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チーズバーガー

「まあ配達(デリバリー)が僕らの本職だしね」


 シルバーが言う。声が少し笑っているような気がする。

 あれ、フードデリバリーがオレの本職だったけか。

 まあいい、スピードが売りのDIVA Üz(ディーバー・ウーズ)だ。今はどうでもいい事をゴタゴタ言ってないで、腹を減らしてるトヨケのためにさっさと配達すべきだよな。


 だけど、なにを運ぼうか。

 とりあえずディーバーが配達するとしたらアレかな。


「生の肉ってあるか?」


 カノミに向かって訊く。


「え、生肉ですか。ちょうど干し肉を仕込もうと思って今朝仕入れたやつがありますけど」


「じゃあそれをくれ。そんなに量はいらない。

それとここ、焼き締めてない柔らかめのパンが売ってたな。それをひとつと普通の硬いやつもひとつ。

ミルクと玉子、あとチーズがあればそれも」


「え、えっと、はい」


 事態を呑み込めないままでも、一気に言われたいくつかの食材を手際よく用意するあたり、カノミはプロフェッショナルだなと思う。


 オレは店頭にあるカゴに盛られていた玉ねぎを一個取り、次いで棚の瓶を順に物色する。


「シルバー、異次元収納(ポケット)からさっき買ったフライパンとナイフを出してくれ。

カノミ、調理場借りてもいいか?」


「あー、そういう事か。分かったよ」


「調理場はどうぞ好きに使ってください」


 シルバーの前カゴにフライパンとナイフが現れる。

 それらを取り上げて調理場に入る。


 まずは豚の塊肉を削ぎ切りして薄切り肉を数枚取る。

 あまり量が多いと作業が大変だし、使うのはこれだけで十分だ。

 薄切り肉を縦方向に細切りにし、次いで横方向にも切ってみじん切り肉にする。

 さらにタンタンタンタンとナイフで叩き、より細かくしていく。

 ナイフはさすがに素晴らしい切れ味だ。肉の繊維に対して水平に切ってもスッと刃が通る。


 肉についての知識は持ち合わせていないが、この程よい脂身の入り方からしてバラ肉あたりだろうか。肉のしっかりした味わいとジューシィな肉汁を備えた良いミンチになりそうだ。

 続いて玉ねぎをみじん切り。

 硬いパンも包丁で小さく切ってから、さらに叩いてみじん切り……というかパン粉を作る。


「なかなか手際がいいね。ひき肉の手作りとかそんな暇人なことしてたの?」


 シルバーが言う。

 どうしてこいつは自転車のクセにひき肉とか分かるんだろう。


「こっち来てからはやってない。生肉なんて普通は中々売ってないしこんな良いナイフも持ってなかったしな。前はたまに休みの日なんかにやってみてたんだよ」


「さすがはボッチ。他にも何時間煮込んだカレーとか、餃子を皮から手作りとかして、掲示板とかにアップしてたんだろうね」


「そんなこと……やってないとも言い切れないな」


 ひき肉と玉ねぎ、パン粉をボウルに入れ、さらに玉子と塩、棚の瓶詰の中から見つけた胡椒、ナツメグを加えてよく混ぜる。

 ひき肉は最初に粘りが出るまで捏ねるといいのだが、今回はナイフで叩いている間に同じような効果が得られていたので、それは省略。

 あと、本来ならば玉ねぎは飴色になるまで炒めてから使いたいところなのだが、時間がないのでそれも省略。

 実際のところ、細かいみじん切りにしていれば、肉を焼くときに玉ねぎにもしっかりと火が入るので、そこまでの違いはでない、はず。

 小判型に成形したタネをフライパンに並べで、火を入れたかまどの上に乗せる。


 やがてハンバーグはじゅうじゅうと美味しそうな音と肉の香りを放ち始めた。


「そろそろかな」


 ハンバーグにはこんがりと焼き目が付いて、肉汁が滲みだしていた。

 フライパンの表面が滑らかであるからか、焦げ目も均一に付き、焦げ付きもない。火の通りも良さそうだ。


 トングでハンバーグを取り上げる。


「おっと、肉汁もったいねえ」


 慌てて、切っておいたパンに挟む。肉汁がパンに染み込む。これならバター要らずだ。

 すかさず、挽いた胡椒をたっぷりと、これまた棚の瓶の中に見つけたトマトソースをかけ、薄切りにしたチーズと瓜のピクルスも追加。

 焼けた肉と胡椒の香ばしい香り、トマトソースと溶けたチーズの濃厚な香りも相まって空腹でもなかったのに腹が鳴る。


「出来た! ワックより美味いチーズバーガーの完成だ」


 合い挽きミンチではないのが残念だが仕方ないだろう。ここでは牛は農耕用で肉としてはほとんど食べられないのだ。


 カノミからバスケットを借りて、ハンバーガーをその中に入れる。

 それをシルバーの前に突き出す。


「これ崩さずに収納できるか?」


「当たり前だよ。保温もできる。デバッグを舐めないでほしいね」


 言うやいなやハンバーガーの入ったバスケットが消えた。使い方によってはこれかなりヤバいスキルなんじゃないだろうか。


「あとは、ワインをくれ。樽ごともらおうか。あるか?」


 カノミに向かって言う。


「樽でですか。ひと樽まるまるはありませんが」


「じゃあ残ってる分だけでいい」


 チーズバーガーはトヨケのためだが、他の調査隊の人間にも水分ぐらいは持っていってやろう。

 シルバーの異次元収納(ポケット)ならサイズや重さを考慮しなくて良いのだ。本当に物流の仕事を始めるべきじゃないだろうか。


「シルバー、カノミと貯蔵庫に行って樽貰ってきてくれ」


 店の奥の貯蔵庫からカノミに店内まで樽を運んでもらうよりも、シルバーが受け取りに行く方が早い。


「竜使いが荒いなあ」


 ボヤきながらもシルバーはカノミと一緒に奥の扉に向かう。


「ワインの代金はまた後日払うから安心してね」


 戻ってきたシルバーが太っ腹な事を言っている。

 ワインの代金に関しては調査隊の人間が喜んで払うだろうと考えてたのだが、こいつには爪というかグリップを売り払った儲けが入るんだった。成金自転車め。


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