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竜の目の泪

「流れ星じゃないって、じゃあ何なんだ?」


 空の彼方へと落ちてゆく光球とラシオンを交互に見ながら訊く。

 たしかに昼間に見える流れ星というのも珍しい気はする。サイズも大きい。たしか大きい流星を火球とかいうんだっけ。

 そんなことを考えたが、ラシオンの答えは意外なものだった。


「あれは恐ろしいものだわよ」


「ミスリルドラゴンが恐れるものなのか?」


「街にいる時に別の人間と竜の郷がどうとか話してたわよね」


 オレの言葉には直接答えず、そんな事を言う。

 一瞬なんの話しなのか理解できなかったが、少し遅れて思い当たる。オレがアガトに竜の郷を知っているかと訊いた時の事だ。あの場にラシオンもいた。アガトの言葉が分からず会話の流れを理解できなくても、ラシオンはオレの言葉だけは理解できるのだ。


「やっぱりラシオンも竜の郷を知っているんだな」


「もう無いわよ」


「え」


「あれにやられて滅びたわよ」


 ラシオンのいうあれ、流星は今まさに遠くの空に消えていった。

 竜の郷が流星にやられて滅びた――何かの例えだろうか。そういえば流星だったか彗星だったかが墜落して街が滅びたような話がアニメでもあった気がするが、そういう災害がこの世界でも起きたのだろうか。


「いつの話しだ?」


 別に心配をするわけではない。あの規格外のママチャリが彗星だか流星だか程度で死ぬことなんてないだろうし。それでもそう訊かずにはいられなかった。

 ところが返答は予想外の言葉だった。


「三か月ほど前だわよ」


「嘘だろ」


 三か月前ということは、オレとシルバーが再会した日よりも更にひと月以上は前ということになる。

 シルバーはまったくそんな事は言っていなかった。しかも少し前に里帰りするといってペンディエンテを発ったのだ。


「だってシルバーは何も言ってなかった」


 思わず口走った言葉にラシオンが食いついた。


「シルバーって、あなたシルバー様を知ってるのわよ!?」


 何らかの繋がりがある事は予想はしていた。だから面倒を嫌ってオレはシルバーの名前を出さなかったのだ。

 しかしそれを今強く後悔した。

 ラシオンがぽろぽろと涙を零したからだ。


「シルバー様は今どこにいるのわよ? ご無事なのわよ?」


 ラシオンは飛び掛からんばかりの勢いで訊く。


「どこにいるかは分からない。でも無事は無事だと思う。シルバーとはどんな関係なんだ? なんで“様”付けなんだ?」


「シルバー様はあちしの婚約者フィアンセだわよ」


「あー、そっか。やっぱりそういう……」


 意外というほど意外でもなかった。あのママチャリは竜の郷ではモテてるような事も言っていたし。

 むしろそういう濃い関係である可能性があったから深く関わりたくなかったのだ。

 だけど、これほどにシルバーの事を心配しているというのならば話しは別だ。一体何があったのか。


「あなたこそ、どうしてシルバー様を呼び捨てにしてるのわよ」


 それこそ説明が難しい。前世で愛車だったって言ってもきっと理解はしてもらえない。では今世ではいつ知り合ったかといえば、ペンディエンテで貴人にボコられたオレをシルバーが介抱してくれた時が初対面なのだ。


「ひと月ぐらい前にオレが住んでた街でたまたまシルバーに助けてもらった事があって、そこで意気投合してしばらく一緒に住んでたんだよ」


 完全に事実しか言っていない。不自然な点があったとしてもこれで納得してもらうしかないだろう。


「ひと月前……。じゃあシルバー様は無事だったのわよね」


 言うとラシオンは再び大粒の涙を落した。

 竜も感情が動くと涙を流すんだなと、妙なところで感心した。


「だからそう言ってるだろ。まあ流星が落ちてきた程度であのシルバーが死ぬとは思えないけどな」


 三か月前に流星が落ちてきた時、シルバーはすでに郷を出ていたのだろう。帰る郷を失ったために流浪し、ペンディエンテに来たのかもしれない。

 そう考えたのだが、ラシオンが向けてくる視線に違和感を覚えてオレは聞き返した。


「どうしたんだ?」


「流星なんかじゃないわよ。あれは天使わよ」


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