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塀と衛兵

「じゃあ行きますか」


 通りに出て、オレはシルバーにまたがった。


 かなり久々だ。生まれ変わるぐらい久々だ。

 懐かしくも安心する感覚だった。転生前と全くなにも変わらない。デバッグがないのだけがなんだか落ち着かないが。


「シルベネートの場所は……」


「あ、大丈夫。カズの思考読み取るから」


「ぬ? 思考読み取るってまさかお前これまでも……?」


 頭の中で思い浮かべただけの疑問にも先まわりするかのように答えたりしていたから変だとは思ったのだが、思考が読まれていたのだとしたら納得がいく。思念伝達テレパシーって考えてみたらそういう使い方もできそうだしな。


「あ、別に思念伝達テレパシーでカズの思考を読んだりとかはできないからね」


「やっぱ読んでるんじゃねぇかっ!」


「そんな事よりも早く行こうよ。カズがちょっと気がある綺麗でおしとやかで強いお姉さんが待ってるよ」


「てめぇ、やっぱり読んで……いや何でもないけど」


「ムリなお願いをしてしまってごめんなさい。あの、本当にお気をつけてください」


 見送りに出てきているカノミが言った。


「僕たちはただ配達してくるだけだから」


「ああ、そうだただの配達だ。サーッと行ってサーッと帰ってくる」


「それ食べて待っててね」


 シルバーが言ったのはカノミのために作ったもう一つチーズバーガーの事だ。

 というか、オレとシルバーの分も作ったのだが。

オレたちの分はトヨケのとは別のバスケットでシルバーの異次元収納ポケットに入れてある。


 どうでも良い話だがシルバーはせっかく入れたピクルスを抜いてくれとダダをこねた。

 自転車のくせに好き嫌いがあるとか生意気なうえに贅沢なやつだ。


「行ってきまーす」


 明るい声でそう言ったのはオレではなくシルバーだった。





 商業区を抜けると住宅区であっても人通りはパタリと途絶える。

 そこでようやくオレたちは本気のスピードを出せた。


 ペダルのひと踏みで、シルバーは矢のように疾走する。


 視界の両側を過ぎ去るレンガ積み民家の街並みは、もはやその形を認識できずただの赤茶色の帯のようだ。

 転生前は原付きを追い越した事があったが、今のこれは高速道路だって走れるんじゃないだろうか。


 ていうか、これ漕ぐ必要あるのか。


「目的地までの到着予定時間は三分」


 シルバーが言った。


 ダンジョンまでは徒歩だと二時間はかかる距離だ。流石に三分はムリだろうと、思ったのだが


「着いたよ」


「着いたな」


 時計なんて持ってないので実際にどのくらいで着いたのかは分からないが、体感でカップヌードルにお湯を入れて待つ時間ほどの時間はたってない気がする。


「交通事故だけは気を付けてくれよ」


 こんな速度で人を轢いたら確実に殺人だ。


「そこは気を付けてるよ。

それに万が一の事があっても捕まるのは運転してたカズだから大丈夫」


「それ何も大丈夫じゃねえ。

運転もなにもオレは乗ってるだけだし」


「ちゃんと漕いでよね」


「漕ぐ意味あるか?」


「電動自転車でも自分でこがないと進まないでしょ。同じ事だよ」


「分かったような、分からんような。

というかムダ口叩いてる暇はないな。さっさとダンジョンに入るぞ」


 ダンジョンが街なかにあるとはいっても、流石に周囲に民家はない。


 大きな広場の真ん中に高い塀で囲まれた一角がある。ダンジョンはその塀の中だ。

 いくら危険性の低いダンジョンとはいえ、外から訪れる人や中に生息する魔物が自由に行き来できてしまうのはさすがによろしくない。

 周囲に塀を巡らせ、塀の門扉とダンジョンの入口に衛兵を置くぐらいの措置はしてあるというわけだ。


「中に入るのに手続きや金が必要というわけじゃないんだけどな」


 広場を突っ切り、塀の正面に口を空けている門扉へと向かう。

 流石に広場は憩いの場にはならないらしく、ほとんど人はいない。灯火の燃料やザイル等を売る道具屋や、回復薬ポーション、薬草等を並べる薬屋の露店がいくつか出ているだけだ。


 門扉脇に座っている衛兵は人が来ても一々対応はしない。あくまでもなにか事件が起きた時の対処要員なのだ。


 だが流石にシルバーが通る時にはぎょっとした表情を見せた。


「こいつは驚いた。メタルドラゴンの従魔かい?」


 オレも何度かここを通っているが話し掛けられたのは始めてだ。


 年季の入った鎧に身を包んだ髭が伸び放題の男だった。

 これまでは老人のような印象があったのだが髭と兜の間に覗いた愛嬌ある目からすると意外と若そうだ。


「メタルドラゴン? 本人はミスリルドラゴンって言ってるが」


「ええ、ミスリル!?」


 オレがそう問い返すと、衛兵はさらに驚いた顔になって椅子からぴょんと立ち上がった。

 リアクションの豊かなやつだ。


地竜アースドラゴンの中の石竜ストーンドラゴンの中の鉱竜メタルドラゴンの中の魔法銀竜ミスリルドラゴンなんだよ。まあどこかの暇な人間が勝手に決めた分類だけど」


 シルバー本人がそう言ったので、衛兵はさらに驚いて口をあんぐりと開けた。


「でも従魔ってのじゃないんだ。

なんだろ、相棒だから相魔? なんかそんな感じだけど、ちゃんと躾してて人には危害加えたりしないから安心してくれ」


 オレがそうつけ足す。


 ふつうに考えてドラゴンとか怖いよな。こういう場では躾けてある事を強調しておかないと。


「相魔ってなにそれ。熱い友情系みたいなの? そういうの本当に恥ずかしいんだけど」


 相魔がそう言ってぷいとそっぽを向いた。

 なんだツンデレキャラなのか。

 いまいちよく掴みきれないが躾云々の部分を突っ込まれなくて良かった。


「まあいちおう言っておくが、ダンジョン内は貴重な遺跡でもあるから破壊や改造は控えてくれよ」


「分かってる。

あ、そうだ。三日前に調査目的で入った集団を覚えてないか?」


 ふと思いついて訊いてみた。


「ああ、いたな。

あんまりジロジロとは見ちゃいないが、貴人と識人が五、六人に護衛らしき冒険者が三人。

冒険者が女だけのパーティだったから覚えてた」


 女だけで構成されるパーティ自体は珍しくはない。その逆もまた然り。

 男女が混ざる事で起こる恋愛関係のゴタゴタを嫌う冒険者はけっこう多いのだ。


 だけど、貴人と聞いてオレはなんとなく嫌な予感がした。





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