めると驚いた様子を見せつつも何度も礼の言葉を口にした。


「そんな恐縮しないで。僕たちはただ配達に来ただけだから」


 シルバーも配達などとオレの言葉を真似てやがる。

 ん? ということは……


「チーズバーガー。ちゃんと三人分あるからね」


 シルバーが言った。


「ちょっと待っ……」


 トヨケの分、オレの分、シルバーの分で三つだったのだが、流石にこの場でトヨケとオレたちだけで食べるわけにもいかない。クソッ、味見もしてなかったのに。


「でもまた血が出ちゃったから、先に回復するね」


 その声が聞こえた途端オレの体も暖かい光に包まれた。癒しの息吹(ヒールブレス)は範囲効果のスキルなのだろう。別にケガはしてなかったはずだが、少し元気になったような気がする。


「それにしても悪趣味な……」


 言いながら魔法陣を振り返ったところで、ゾクッときた。

 理由は分からないが恐怖がオレの背筋を駆け上がる。

 そして気付いた。


「識人の死体がない……」


「何言ってんの、死体なんて元々ないよ」


「そっちこそ何言ってるんだ。お前があっさり四人殺したじゃないか」


「人聞きの悪い。人をサイコパスみたいに言わないで欲しいな。むしろ相棒があっさり人を殺すって考えてるカズのその発想の方がサイコパスだよ」


「いや、だってドラゴンなんだから人の命なんて軽いモンなんだろ? 実際に胸撃ち抜いてたじゃねえか」


「先に癒しの息吹(ヒールブレス)使ったでしょ。あの息がまだ一帯に漂ってたから、爪に貫かれたと同時に胸は治癒してたんだよ。

 まあ癒しの息はすぐに霧散しちゃって、回復も少しだけだったから、瀕死には違いなかったと思うけどさ」


「あ、息は敵も治しちまうのか」


「当たり前じゃん。息吹きかけてるんだから、治す対象選んだりとかできるわけないでしょ」


「あ、あそこ!」


 冒険者の一人が部屋の端を指差した。

 皆の視線が集まる。

 床から黒い一抱えほどの太さの大木が生えていた。いや大木じゃない。その先端には大きな掌付いていて、識人を二人わしづかみにしていた。


「腕だ!」


 手が識人をゆっくりと握りしめる。

 骨が砕ける鈍い音が響く。

 握り込むと次は指を緩め、そしてまた握り込む。


「手の平に口があるよ!」


 トヨケが叫んだ。

 手のひらに口がありその中にはビッシリと牙が生えていた。識人たちはただ握り潰されているわけではなかった。その口に食べられているのだ。

 

「あっちにも!」


 冒険者の一人が指さした方を見る。部屋の反対の端にも別の腕が生えていた。こちらも二人の識人を捕まえて咀嚼している。


「食ってるのか!? 何なんだ、コイツ」


「悪魔に決まってるじゃん。召喚してたんだからさ」


 オレの疑問に応えたのはシルバーだ。


「召喚は成功してたってことか」


「どうかな、途中で止められたから腕だけなのかも」


「シルバーなら勝てるか?」


「うーん、悪魔とケンカした事ないから分からないけど、女の子たちの安全を考えるなら、今のうちに逃げた方がいいかも」


 言われてみればそうだ。

 今のところ悪魔は識人に夢中だ。わざわざ戦う必要はない。


「チーズバーガーはお預け。乗って」


 シルバーがそう言ったのはオレに向かってではなかった。


「ペダルに一人立って、サドルと荷台に一人ずつ。三人なら何とか乗れるから」


「四人はムリか?」


「逆に訊くけど、四人乗りとか見たことある?」


「ないです。というか三人乗りもない」


「じゃあカズは走って」


「マジか」

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